Yの悲劇
THE TRAGEDY OF Y (1932)
☆事件
富豪ヨーク・ハッターの死体がニューヨークの港にあがった。その後、狂気じみたハッターの邸で奇怪な惨劇が起り始める。子供が毒物の入った飲み物で危うく命を落としそうになり、未亡人がマンドリンという奇妙な凶器で殺害されたのだ。名探偵ドルリイ・レーンはその驚愕すべき完全犯罪の解明に挑むが……。犯罪の異常性、用意周到な伏線、明晰な論理性と本格ミステリに求められるすべてを備えた不朽の名作。(ハヤカワ文庫『Yの悲劇』カバー紹介文より)
☆登場人物リスト
ヨーク・ハッター・・・化学者
エミリー・・・ヨークの妻
バーバラ・・・ハッター家の長女
ジル・・・次女
コンラッド・・・長男
マーサ・・・コンラッドの妻
ジャッキー・・・コンラッドの長男
ビリー・・・次男
ルイザ・キャンピオン・・・エミリーと前夫との娘
メリアム・・・ハッター家の主治医
トリヴェット・・・元船長。ハッター家の隣人
ミセス・アーバックル・・・家政婦
ジョージ・アーバックル・・・その夫。住込み運転手
ヴァージニア・・・メイド
ミス・スミス・・・看護婦
エドガー・ペリー・・・家庭教師
ジョン・ゴームリー・・・コンラッドの共同経営者
チェスター・ビギロウ・・・弁護士
ピンカッソン・・・刑事
サム・・・警視
ウォルター・ブルーノ・・・地方検事
シリング・・・検屍医
ドルリイ・レーン・・・元俳優。探偵
クェイシー・・・扮装係
フォルスタッフ・・・執事
ドロミオ・・・運転手
☆コメント
ヴァン・ダインの某作品と比較されがちな(クリスティーも後で似たような着想の作品を書いていますね)『Yの悲劇』ですが、もちろんこの作品のメイン・プロットは全然別のところにあります。『オランダ靴の謎』の中でエラリイが書いていた探偵小説の題名を覚えていますか?
この作品では『Xの悲劇』で登場したドルリイ・レーンのキャラクターがより深化しています。元シェークスピア俳優という設定からか、『X』では変装など芝居がかった点も目に付きましたが、『X』の場合それ自体クイーンによる演出の効果という意味合いもあったと思います。今回も変装の計画はあったのですが、断念していますね。それは、この作品での苦悩するレーン像にふさわしくないとの判断が働いたためかも知れません。それに第三幕第八場にはどうしてもレーン氏本人の存在が不可欠でしょう。
『Yの悲劇』では事実上第二幕の終りでレーンは真相にたどり着いています。第三幕第二場まで読めば、驚愕のプロットが明らかになり読者も真犯人に気づくでしょう。
第二幕までは犯人のゲームでしたが、第三幕からはレーンのゲームになります。この第三幕でのドルリイ・レーンの描かれ方が悲劇四部作の核心をなしていると思います。けれんみたっぷりの役者から、一人の人間への転換がここでなされていると言ってよいでしょう。
一人の人間と書きましたが、それは現実の人間というよりは、「悲劇の主人公」と呼ぶにふさわしい人間像です。
ドリリイ・レーンは「シャーロック・ホームズの風貌とポワロの味、それにエラリイ・クイーンの推理方法」を持った知的な探偵の役を立派にこなし、さらに“ハムレット”にもなりきれる人物ですね。
ところで礫を投げたい所が一箇所。第一幕第四場(創元推理文庫版)でのレーンさん、ルイザのベッドのスプリングを押して「音がしますな」はないでしょう。ハヤカワ文庫版だと「かなりの音だ」だって・・・><
(yosshy)
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