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レイモンド・チャンドラーの処女長編、『大いなる眠り』(原題 "The Big Sleep")を読み終わりました。
途中、余りにも錯綜するプロットに挫けそうになりながら(また全然別の本に浮気をしたりしながらも)どうにかこうにか最後まで辿り着きました。チャンドラーの小説に後の名物探偵フィリップ・マーロウが初めて登場したのがこの作品だということですが、既に確固たるマーロウ像がそこに出来あがっています。
ラストに思いがけない結末があることを感じながらページを繰っていくこの喜び。最後の最後にまるで階段を駆け上がるかのような大団円。通勤電車の中で時間を忘れるのにこれほど適したものがあるでしょうか!
ストーリーをご紹介したい気持ちはいつも山々ですが、それをやってしまうとこれからお読みになる方の邪魔になるばかり。ここはそれをぐっと抑えて、途中で思わず唸ってしまった表現をひとつ。
夜の海岸、波打ち際の描写。
"Under the thinning fog the surf curled and creamed, almost without sound, like a thought trying to form itself on the edge of consciousness."
これは日本語にしてしまうのが勿体ないくらいの表現ですが、寄せては返す波を、「思考」が意識と無意識の境で自ずから具体的な形になろうとする、というイメージに例えています。いつもながら、こういう表現がところどころにさり気なく置いてあるところが憎いですね。
これでチャンドラーは『ロング・グッドバイ』、『さらば愛しき女よ』に続いて3作読んできた訳ですが、お察しの通り、もうすっかりマーロウのファンになってしまいました。マーロウが登場する作品は他にもまだいくつかあるようですので、また時間を置いて少しずつ読んでみたいと思います。
因みに次は、これまた丸善の本棚で見つけた別のミステリーを齧ろうと思っています。その作家は、以前一度徹底的に(と言えば言いすぎですが)読んだことがあって、久しぶりの新作です。明日からの通勤電車がまた楽しみです。
Raymond Chandler,
The Big Sleep
(Penguin Books)
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