先日、よくコメントをくださるカンサンさんから絹と紙の歴史について情報を頂いた。
絹については、丁度先月テレビ朝日の「世界の街道を行く」(今の今まで「世界の車窓から」だと思っていた…)が北イタリアで、たまたまコモのシルク産業のことが取り上げられていた(参考:https://www.instagram.com/p/CGyz08yJDk3/)が、改めて調べることとして(追加情報も頂いたので)、今回は紙について調べてみた。
ちなみに現在のイタリアの紙事情はと言いますと、よろしくない!
ティシュ、トイレットペーパーもお金出しても日本のクオリティーのものはない。
しかし、私が特に文句を言いたいのは本!
とにかく紙質が悪いから本が重いんだよ!!
そのせいでどれだけ送料がかかったことか…
一番泣いたのが語学を勉強していたころに使っていたテキスト。
どのテキストもとにかく紙の質が悪い!!!
鉛筆で書いたのに(正確にはシャープペンだが)全然消せない。跡がついてんだよ~
ノートはノートで、繊維が荒いのかボールペンの先に詰まってしまい、必ずインクが詰まって最後まで書けなくなる始末。
やはり紙は日本が最高だよ。
と一言文句を言ったところで、そんな紙はいつどこからイタリアにやって来たのか?
教えて頂いた情報によると
”現在の製紙法は紀元前の中国に始まり、後漢の蔡倫によって改良され、唐代に普及した。
8世紀にイスラーム世界に伝えられ、さらにヨーロッパに広がった。”そうだ。
ヨーロッパはその頃羊皮紙とかせいぜいパピルスだったもんね。
”中国の製紙法が西方に伝えられる直接的なきっかけとなったのは、751年の唐とアッバース朝イスラーム帝国が直接戦った、タラス河畔の戦いの時であった。このとき、アッバース朝軍に捉えられた唐軍の捕虜の中に、紙漉工などが含まれており、彼らはサマルカンドに連れて行かれ、まもなくできた製紙工場での中心的な技術者となり、麻を原料にした紙の生産が始まった。”
戦争も時には役に立つ。
そして”これ以後、製紙法は次第に西方イスラーム世界にひろがった。ダマスクス、エジプトを経てアフリカ北岸沿いに西に伝わり、12世紀にイスラームの支配下にあったスペインに伝わり、バレンシア地方に製紙工場が建てられた。”
引用:https://www.y-history.net/appendix/wh0504-010.html
ヨーロッパの事情はWikipediaにもこんな感じで載っている。
1080年以前 Messale di Silos 紙に書かれた最古のキリスト教書物誕生
1100年 スペイン、バレンシアのSan Felipe
1109年 シチリアで紙に書かれた最古と考えられる文献 (Mandato di Adelasia).
1225年 フランスで最古の紙に書かれた文献
1228年 ドイツ語で書かれた最古の書類をシチリア王フリードリヒ2世(Federico II)がBarletta(バルレッタ)から送る。convento femminile di Göss in Austria(オーストリアのGössの女子修道院)に保管されていたが、現在はArchivio di Stato a Vienna(ウィーン古文書館に保管されている)※出典なし。
1231年 フリードリヒ2世 がシチリア王国内で紙を公書類に使うことを禁止した。※出典なし
1236年 Padova(パドバ)でも、紙に書かれた規則は法的効力がないとされた。
これは紙が羊皮紙などより耐久性に劣るという理由からだったと考えられる。
1246年 イタリア紙を使いリヨンで編集されたduomo di Passavia Albert von Behaim(パッサウアルバートフォンベハイム大聖堂)の教会の名誉職の名簿(Il Registro del decano)は、ドイツに残る最古の手稿。
1264年 マテリカ (Matelica)の文献にファブリアーノ(Fabriano)の紙でできた«quaderni(ノート)»を購入した記録有。
1268年 イタリアで紙の生産が始まる。
1282年 ボローニャ(Bologna)でfiligrana(フィリグリー、透かし)が発明される。
1282年 水車を使った最初の製紙工場が スペインに出来る(Xàtiva)。その後裁断機や紙のプレス機などが発明される。
1381年 Toscolano Madernoで紙が作られるようになる。
イタリアで紙が作られたのは1264年マルケ州のファブリアーノ(Fabriano)が最初と言われている。
これ昔からちょっと疑問だった。
他にも例えばAmalfi(アマルフィ)なども紙の歴史が古い。
これは海洋貿易が盛んだったアマルフィならさもありなん。
しかし、ファブリアーノは内陸の街だし、アラブとの交易が盛んだったとは思えない。(勝手な思い込み)
当然中国と関係があったわけがない。(シルクロード?ヴェネツィアなら分かるけど…)
しかし実は有ったのではないか、アラブとの交流が。
というのもファブリアーノの城壁の外にsaraceno(サラセン)という場所が有ったという。
その場所はアウグスティヌス派の修道院の近くにあり、イタリア統一後修道院は病院になっている。
11世紀から14世紀にかけて、アウグスティヌス派は聖地エルサレムで精力的に活動をしていた。
修道士たちはかの地で積極的にアラブの僧侶たちと文化交流をしていたと考えられる。
そんなことから、アラブ人がイタリアにやって来て、彼らの修道院のそばに落ち着いたとしてもなんら不思議はない。
という説とスラブ民族の家族がファブリアーノに移住したという説がある。
なぜかは分からないが、街に住み、紙の製作を始め、それがあっという間に町中に広まった。
まぁ、どちらも現段階では推測に過ぎないようだが。
とにかく12世紀にはファブリアーノの商人たちは、既に非常に活発に動いていて、半島の北から南へ。
アペニン山脈を越えローマへ、アンコーナ(Ancona)の港からアドリア海を越え東の果てまで紙を売って歩いた。
最も重要な顧客は東ローマ帝国、Costantinopoli(コスタンティノープル)だった。
マルケ州とコスタンティノープルは12世紀から交易があり、1155年にはビザンチン皇帝がアンコーナに船を贈っている。
1453年4月オスマン帝国第7代スルタンのメフメト2世率いる10万の大軍勢にコスタンティノープルは包囲された。ジェノバ人を筆頭にたった700人のヨーロッパの戦士たちがコスタンティノープルを守るために戦ったが、トルコ人は3日に渡って略奪を繰り返し、教会や芸術作品、図書館を破壊し尽くし、古代以来続いてきたローマ帝国は滅亡する。
ちなみにそんな中、東の修道院にいたベネディクト会修道士の写字生たちは、コスタンティノープル・プラトン大学に保管されていた「禁書」を必死でコピーしていた。
ファブリアーノにはその後製紙工場が出来る。
工場生産が出来、現在に至るまでファブリアーノが世界的に紙の街として名を馳せているのは3つの重大な発明が有ったからだ。
1、ウィトルウィウスも知っていたが、水車で動力を動かすこと。
2、動物のゼラチンを使った紙の防水加工(ゼラチンで表面糊付けすることで、紙の強度が上がり、書き味を向上して経年劣化も抑えられるようになった)
3、光にかざした時だけ見える工場の印を紙に入れたfiligrane(フィリグリー)という透かしの技術。
この先様々な街で紙が作られるようになるが、ファブリアーノの透かしの入った紙は最高級の証だった。
写真:http://www.fabrianostorica.it/storiacarta/fabriano.htm
中世、ファブリアーノ紙に入れられていた透かし。
ルネサンス期に入るとファブリアーノの紙を挙って偉大な芸術家たちが使うようになる。
ミケランジェロやラファエロもファブリアーノ紙の愛好者だったことが分かっている。
それが分かったのもこの透かしが入っていたからである。
ただ、イタリアでは紙は当時まだまだ貴重品だったらしく、1585年イタリア入りした天正遣欧使節団の少年たちが、鼻をかんで捨てた鼻紙(ティッシュというよりは…)をこぞって拾って歩いた、という話が残っている。
参考:http://www.fabrianostorica.it/storiacarta/cartaecartiere.htm
ファブリアーノには数回行ったことがあるのだが、ここの紙の博物館に行った記憶がない。
https://www.museodellacarta.com/
Bevagna(ベヴァ―ニャ)の中世祭の時に中世の紙の作り方を見たことはあるのだが…
暗い。これが水車を使って動かすgualchiera(縮絨機)…かな?
説明中。繊維をすいたところかな?
お祭りはこんな感じで中世の衣装を身に着けた地元の人が、当時の仕事の様子などを見せてくれる。
写真:http://www.ilmercatodellegaite.it/
Amlfi(アマルフィ)の紙の博物館はガイド付きで1時間くらいだったかな、体験もさせてくれて面白かった。
https://www.museodellacarta.it/
イタリアに行く時はティシュはお忘れなく!!
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非常に興味深い情報をありがとうございます。
http://reijiyamashina.sblo.jp/article/185996227.html
2019年05月15日 製紙法の西漸とタラス河畔の戦い 続
http://reijiyamashina.sblo.jp/article/186000405.html