Entrance for Studies in Finance

ソニー:プレステ3の評価(08年1月稿)

Hiroshi Fukumitsu(2008年1月の原稿)


ゲーム部門の赤字は放漫投資か戦略的赤字か
 ソニーのゲーム部門が一時失速した。原因は2006年11月に販売を開始したプレイステーション3(PS3 499$;599$)。新型機で先行したマイクロソフト(Xbox 05/11発売 299$)に対しては北米でのシェアで、また同時期発売の任天堂(Wii 06/11発売 249$)に世界シェアで、及ばなかった。X-boxは日本では目立たないが欧米では高い人気がある。これを任天堂が追いその後をソニーが追ったが、問題はその高価格にあった。3つのゲーム機の値段をみるとソニーがずば抜けて高い。実は開発費用が高い。ゲーム部門は、2007年3月期、開発コストと立ち上げ費用から2000億円を超える営業赤字だった。
 PS3は開発費用が高く当時の販売価格では利益が出ず赤字だとされる。中核半導体セルの開発費用だけで2000億円とも。それでも販売を継続した理由は、ソニーの次世代DVD方式であるブルーレイディスクBDの普及のためだった。PS3(北米で499$;599$ 日本で49800円)はブルーレイの再生機として一番安かった。対抗する東芝のHD-DVD方式の普及機も499$(日本では49800円)。PS3の値段がブルーレイの再生機の値段の下限になった。
 しかし07年4-6月期の販売合戦で東芝側は普及機をまず399$に値下げ。そしてさらに100$のキャッシュバックを付け、この販売戦略で販売台数で一時、ブルーレイ側を圧倒した(日経新聞N07/05/23;07/07/23)。2007年7月9日にSCEは、PS3の北米での販売価格を499$に引き下げを発表。東芝側の499$に対抗するためだがこの引き下げでソニーの赤字は膨らんだ。
 ソニーはポータブルCDプレイヤーを原価の2分の1の価格で発売して(1984年11月)普及させ、結果としてCDソフト市場の立ち上げに成功したことがあった。PS3の戦略はこれとまったく同じだった(日経新聞N07/10/01)。
次世代DVDの規格をめぐる争いはもともとブルーレイBD側が参加するメーカー(ソニーのほか松下 シャープ サムソン電子など)、ソフトメーカー(ソニー デイズニー 20世紀FOX)の数では有利。映画ソフトでは6割がBD側とされていた。しかしHD側の東芝は粘った。
 最後の反撃は2007年8月になってこれまで両方式で生産してきたパラマウントがHD-DVDへの一本化(今後18ヶ月間の限定付き)を発表し、一時形勢が互角になったこと(HD側はユニバーサル 両規格がワーナーとパラマウント)。東芝は陣営に引き込むため奨励金をだしたとされる。
 しかし注目された2007年11月下旬の米国の感謝祭商戦ではBD側ソフトの販売が全体の7割を占め、結局、東芝側の逆転はなかった。12月のクリスマス商戦でもブルーレイの優位はゆるがなかった。2007年7月に大手のレンタルのブロックバスターがBDの品揃え強化を打ち出した。そして2008年1月に入って、米ワーナーブラザースが販売する新世代DVDをBDに一本化すると表明。これで映画ソフト面でBD側の優位が固まり、東芝は新世代DVDからの撤退を宣言した。
 東芝の撤退は潔いものに見えた。というのはPCの世界ではマイクロソフトと組む東芝側に対抗の余力は残っていた(国内メーカーでは両方式生産のNEC)。東芝のすべてのノート型PCにHD-DVDを搭載しており(2007夏)ノートPCでの優位性を生かそうとしていた。なおBD側にはデルがついており、その後、台湾のエイサーが加わっていたが(07/09)。
 しかし新世代DVDでのソニーの勝利が、ソニーの収益に直結するかに疑問が残る。HDとの争いの中でDVD再生機の価格が下がり、利益が薄くなったからである。では利益をどこで出そうとしてうるかというとソフトだとされる。ところがこのソフトでうまく稼げていない。ソフト供給のありかたが、ネット経由に変わろうとしているし、求められるソフトの中身も変化しようとしている。新世代DVDでの勝利にソニーが酔っている時間はないのではないか。

ソニーは水平統合型電機メーカーの典型
 かつて日本の電機メーカーはいずれも生産から組み立てまで一貫して自社で行う垂直的な事業モデルを構築してきた。
これに対してポータブルCDプレイヤーとCD。DVD再生機とDVDの双方。つまり映像や音楽などソフトの収入とハードである機器とを組み合わせた相乗効果を描くソニーの戦略は、垂直型統合ではなく水平統合型の事業モデルの典型といえる。ソニーが音楽や映像に分野に進出することで、相乗効果を狙っていると見られる。
 垂直統合から水平統合への移行が議論されて久しいが、ソニーは水平統合型のもっともわかりやすい典型で、しかもそれを早い段階から行ってきたことが注目されるのである。もちろんソニーの事業のすべてが水平型で理解できるわけではないが、ソニーの異業種進出のロジックの一つがそこにあることは間違いない。
 しかし水平型のモデルも万全ではないという技術的社会的変化が迫っている。

ゲーム部門は2007年度後半から黒字化、収益は改善へ
ゲーム部門の赤字問題に戻ろう。ゲーム部門はPS3のコスト削減、PSPの好調などで黒字化してきた。2007年11月に投入したPS3廉価版の販売も好調。ソニーはもともとブランド力があり収益力の高い電機部門をもっている。ゲーム部門が立ち直れば収益は一挙に改善する可能性が高い。
 2007年の国内販売高ではWiiの374万台に対してPS3は119万台。しかし2008年に入ると国内ではWiiの売上は停滞。しかしソフトではWiiフィット(07年12月発売)がヒットになった。た。逆にPS3はカプコンのゲームソフト「モンスターハンターボール」のヒットで売れ始めた。またBDのプレイヤーとしての認知度もあがりつつある。
 他方、欧米では日本に少し遅れる形で任天堂のWiiやDSが好調に売れ始めた。

収益基軸部門としての電機は依然好調 液晶パネルでサムソン・シャープと提携
 このような無茶な戦略をとるソニーだが、電機部門、とくにエレクトロニクス事業はリチウム電池問題はあるが、好調である。一時は液晶化の流れに遅れを取ったが、2005年春のサムソン電子との提携による液晶パネル生産が現在は軌道にのり、2005年10月に発売を開始した液晶テレビBRAVIAの販売が北米欧州で急拡大している。その結果、500億円以上とされる2006年8月に表面化したリチウム電池回収のコストを吸収して2007年3月期の利益を電機部門が主導した。2008年3月期にはこの利益が現在よりもさらに全体を潤すとみられる。ソニーの液晶テレビは2007年後半に入り北米市場では首位を占めている。販売が順調であるのは、ソニーのブランド力の強さによる。
 サムソンとの合弁やサムソン本体からの液晶パネル供給に限界があることから、2008年に入ってソニーは思い切った戦略をとる。
まずシャープからの液晶パネル調達である。シャープが堺に建設中の向上を分社して共同生産にした(08年2月 1000億円超投資)。これは投資負担を抑制できること、工場稼動間までの時間を節約できること、機動的に調達量を変更できること、などが、シャープとの提携理由だった。すでに2007年12月にこの東芝が松下・日立連合を抜けてシャープの堺工場からの調達を発表したのに続き、これは大きなニュースとなった。
 他方シャープとしてはソニーとの提携は、投資負担を軽減し、工場(既存の亀山工場に加え2007末堺市臨海部にシャープは液晶パネル工場の建設を始め09年稼動を目指している)の稼働率を上げ生産コストは削減できる。投資も早く回収できる。国際的なブランド力の弱さを補うことにもなる。
 ソニーのパネル戦略はこれで終わらなかった。3月に入るとサムソンとの合弁事業への追加投資(2000億円)も発表する。
 液晶パネルについて日本の電機メーカーは、外部調達に切り替える日立(松下から 背景には松下が3000億円かけた姫路工場稼動)と東芝(松下・日立との提携を解消してシャープから調達に切り替え07/12)そしてソニー(合弁含めサムソンからと今回のシャープから)。それに垂直統合戦略維持のシャープと松下に分かれることになった。
 この変化については、技術が新しいうちは垂直統合型が優位だが、汎用化(コモデティー化)する(年率で2ー3割の価格下落)と分業生産の効率性にかなわないとも指摘されている。
なおソニーの電機事業は北米での販売比率が高いだけにサブプライム問題の影響も心配された。しかし2007年内は販売価格低下はあったもののその不安を乗り切った。ノートパソコン「バイオ」やデジタルカメラ「サイバーショット」の販売も順調に伸びた。その結果、2008年に入ってからの消費減退があるとしても2008年3月期にソニーの業績はやや下方修正しつつ「回復」すると予想された。

リチウム電池問題の責任追及も不十分
 他方で2006年夏にリチウム電池問題が表面化。これはソニー製のリチウム電池搭載のノートパソコンが各地で発火。一部では炎上したという問題でPCメーカーではリチウム電池の回収交換を行うことになった。この問題はなおくすぶっているが、電機事業の巨額の黒字が、この問題に伴う経費を大きな問題にせず覆い隠している。
 PC用リチウム電池のシェアトップは三洋電機、続いてソニー、松下電器産業の順。
 注目されるのはクレームがソニーだけにほぼ集中し、三洋や松下が同様には批判されなかったことである(その後、後述するように松下や三洋の電池についても回収問題が出るがこれらに炎上といったケースはない)。ということはソニーの電池の製造過程に問題があったと推定できる。ところがソニーは急速充電やPC側のシステムの構成にも問題があるとして争った。問題の主因が、ソニーエナジーデバイス(福島県郡山市)の工場で微小な金属片が混入したことにあることはソニー自身が認めているのだが。
 なおリチウム電池問題は2006年末には三洋電機に波及。また2007年8月には松下の製品にも波及した。三洋のケースは電極の変形で、極の間の絶縁シートが破れたとされ、松下の場合は製造工程で入った絶縁シートの亀裂が、使用中に広がったことが原因とされる。その結果、問題はソニーに限られないことが分かった。
 ソニーの対応は、原因の追及という点で理解できる面もある。しかし社内的な責任の所在は、急速充電の問題性を外にいうほど不明確になる。会社として外部のいうべきことは理解できる。すべての責任が自社にはないと。しかしそうした対応をすればするほど、自社内の責任の所在は曖昧になる。
 これは深刻な問題だったが、数字の動きだけからみれば、エレクトロニクス部門の巨額の黒字が、リチウム電池での損失もすべてを覆い隠している私自身はこの問題は深刻だとおもうだけに、損失を上回る利益をあげて、問題が致命的な傷にならないことは、かえってソニーの弱さだと思う。
 
失敗を反省しない企業体質
 PS3の開発思想をみると、顧客の発想ではなく、スペックの高級化を追及する発想で仕切られている。技術を高度化すれば、顧客もソフト開発メーカーも後追いすると信じていたように見えて仕方ない。しかしソフト会社は制作費が高騰するため慎重になってしまった。その結果ソフト不足が決定的になった。業界全体がSCE離れを起こすことになった。このソニーの思考パターンは愚かしい。
 これに対して任天堂が、新ゲーム機の開発で操作の容易性や誰でも楽しめるソフトを重視したこととの開発思想の差は、繰り返し指摘された。そして結果は顧客の支持の差となって現れている。任天堂がWii(06/12)やDS(04/11)でやったことは、汎用の半導体を組み合わせて消費者に使いやすく楽しめる商品を提供したこと。片手操作で体を動かすWii。幅広い年齢層に受けるソフト重視のDS。それはiPodで成功したアップルの似ているとされる。
 ソニーと任天堂の差でもう一つよく指摘されるのは、任天堂がアウトソース、外部の部品メーカーとの協力連携を重視しているのに、ソニーが高性能の半導体開発にみられるように内製にこだわっている点である。任天堂のビジネスモデルが万能でないことは当然だが、
 2007年6月28日、ついに時価総額で任天堂がソニーを抜き、家電業界ではキヤノンに次ぎ2位となった。
 しかし2007年後半に入り、PS3のコスト削減に加え、PS3やPSPの販売が好調であることで、ソニーのゲーム部門は黒字化しつつある。ゲーム部門の場合も企業の姿勢とい深刻な問題はあるのにそれが、きちんと赤字という形で表面化しない。好調の電機部門が、ゲームの赤字を覆い隠す。時間の経過とともに収益が好転して乗り切ってしまう。このソニーの体質は、評価してよいのか迷う点だ。
 
一段の水平化を進めるソニー 
 ソニーはどこに向かうのか。2007年10月ソニーはPS3に搭載する最先端半導体セルの生産設備(システムLSI製造ライン)をDVD方式で争う東芝に売却することを発表した(10/18)。この売却に伴いソニーは米IBM、東芝と3社で進めてきた次世代半導体の製造技術の基礎研究からも離脱するとのこと。基幹部品の内製化という成功の方程式をやめ、映像・音響事業に集中するという。ここでも一段の水平化を進める方向が見える。
 とほいえソニーの技術で先端にあるものはまだ残る。
 たとえば非接触IC技術のフェリカ。読み取り機の上に置くタイプのICカードはこの技術を使っている。そして今後の技術として2007年12月に発売開始されたのは有機ELテレビ。もっとも薄い部分で3ミリ。11インチ。各社で争っているが、この技術開発はソニーが先行している。有機ELの利点は自ら発光するため背面光源が不要で薄くできること。現在は寿命の短さが難点になっている。平面ブラウン管テレビベガの成功に浮かれて、液晶(薄型)テレビ展開で遅れをとった反省がソニーにはあるという。
 液晶テレビメーカーには、有機ELテレビの登場に衝撃が走った。液晶テレビは薄いもので2センチ程度。今後画面が大きくコストが安いものが出れば有機ELに顧客が移る可能性がある。
 
部門別営業損益 単位:億円 構造改革費用など込み
部門06年3月期07年3月期08年3月期
電機-30915673560
ゲーム(SCE)87-2323-1245
映画(SPE)274427540
金融1883841226
ソニー全体22647183583


項目ソニー任天堂
自己資本比率28.77%69.93%
売上高経常利益率1.23%29.88
自己資本利益率3.84%16.79%
1株当り純資産3363.77円8614.97円
07/08/29終値5230円51500円
PBR1.56倍5.97倍**
PER(前日)42.65倍*39.78倍**
PER(当日)41.46倍38.16倍
配当利回り(前日)0.46%1.27%
配当利回り(当日)0.48%
1.34%

当日はYahoo Financeから。それ以外はNIKKEI Netによる前期実績値による数値。(この部分は07/8/29追記)

質問:Sonyの商品・技術力について、あなたの知見をのべなさい。
質問:Sonyの営業力や経営戦略について、あなたの知見を述べなさい。


Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
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