残照の光の海を
二人行く ふたりゆく
花のごとかる罪を抱きて
都はるみの歌『邪宗門』の歌い出しの部分です。
花のごとかる罪、花のごとくある罪とは何か。『邪宗門』というタイトルに照らせば、道ならぬ恋の華、背徳の刹那の美を指しているとみるのが普通です。
しかしこの歌のサビの部分はこう歌い上げられます。
物語をつくるのはわたし
世界を生むのはわたし
道ならぬ恋によって世間からはじき出される日陰者のイメージは、ここにはありません。道ならぬものであれ、そうでないものであれ、人と人との繋がりは、物語をつくり、世界を生み出す「わたし」にとっての拠り所に過ぎない。そうだとするならば、世間からはみ出すことの罪ではなく、物語や世界を生み出すことの「花のような罪」こそがここで歌われているのではないか、と思いは膨らんで行きます。
こうやって訳の分からないことを考えるのも、この歌の誕生の経緯が特別なものだからです。
この歌詞を手掛けたのは、全共闘運動の体験をもとに歌集『無縁の抒情』でデビューした道浦母都子です。ちなみに歌集タイトルは高橋和巳の評論『孤立無縁の思想』に由来します。デビューから18年後、都はるみと同い年で交友のあった道浦は、都はるみのパートナー中村一好のたっての希望で、高橋和巳の作品『邪宗門』を題材にした作詞をすることになります。
架空の宗教団体「ひのもと救霊会」を描いた長編『邪宗門』は、貧困、テロ、戦争、救済などのテーマが卓越した筆致で描かれた作品です。決して明るい小説ではないにも関わらず、読む者をぐいぐいと引き付ける力を持っています。度重なる弾圧にも屈せずに、登場人物が立ち上がる、その原動力には「罪」の感覚が関わっていて、飢餓のなかひとり生き延びた罪、テロで無辜の人を殺めた罪、戦地で犯した残虐な罪、そういったものに突き動かされるように登場人物たちは、世界を切り開いて行きます。
あなたを愛して
あかねさすわたし
で終わる歌なので、悲恋をテーマにしたものに間違いはないのでしょう。
しかし、この歌が小説『邪宗門』の世界を基にしている以上、やはり「花のごとかる罪」に、様々な思いを重ねてしまいます。