『ヨミガエルガール・ジャスティス』① OUT OF LIMITS
『ヨミガエルガール・ジャスティス』②LOOK AT ME!
「今朝は大変だったねーー」
「夕べのお客はんが身投げするとはおもわかったどすーー」
「夕べ、こころあたりあったの?」
「妙なこと申してるとは思ってたどすけど、元旦早々にとは思わなかったどすーー。それでも気にしていたのどすから。今朝お部屋に朝食をご一緒にと、どないと思いましてどすなーー。お顔を出しに行ったらもうおれへんで!もう、たまげたどすーー」
「おつつ殿?」
「はいどす?」
「あまり自分を責めんようになーー。お客さまが待ってるで、今日もよろしく頼みますわーー」
「おおきに。では参りまっせどすなーー」
「お待たせいたしましたどす。おつつでござりまするどすーー」
「おつつさま。しばらくぶりでございますーー」
「相変わらずお綺麗ですなーー」
「きゃっ!!」
「Mッ!MJ!なッ!なんのようじゃ!」
「そんなに!(ビックリ)フェイスしなくともよいではないですかーー」
「なんのようじゃMJ」
「おつつさまの自由は僕の自由。MJ断崖。お芸者というものを見物したかったのですよ」
「悪いがチェンジしてくれどす。今日はそのような気分ではないどす」
「僕のことをまだ恨んでおるんですかーー。あれは師匠の命令だったのですよ」
「そのような気分ではないどすと申したではないか。MJ断崖だからこそ、正直に言っておる。許せどす」
「申し訳ございませぬ。あのときは何度も申し上げたのでございますが、おつつさまの旦那さまがなんとも強情なお方で、お救いあげられませんでしたーー」
「追い詰めたのはおまえじゃろ‥‥‥」
「そのようなことはございませぬ。ただ、師匠がお怒りになったまでに。あのときは申し訳なかったと今日お詫びにきたのです」
「グルメなコピーどすでなーー。あれで大量に宣伝されたらどす、一溜りもなかったどすわーー」
「師匠の悪知恵でございまする。しかし、おつつさまの旦那さまも悪人でございますぞ。なぜ、師匠を裏切るようなことをしたのでございます。師匠のほうがあのとき先にお命が危なかったでございますぞ」
「兄も死におったでどす」
「あの時、僕が師匠の事務所をほぼ助けあげました」
「MJ?おまえどすには礼を言う‥‥‥」
「お礼はこのMJ断崖と夫婦(めおと)になっていただけませんか?師匠&旦那さまの分までラブをいたしまから‥‥‥」
「おまえどすの童貞を奪った者がいるどすではないか」
「もうフラれましたーー」
「あはははーー。これは良きことを申し上げますどすえ」
「な、なんでございますか?」
「おつつは芭駄々(バダダ)と夫婦(めおと)になるのどすえーー」
「芭駄々と!」
「ヒーローコスチューム生産。ヒーロー興業。ヒーローアパレル界では芭駄々に敵う者はないどすえーー。兄もあの電飾コスチュームで芭駄々がいなかったらあれだけのヒット作にはならなかったどすわ。MJ?おまえもあの時がなかったら兄の下働きもできなかったどすであろう。あははは。芭駄々の童貞はこのおつつが奪ったどす。夫婦になってどすもよかろうなMJ断崖?」
「おつつさまーー。堪忍ですわ。堪忍してくださいなーー」
「チェンジどすな。ほな、おいとましますどす‥‥‥」
「クソー!!芭駄々めえーー!!」
「チェンジですなーー」
「あのーー。巨乳にしてください」
「巨乳?聞いたことないなーー」
「ワタシームなんです」
「ワタシーム?聞いたことないなーー」
「MJがゆるドール攻勢かけおった。ワタシームまで流行らしおって」
「ヒーロー興業はどないしはりますどす?」
「ヒーローコスチュームはゆる人形化してしまった。ヒーローイベントの催事も下火だ。コスチュームアパレルも不渡りを出してしまった。興業事務所もだ」
「MJに断崖とつけたどす。兄が悪いどすよ」
「追い詰められたなーー。一度、巨乳に行くと見せかけてこれだ。成長したなMJも‥‥‥」
「ゲームでもするか‥‥‥」
「ゲームどす?」
「子猫ちゃんを乗せてゲームだ。大河が眺める崖まで行こう」
「飼い主はMJじゃないどすえ。芭駄々、あなたどす」
「このまま突っ込めば大河にふわーと落ちて一巻の終わりだ」
「よーし!突っ込むぞ!」
「もうひとりは手遅れだった。気の毒に‥‥‥」
「ね…こ…が…乗っ…て…なか…った…」
「はーい。おつかれさーん」
「いらっさいませーー」
「お部屋、どこかなーー」
「二階のサクラ餠の間でございます」
「はーい」
「いいの?あのお部屋で・・・・・」
「この頃、あの部屋出るって聞いたよーー」
「いいわ。いつものことだから。お客さまがお疲れになって不機嫌なときはいつも言われてることだから。逆に商売がうまくいったとかも聞くし」
「あのお客さま有名人だし、福の神かもね‥‥‥」
「この服でいい?」
「行くの?」
「うん」
「‥‥‥」
「やあーー」
「ねえ、ココ行かなかった?」
「来たよ。なんで?」
「ほんとに行ったんだーー」
「なに失笑してるんだよ」
「わたしあんたのこと昔からわかってるけど‥‥‥」
「最近ココたちとボーリング行ったり、この辺をウロウロしてたし、ココはあんたの幼馴染のことも気にしてたけどさーー」
「なんでもないのはわかってるだろ」
「あはは。おかしいーー」
「いいだろ。じゃな‥‥‥」
「先輩、今晩泊めてくれます?」
「何かあった?」
「先輩とわたしのお姉さん同級生でしょ。お姉さん、クスに目つけてて。クス、先輩のことも知ってるって言ってたから。それで意気投合して、地元でボーリング行ったりもしてたんだけど、お姉さんにも紹介するのもいいし、わたしも獲っちゃおうかと思って」
「大胆ねーー」
「くじみたいなもんだし、捨ててもいいかなってね」
「それで花見城まで来たんだーー」
お姉さんの分の品物買ったあとに、自宅まで一緒におくってもらうことで会ったんだけど。
「カーテンとかないんだ。外からだとまる見えじゃん」
「まだ引っ越したばかりで何もないんだ。荷物どこまで運ぶんだ?」
「わたしんち。お姉さんも自宅暮らしだから」
「夕方になるとあれだな、急がないと」
「お腹すいたーー。これ、食べていい?」
「あゝいいけど」
「食べてからね」
時間延ばして泊まっていこうかと思ってて‥‥‥
「食べた食べた。ちょっと寝っ転がるね」
「床掃除してないから服が汚れるよ」
「気にするほど汚れてもないよ」
そうこうしてるうちになんとなくいいムードになってたんだけど‥‥‥
「おい、クス。なにしてる?暇だーー」
クスくんの友達のルクスくんが遊びに来てさーー。
飛んだお邪魔虫だった。
「で、そのあとあたしのところに来たってわけ?」
「クスくんとルクスくんとで荷物運んで届けてもらうことにした」
「おい返せばよかったのに」
「もうやだ!PCR検査までして来たんだよ!」
「さっきまでクスとか言ってて、途中でクスくんとか言っちゃってさ。『くん』つけるぐらいの距離でいいんじゃないの」
「先輩泊めてください」
「朝の始発で帰るんだよ」
「はあーー。もうやだ‥‥‥」
「今日の撮影はもうないだっちな」
「おつかれーー」
「おつつさんのお墓知ってるだっちか?」
「ああ、前に見に行ったことはあるよ」
「わっち見たんだっちよ」
「何が?」
「おつつさんのお墓で人影をだっち」
「えッ!こわ!マジ?亡霊か、もしかして‥‥‥」
「‥‥‥」
「ルクスさんまだバイト終わってないかな。ん?‥‥‥」
「ここだけの話しだっち。人影を追って見ただっち」
「そ、それでーー?」
「ルクスが子供の頃に遊んでたとか言ってただっち、カッパが出るって言ってたそのカッパ池があるところまで行ったのだっち」
「あの辺は悪党どもがたむろしてるから。最近はあまり行けてないや」
「わっちはその日、カッパ池まで行って見たらだっちよ。池に木像が縛られて浮かんでたんだっち」
「木像が縛られてただって!」
「その下にはなんとだっち。かんおけが見えたんだっち!!」
「かんおけ!」
「おつつさんは、誰かに沈められたんだっちよ」
「おつつさんは川で水死したと聞いてるから。沈んだのは間違いないと思うよ」
「そのあとだっち。墓に埋葬されずに池にかんおけごと沈められたのだっち。縛った木像まで置かれて、ありゃーいかんだっち」
「ここ最近、見たこと?」
「わっちは最近見たばかりだっち」
「誰かが墓を掘り起こしてまで、そんなことをしたのかなーー」
「おつつさんはだっち。元々花見の人ではないだっちよな?」
「なんか聞いた話しだと、お兄さんが著名な人だったけど、亡くなってしまってから芸者をしてたって聞いたことがある。何らかの理由で花見まで来て死んだんだと聞いている」
「せめてだっち。お骨のひとつでもおつつさんの実家にでも届けてあげたいだっちなーー」
「よくホテルにはおつつさんが出た!とか聞くからね。うちもアパート経営だし、変な噂が立つと嫌だなーー」
「ちょっと。ココ?ここで居眠りしないで」
「あゝ。クスはまだ帰ってこないかなーー」
「帰って来てもまたお邪魔虫と遭遇しちゃうんじゃない。今日はお風呂入って着替えて寝たら?花見じゃなくて、あなたの地元で会いなさいよ。今度はね」
「めんどくさい。もう寝る‥‥‥」
「最終列車には間に合ったなーー」
「ルクス。今日はありがとな。俺コンビニに寄ってから帰るよ」
「じゃなークス」
「じゃなールクス」
クスは、ええと、本名は坂野目陸(さかのめりく)リクがいつのまにかクスと呼ばれるようになったらしい。幼い頃からクスと言われてきたらしく。僕と初対面のときも、クスの方が先であとから本名まで聞かされた。ココという名の女性は、クスの地元のハイスクール時代に知り合った仲だったらしい。ハイスクールが冬休みのときに地元で帰省中にジュニアハイスクール時代の友達を通じて知り合ったと言っていた。今日はココという友達と買い物をして自宅までおくって行く予定だったらしいが、僕がクスの部屋に訪ねてから急遽、僕が荷物運びを手伝った。今思えばなぜなんだろう‥‥‥。
「なんでだろう・なんでだろう。ななな、なんでだろうーー。古いか」
「ルクスさん、あッ通り過ぎちゃった」
わたしはコンビニで買い物をし終えたときに、ルクスさんとすれ違った。何かふたりで立ち話ししてるのが聴こえきた。『クス』ってお友達かなーー。ちょっとコンビニの外で待って聞いて見ることにした。
クスさんがコンビニから出で来た。
「こんばんはーー」
「こ!こんばんはーー」
「あの、ルクスさんのお友達ですか?偶然さっきそちらで見かけたので」
「え、あ、はい。何か?」
「わたし、ルクスさんにお世話になってる者で、ベーコと言います。ルクスさんに聞けばわかると思いますが、気になったのでお声をかけました」
「家はどちらですか?」
「そこの角を曲がったところです」
「じゃ、近くまでおくりますので、お話しは歩きながらで」
「はい。なんか続きはWebで、みたいだね」
「えッ!」
「今日はここで撮影か‥‥‥」
「ルクス。おつつさんの亡霊が気になるだっちな」
「ダラ男?僕、今隠してることがあるんだ」
「なんだっち」
「ヤッホー。今日もバイト?」
「そうだよ。なんだ?。入学式の衣装はこれでいいって言っただろ」
「クスさんってルクスさんの仲間?」
「なんだよ急に!」
「クスをわたしにくれ!」
「クスをおまえに紹介した覚えはないぞ!」
「カッパ池に行く!」
「もしかしておまえ!」
「今晩集合ね」
「わたしたち、コンビニで知り合ったの。正確にはコンビニの前だけど」
「なんでこのようなコスチュームを着なきゃならないのさ」
「もうひとつの顔でしょ。ねえ、スーパースターレインジ?」
「正義を貫くためさ。というか、もうひとりの顔もいるんだけど」
「ジェンダーオバサンだっち」
「ジェンダーオバサンは男女の性区別もなく。ジェンダー平等へと正義を貫くそうだ」
「心強いわね」
「おつつさんの亡霊に会いに行ってだっち。おつつさんの遺骨を拾うだっち。そして実家に帰してやるだっち」
「怖くないのか、ルクス」
「ここではスーパースターレインジだ。キミはラバーズレディとでも名付けよう」
「ジェンダー平等だっち」
「わたしはまだ名無し」
「名前早く考えろ!」
「こないだそっちが考えるって言ってたじゃない!」
「生意気ガール」
「何それ、そんなの嫌やよ」
「思ったまま言ったのさ!」
「言い争いしてる場合じゃないだっちよ」
「まずは行って見て、おつつさんの姿を見ようぜ」
「それからまた言い争いだな!生意気ガール!」
「何よ!ちょっと今不機嫌なの?」
「まってだっち!。わっちが考えるだっち!」
「おつつさんの黄泉の国を見に行くツアー記念だっち。ヨミガエルガールでどうだっち?」
「ヨミガエルガール」
「いいわ。ヨミガエルガールで。記念日だからね。なんか買ってよ」
「それは正義を貫いてからだ」
「出張ツアーでお土産もないんだ!」
「おまえ反抗期か?」
「反抗期よ!だってまだ15歳だもん」
「はいはい、行くだっちよ。ついてくるだっち」
「うわーー。ほんとに木像が縛られてる」
「何かじっと見てるね」
「で、出たー!!!!!」
とんでもない大きな蜘蛛が僕らの目の前に現れた。僕たちは手に持っていた武器で周辺を振り回した。
確かに池に浮かんで見える縛られた木像は、杭で打ったように水中を突き刺していた。そしてその周りは蜘蛛の巣だらけになっていた。そこにはかんおけのような物まで池に浮いていた。
かんおけを引き寄せ、蜘蛛と蜘蛛の巣を追い払うと。かんおけではなく木製の箱と中には骨壺が入っていた。棺桶と言ってもいいだろうやはり。
あまりに悪質な悪戯だ。骨壺の中身はおつつさんの遺骨であろうか。僕たちは骨壺を持って帰り、『ヨミガエルガール』こと、ベーコのアパートにしばらくしまって隠して置くことにした。
『ヨミガエルガール・ジャスティス』④TROUBLE