わがきつる かたもしられず くらぶやま きぎのこのはの ちるとまがふに
わが来つる 方もしられず くらぶやま 木々の木の葉の 散るとまがふに
藤原敏行
自分が来た方向さえわからない。くらぶ山では木々の木の葉が散って視界を紛らせてしまうから。
「秋歌」収録の歌ですから、舞い散って視界を遮り、来た道すらもわからなくしてしまうのは赤く色づいた紅葉でしょう。そのまま想像すると、暗い山の中で真っ赤な葉が舞い散る幽玄な情景が思い描かれますが、それは美しくライトアップされた現代の光景を無意識に思ってしまうためでしょうか。あるいは、月明かりだけが照らす中で紅葉の葉が舞い落ちる情景は、より一層幻想的であったのかもしれませんね。