ギリシャ棺の謎
☆原題
The Greek Coffin Mystery
1932年刊行
☆邦訳
『ギリシャ棺の謎』井上勇訳(創元推理文庫)、『ギリシャ棺の秘密』宇野利泰訳(ハヤカワ文庫)他
☆事件
葬儀のとりおこなわれている間に、故人の遺言状が消えた!その遺言状は、死亡の前日に書き換えられたものだった。ただちにさまざまな捜索が行なわれたにもかかわらず杳として行方のわからない遺言状の在り処について、唯一探索されなかった場所として、エラリイは故人の棺の中を指摘する。だが、棺を発掘して開いて見ると、遺言状は発見されず、そのかわりに男の絞殺死体が出てきたのだった。
大学を出てまもないエラリイが初めて捜査に参加した事件は、簡単なものではなかった。最初は殺人犯の植えつけた偽の手がかりの罠にかかり、翻弄され挫折を味わうエラリイ。二転三転する事件は、まさに犯人とエラリイの知恵くらべの様相を呈する。エラリイは、いかにして犯人を追いつめ、この闘いに勝利するのか?
☆登場人物リスト
ゲオルグ・ハルキス・・・美術商
ギルバート・スローン・・・ハルキス画廊支配人
デルフィーナ・スローン・・・ハルキスの妹
アラン・シェニー・・・デルフィーナの息子
デミー・・・ハルキスの従弟
ジョアン・ブレット・・・ハルキスの秘書
ジャン・ヴリーランド・・・ハルキスの外交員
リュシー・ヴリーランド・・・ジャンの妻
ネーシオ・スイザ・・・ハルキス画廊の理事
アルバート・グリムショー・・・前科者
ワーディス医師・・・英国人眼下医
マイルズ・ウッドラッフ・・・ハルキスの弁護士
ジェームス・J・ノックス・・・美術愛好家
ダンカン・フロスト・・・ハルキスの主治医
スザン・モース夫人・・・隣人
ジェレミア・オデール・・・鉛管工事請負人
リリー・オデール・・・ジェレミアの妻。旧姓モリスン
ジョン・ヘンリ・エルダー・・・牧師
ハネーウェル・・・寺男
スタージス・・・葬儀屋
ウィーキス・・・ハルキスの執事
シムズ夫人・・・ハルキスの家政婦
バーニー・スキック・・・飲み屋のおやじ
ベル・・・ホテル・ベネディクトの夜勤番頭
ホワイト・・・ホテル・ベネディクトのエレベーター係
クラフト・・・ノックスの執事
トビー・ジョーンズ・・・美術批評家
ペッパー・・・地方検事補
サンプスン・・・地方検事
コーハラン・・・地方検事局付き刑事
サムエル・プラウティー・・・医務検査官補
エドマンド・クリュー・・・建築専門家
ユナ・ランバート・・・筆跡鑑定家
ジミー・・・指紋専門家
トリッカーラ・・・ギリシャ語通訳
フリント・・・刑事
ヘッス・・・刑事
ジョンスン・・・刑事
ピゴット・・・刑事
ヘイグストローム・・・刑事
リッター・・・刑事
トマス・ヴェリー・・・部長刑事
ジューナ・・・クイーン家のなんでも屋
リチャード・クイーン・・・警視
エラリイ・クイーン・・・クイーン警視の息子
☆コメント
良く言えば、複雑で読みごたえのある作品。長くてまわりくどいという捉えかたもできる。犯人の意図とは無関係に動く怪しい人物が複数出没するなど、従来の作品より複雑なプロットになっているうえに、犯人が次から次へと繰り出してくる小細工とエラリイの幾何学的論証の連発に、もうお腹いっぱい。
『ギリシャ棺の謎』は、エラリイと犯人の知的レベル(あるいは精神的なレベル)が絶妙のバランスを保つことで成り立っている、というか、そのように作られた作品という感じがする。従来の作品では、犯人は警察を意識した偽装だけを考えていたが、今回の犯人はエラリイの思考方法を先読みして裏をかくようなトリックを仕掛けてくるので、いきおいエラリイの推理も一筋縄ではいかなくなる。
だが、今回の犯人の行動には首を傾げたくなるところもある。死体をわざわざ棺の中に隠したり、偽の手がかりを植えつけたり、とにかく不必要な小細工が多すぎるのだ。犯人は策に溺れて自ら墓穴を掘っているとしか言いようがない。そして、このような犯人の行動の背後には、いつも作者の都合が見え隠れしていることは言うまでもない。
推理の問題としては、『ギリシャ棺の謎』は、よく作られた難問と言えるだろう。物語としては、プロットが作為的すぎるように思えるが、それはまた長所の裏返しとも言える。
それに、物語・文学的な面でも、人物造形などが従来の作品よりうまくなっていると思えるところがある。たとえば、ジョアン・ブレット嬢のキャラクターは、フランセス・アイヴス・ポープ嬢、マリオン・フレンチ嬢、ハルダ・ドールン嬢、ジーン・ドウィット嬢といった令嬢タイプの女性とはことなり、生き生きとした魅力のある人物として描かれている。
(eirakuin_rika)
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