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中国社会への評価を下げる人権への弾圧

 中国で人権派とされる人たちへの「弾圧」が続いている。このような締め付けは、中国社会が政府への自由な批判を許さない「怖い社会」だという印象を広げている。言論・思想の自由とその制約の問題は、確かにアメリカでも日本でも存在する。しかし暴力的につまり武装して社会秩序の転覆を図るといったものでない限り、言論・思想の自由は、広範に認められるべきだ。政府とは異なる考え方を述べそれを広めようとしただけで(言論活動をしただけで)、投獄され実刑を科されるといった事態は、中国社会への評価を下げるだけで大変残念だ。

ただアメリカにもテロということを名目にした人権抑圧の動きがあることも事実だ。それと同じではないか。という批判も考えられる。
 アメリカにおける テロへの加担がうかがわれる人についての令状なしの逮捕・無期限拘留
 グアンタナモ基地における非人道的取り調べについて テロ防止という名目のもとでの人権抑圧の加速

 どこが違うのだろうか。はっきりしていることはどちらのやり方にも賛成はできないということだ。2013年1月になって表面化した「南方周末」をめぐる記事改ざん事件は、正月3日に予定されていた、憲法に基づく民主的な政治、自由、平等の実現を求める記事が、広東省共産党委員会宣伝部の指示で無難な内容に書き換えられたこと。これに対して、編集者・記者の不満が爆発しスト体制に入ったとされる。これに対して各地の新聞が、当局が指示した記事の転載を拒むなどの形で抵抗。騒動が拡大した。背景には同紙だけで年間で1000本を超える記事が差し止め書き換えにあっているほど厳しい検閲にあっていることがある。
 2012年秋に発足した習近平体制が、この問題をどう決着させるか注目された。記事書き換えの指揮をとったのは庹震・宣伝部長自身(2012年5月に赴任)。これに対して、地元のトップである胡春華(1963年生まれ 前モンゴル自治区党書記 広東省という全国に先駆けて改革開放路線がとられ、住民の権利意識も高いところで、早速、難題にぶつかった形)・広東省書記が抗議した現場の編集関係者を処罰しない方向で事態を収拾し、結果として南方周末は1月10日通常通り発行された。
 2011年9月には発生した高速鉄道事故の原因を究明しようとした「新京報」「京華時報」が共産党委員会管理下に置かれる事態があったばかり。 

 今回の問題の処理もそうだが、言論・思想の自由については、中国社会や共産党の指導者の中にこの点でさまざまな考え方があることが伺える。それだけに中国共産党の次の指導者たちが、ただ社会の安定を目指すだけでなく、言論・思想の自由と、さまざまな思想に開かれた社会の構築を目指すことを期待したい。
 問題はアメリカの場合も同じだが、形式的には正しい社会の安定論がしばしば拡大解釈されて人権の抑圧に結び付くことだ。それを防ぐためには、人権を守ることを厳守することが極めて大事だ。テロを許さないということと、人権を守り尊重することは本来両立するはずである。

 このほか中国では、土地収用をめぐるトラブルでは、地元政府と住民が激しく対立する構図も見られる。土地は国有で各地方政府が管理しているとの考えかたで、地元政府によりわずかな補償金で土地収奪が横行。地元政府と一体化した開発業者が開発を計画。開発利益を地元政府と開発業者が分け合う構造とされる。
 本来、住民の利益を守るべき地元政府(地元の党幹部)が、業者と一体化して土地の収用を強行。反対する住民を警察を使って抑え込むといった構造は、乱脈の極みである。本来は司法制度によって住民の権利が守られるように法治国家の実を上げるべきであろう。住民の側に立つ活動家や弁護士を抑圧したのでは、法治国家の担い手を政府自身が潰しているともいえる。国の在り方について、中国政府は自身の考え方を変える必要があるだろう。そのための第一歩は、一連の人権抑圧政策をできるだけすみやかに止めることではないだろうか。
 このような人権抑圧は、地方政府幹部により地域住民に対して、経営者により労働者に対して、警察により街頭の人々に対して、徴税官により零細な経営者に対して、日常的に生じている。2011年に中国各地で生じた血なまぐさい人権抑圧が、暴動を各地で生み出している。中国政府は、民衆を取り締まるよりは先に、このような地方幹部、経営者、警察官、徴税官をまずは捕まえて厳罰に処するべきだろう。
 2011年 中国各地で暴動発生

陈西氏(1954-)
2011年12月26日 貴州省の貴陽市中級人民法院で懲役10年の実刑が言い渡されたとのことであるが、インターネットでの言論活動が問題視されたとのこと。
陈西文集

陈衛wei氏(1969-)
天安門事件の学生指導者の一人。2011年12月23日 四川省の遂寧市中級人民法院で懲役9年の実刑が言い渡されたとのこと。海外サイトへの投稿が問題にされ2011年3月29日に逮捕されていた。

高智晟氏(1966-)
5年の執行猶予が取り消され懲役3年の刑に服することになった。法輪功の弁護を手掛け書簡を公表したことなどから政権転覆罪に問われた。2010年以来行方不明となっていたが2012年に入ってウイグルで収監されていることが判明した。

劉暁波氏(1955-)
懲役11年を言い渡され服役中
100名中国知識人発表声明支持劉暁波 2010年10月14日
到全国人民代表大会常務委員会公開信:公民言論出版自由的公開信 2010年10月11日
中国維権律師関注組要求釈放劉曉波 2010年10月11日

劉暁波wiki(日文)
劉暁波 我的最后陳述 2009年12月23日
零八憲章(中文他) 2008年12月10日
六四事件(中文wiki)

辻さんの以下の記事で、中国共産党内のリベラル派が言論出版の自由を求めていること、また温家宝首相らによる政治改革の試みあったことと、現在それらが、既得権益派により抑え込まれている構図を紹介している。
辻康吾「中国指導部の重大な状況」『エコノミスト』2010年11月23日号, pp.45-47.

originally appeared in Oct.18, 2010
corrected and reposted in Jan.16, 2012 and Jan.15, 2013
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