「立野くん、面白いものを作ったんだがね」
博士が研究室に立野くんを呼び出した。
正直、「またか」という思いだったけど、たまにすごい発明をする人だから、とりあえず会いに行ってみた。
「あめ玉ですか?」
「惚れ薬だよ」
「は?」
また変なものを発明しちゃってまぁ、と立野くんは呆れ顔で博士のまじめくさった顔を見つめた。
「このあめ玉が口の中に入った時点で一緒にいる異性に恋をする」
そんなばかな~と立野くんは内心小馬鹿にしながら実験用の惚れ薬をもらって被験者を捜しに出掛けた。
「誰が良いかな?・・・そうだ吉田さんなんてどうかな?」
同じアパートの二階に一人暮らししている女子大生が真っ先に頭に浮かんだ。
「ピッチピチの女子大生~♪」
鼻唄まじりでアパートに帰ると、二階に昇る鉄筋の階段を上がる。
「お兄ちゃん、お帰り」
「ただいま」
同じアパートの翼ちゃんという子がシャボン玉遊びの最中だった。
「翼ちゃん、あめ玉いるかい?」
「わーい」
減るもんじゃないし、と立野くんはごろごろ持っているあめ玉を翼ちゃんにいくつかあげた。
「吉田さん、吉田さん」
「はーい」
ドアをノックすると、少しふっくらした女子大生の吉田ののかさんが顔を出した。
「何ですか?回覧板か何か?」
「いえ。ちょっと珍しいあめ玉もらったんであげようと思って」
「珍しいあめ玉?どんなの?」
「新商品の試供品」
嘘ばっかり。
でも立野くんは博士から実験を頼まれていたから仕方ないんだ!
「わあ、食べる食べる」
吉田さんは甘いものに目がないんだ。すぐに立野くんからもらったあめ玉を口にほおばった。
「・・・」
「・・・」
立野くんと吉田さんは見つめあったまま立っていた。
吉田さんの頬に涙がつうっと流れた。
「あの、私・・・」
「どうしたの?吉田さん」
「なんていうか、胸が苦しい」
「大丈夫?」
「はい。あの、今、時間あります?」
「ええ暇ですよ」
「中に入ってお茶でも飲んでいきませんか?」
「いいんですか?」
「どうぞどうぞ」
吉田さんは立野くんを部屋に通した。
「どうしてかしら?本当に胸が苦しいの」
お茶の用意をしながら、吉田さんは立野くんばかり見ていた。
「吉田さん、あのね」
ちょっと罪悪感を感じて、立野くんは本当のことを説明しようかと思った。
「嫌。吉田さんじゃなくて、ののかって呼んで」
「・・・ののかちゃん、あのさぁ」
あんまり真剣なののかの様子に、立野くんは気がひけた。
これは、伊達や酔狂じゃやってはいけないことだ、と後悔した。
「立野くん、私・・・」
えらいこっちゃ!ののかが立野くんに迫ってくる‼
嬉しいのか、困るのか、大混乱の立野くん。
「・・・あれ?」
「えっ?」
ふいにののかが正気に戻った。
「私どうしたのかしら?」
「え~と」
「ごめんなさい、立野くん。部屋におとこの人入れたってわかったらお父さんから怒られちゃう‼」
立野くんは吉田さん家から閉め出されました。
「ああ、効き目は5分間くらいだよ」
携帯電話の向こうで博士が悪びれずに言った。
「非常に惜しかった」と立野くんは思った。
アパートの自分の部屋にすごすごと帰ろうとしたとき。
「お兄ちゃん」
「えっ」
翼ちゃんがやけにキラキラした目で立野くんを見つけて駆け寄ると、立野くんの足に抱きついた。
「えーと、翼ちゃん、もしかして君、女の子だったりした?」
「うん」
ずっと男の子だとばかり思っていたが、女の子だったとは‼
「ちょっと待てよ、俺、あのあめ玉何個あげたっけ?」
だらだらだら。冷や汗が出た。
「翼、お兄ちゃんと結婚する‼」
「嬉しいけど、翼ちゃんが大人になってからね!それよりさっきのあめ玉、まだ持ってたら俺に返して」
「ぜんぶ食った」
「おい」
それからどうなったかは深く追求しないでください。
<fin.>
「小説家になろう」に星野☆明美というペンネームでちょこちょこ書いているのですが、その中でも「惑星☆プリズム」という作品は大学生の頃、色彩、虹、ひとみの虹彩、プリズム…といったことに興味を持ち、初の長編で書いた小説でした。現在、ちょっと手直しして出しています。
たった今編みたてのホヤホヤ。糸の始末は明日します!
同時進行ですね。パラレルワールド!
しばらく前に完成した子ども用ポンチョ。
ダイソーに売ってあったボンボン作成用の器具。
会社名を入れた非売品のミトンとモヘアのシュシュ。