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一度でいいから好きなように弾いてみたい楽器の一つに、パイプオルガンがあります。
私が通った大学には礼拝堂(チャペル)がありましたが、そばを通ると時折パイプオルガンが鳴っていることがありました。それは私たちの居たキャンパスの隣に女子大があり、そこの音楽課の学生さんがレッスンを受けていたからですが、今はどうか知りませんが当時は割とのんびりとしたところがあって、こっそり階段を上り後ろの方の席に潜り込んではよく聴かせてもらったものです。
あれは確か秋か、あるいはまだ冬の早い時期で、午後の柔らかな光がステンドグラスから差し込んでいた頃。いつものようにこっそり忍びこんで、レッスン中の学生さんと先生に見つからないようにベンチに横になって聴いていたところ、どうやらそのまま寝込んでしまったらしく、小さく声を掛けられて目を開けると、顔の真上に先生の顔。
慌てて飛び起きるとその先生が「そろそろ練習は終わりますよ」とにっこり。その柔和な表情と言い方に、恐縮すると同時に思わず懺悔してしまいそうになったことを、その先生の顔とともに今もよく覚えています。
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さてパイプオルガンの曲と言っても私が馴染みがあるのはやはりバッハですが、探してみるとバッハのオルガン曲がピアノ用に編曲されたものが結構多いことを知りました。これも、それからこれもそうですが、今回の楽譜は「パッサカリア」。
パッサカリアというのは3拍子のゆっくりとした曲を指すと思って頂ければ結構ですが、冒頭の8小説のテーマが延々と20回にわたって変奏されます。標題に「パッサカリア(とフーガ)」と書いたのは、楽譜の後半には「フーガ」(日本語では「遁走曲」、要は「追っかけっこ」)と書かれてあるものの、その前の20回の変奏と繋げて(つまり、21番目の変奏のように)演奏されることから、楽譜によって単に「パッサカリア」と書かれたり「パッサカリアとフーガ」と書かれたり諸説あることがその理由です。
それはまさに変幻自在。音の動きだけではなく音の大きさも含めて、最後は圧倒的な盛り上がりで曲が終わるのですが、これはまさにオルガンだからこそ、オルガンにこそ書かれた曲。それを限られた音色と音域のピアノで表現するのは勿論限界があるのでしょうが、そこにあるバッハの精神性というものはきっと同じであるはず。そう思って取りかかった次第です。
因みにこちらが冒頭部分の楽譜。左手のオクターブでおごそかに始まるのが8小節のテーマです。
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原曲のオルガンによる演奏はこちら。
因みに、演奏者や時期は異なりますが、私はこのパッサカリアという曲をこのホール(初台のオペラシティコンサートホール)で初めて生で聴きました。オルガンの音がホール全体に響き渡り、その振動が席に座っている自分の背骨から指先にまで伝わって来ると同時に、単に曲が美しいとか暗いとか、そういう範疇を一切超えた、言いようのない感動に包まれて、身動きが取れなくなってしまったことを今もよく憶えています。
隣に座っていた家人は途中から舟漕ぎMax.の熟睡状態。それを機に二度とコンサートに連れて行かないことにしましたが、よくよく考えて見ると、大学のチャペルで寝込んでしまった私がとやかく言えることではありませんね。何年ぶりかにひと言謝っときましょうか
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