しらゆきの ところもわかず ふりしけば いはほにもさく はなとこそみれ
白雪の 所もわかず 降りしけば 巌にも咲く 花とこそ見れ
紀秋岑
白雪が、場所を選ぶこともなく降り敷くので、花など咲くはずもない巌にも花が咲いたように見えることだ。
あたり一面に降り積もる雪を花と見立て、まるで岩の上にまで真っ白な花が咲いているようだという詠嘆の気持ち。風情ある一面の雪景色が目に浮かんできますが、詞書には「志賀の山越えにてよめる」とあり、作者は降り積もり雪を踏み分けて山越えの途上にあります。息が上がってふと立ち止まり、目線を上げてみるとそこに一面の雪景色が広がっていることに今更ながら気づいた、という感じでしょうか。
作者の紀秋岑は、0158 以来久々の登場。古今集への採録はこの二首のみで、生没年も含め、どのような人物だったのかは良くわかっていません。