EQペディア/エラリイ・クイーン事典

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スペイン岬の謎

2007年06月20日 | 長編ミステリ

スペイン岬の謎

☆事件

さすがの名探偵エラリイ・クイーンも、その奇怪さには言葉が出なかった。悪名高いジゴロの死体は海に向かってテラスの椅子に腰掛けていた。黒い帽子を被り、舞台衣装めいた黒のマントを肩から掛け、ステッキを手にし……あとはまったくの裸だった!大西洋に突き出した岬に建つ大富豪邸で起きた殺人事件。解決に乗り出したエラリイを悩ませる謎はただひとつ--なぜ犯人は被害者の服を脱がせたのか?(ハヤカワ文庫『スペイン岬の秘密』カバー紹介文より)


☆登場人物リスト

ウォルター・ゴドフリー・・・スペイン岬の持ち主
ステラ・ゴドフリー・・・ウォルターの妻
ローザ・ゴドフリー・・・夫妻の娘
デーヴィッド・カマー・・・ステラの弟
ローラ・カンスタブル・・・太って。気違いじみて。四十歳
アール・コート・・・ローザ・ゴドフリーの婚約者
ジョン・マーコ・・・ジゴロ
セシリア・マン・・・元ブロードウェー出身
ジョーゼフ・A・マン・・・元アリゾナ出身
キッド・・・船長、土地の人
ペンフィールド・・・弁護士
ハリー・ステビンズ・・・土地のガソリン商
ホリス・ウェアリング・・・留守の隣人
バーリー・・・家政婦
ジョラム・・・雑役夫
ピッツ・・・ステラ付きの小間使
テイラー・・・家僕
マクリン・・・休暇中の判事
モリー・・・地元の警察官、警視


☆コメント

なぜ犯人は被害者を裸にする必要があったのか?1935年に発表されたこの作品も、前作『チャイナ橙の謎』同様、短編ミステリ的な「奇妙な状況」が謎解きの中核をなしています。犯人は被害者の衣服をどう処分したのか、という派生的な問題も生じますが、やはりメインの謎は「なぜ、こんな状況を作り出す必要があったのか」ということにつきるでしょう。この謎は、犯行の動機を探る通常のホワイダニットとは異なり、純粋にロジカルな問題として提起されています。被害者は泳いでいたわけではない。にもかかわらず、下着にいたるまでの着衣が見当たらないのはなぜか?唯一の例外は被害者がまとっていたマント(cape)です。このマントの存在がエラリイの推理を混乱させる要素になります。まさに“Spanish Cape”の謎です。
謎そのものは短編ネタで、長編のプロット内部に作品全体の「謎」を解明する論理が構成されている『フランス白粉の謎』や『オランダ靴の謎』のような作品と比べると様式美の点でもの足りなさを感じるのはいたしかたないことでしょう。短編謎解き+長編メロドラマという構成は、前作『チャイナ橙の謎』をそのまま踏襲していると思われます。前作の場合謎解きの部分の非凡さと中間のメロドラマ部分の凡庸さのアンバランスが目立ちましたが、今回はほどよく調和がとれていて、謎解き小説としては小粒ではあるものの、物語全体としての完成度は前作よりすぐれていると感じました。私の個人的な印象ですが、雰囲気としては『エジプト十字架の秘密』に近いものがあったように思います。リチャード・クイーン警視が登場せずに地元のモリー警視が捜査の指揮にあたったこと、マクリン判事の役割が『エジプト十字架』のヤードリー教授を思わせたことなどが表面的な理由ですが、もう一つは作者のストリーテリングの技量に負うところが大きいと思います。仮に犯人がすぐわかってしまっても、物語そのものを楽しむことができます。特に被害者ジョン・マーコの人物像がきちんと描かれているところは、「いわゆる現実派」のミステリと比べても遜色ないといえるでしょう。『チャイナ橙』の被害者が、死体の役割を果すためだけに登場した無名氏だったのに比べ、今回の被害者はきちんとドラマ全体の中心にいます。犯行の動機は「復讐」と並ぶお馴染みのもので、ロマンチックであると同時に「現実的」なものでもあります。。
物語性ばかりを評価しているように受け取られるかもしれませんが、犯人のトリックや謎の解明の論理にも破綻がなく、よく出来た作品だと思います。
(yosshy)
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