そもそも、「日本人」、「韓国人」、「朝鮮人」、「中国人」といったカテゴリーは、選択の余地なく個人に付与された属性を表すものであり、カテゴライズすること自体が暴力であるが、それぞれのカテゴリー内での人間の多様性を鑑みれば、その存在や人格を一様に誹謗することは、人種差別撤廃条約に違反するものだ。しかしながら、こうした規範を支持しない日本政府は、いまだにこの条約を批准していない。どこまで日本という国は野蛮で卑劣なのだろう。
『ヘイト・スピーチとは何か』は、文章は硬いが、この日本の人権後進性を明らかにしている。『ヘイトスピーチ』では、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の憎悪表現、扇動活動と活動者の実態をざっくり把握できる。『愛国という名の亡国』は、ネトウヨという集団神経症だけでなく、外国人労働者からの搾取、沖縄への差別問題もとりあげており、なかなか読ませる。
師岡康子,2013,ヘイト・スピーチとは何か,岩波書店.(1.17.2021)

差別と侮辱、排除の言葉をマイノリティに向けて路上やネット上で撒き散らす―ヘイト・スピーチとは差別煽動である。差別も「表現の自由」として、当事者の深刻な苦しみを放置するのか。民主主義社会をも破壊する「言葉の暴力」と向き合う国際社会の経験と制度を紹介し、法規制濫用の危険性も考えながら、共に生きる社会の方途を探る。
安田浩一,2015,ヘイトスピーチ──「愛国者」たちの憎悪と暴力,文藝春秋.(1.17.2021)

2013年の新語・流行語大賞にノミネートされた「ヘイトスピーチ」なる現象は、年を追うごとに拡大している。
当初は、東京・新大久保界隈における在日韓国・朝鮮人に対しての罵詈雑言ばかりが注目を集めていたが、いまや対するヘイトスピーチは全国規模に拡散。また、Jリーグのサッカー会場に貼られた「JAPANESE ONLY」という横断幕が、民族・国籍の差別を助長するとして問題視されもした。さらに、ヘイトの矛先は、中国やイスラムにも向けられている……。
はたして、被害者を生み出すばかりの「排外主義」、この拡大を食い止める術は、あるのだろうか?
ネットの中で醸成された右翼的言動、いわゆる「ネトウヨ」が、街頭デモにまで進出してきたのは何故なのか? その代表格とされる「在特会」とは一体、どんな組織なのか? デモに参加するのはどんな人たちなのか?
こうした幾つもの疑問に答えるのが、本書。在特会問題を取材しつづけ、2012年には『ネットと愛国』で講談社ノンフィクション賞を受賞した実力派ジャーナリストによる、「ヘイトスピーチ」問題の決定版!
目次
第1章 暴力の現状
第2章 発信源はどこか?
第3章 「憎悪表現」でいいのか?
第4章 増大する差別扇動
第5章 ネットに潜む悪意
第6章 膨張する排外主義
第7章 ヘイトスピーチを追いつめる
安田浩一,2019,愛国という名の亡国,河出書房新社.(1.17.2021)

はじめてネトウヨと呼ばれる人々の実態をあきらかにした『ネットと愛国』から7年。ネトウヨ的な意見はいまや日本社会の主流となって、マイノリティや貧しい人々に襲いかかる。移民労働者、沖縄、在日コリアン、生活保護、ヘイトスピーチ被害者たち…さまざまなかたちであらわれる差別と排外主義の禍々しい現場に肉迫してきた著者が、数年にわたる取材を集成して問う、この国の「愛国」の悲惨な真実とその行方。