Entrance for Studies in Finance

case study:ジャスダック統合問題

Hiroshi Fukumitsu

新興株市場統合問題
新興株市場について市場の低迷が続くなかで、上場基準を緩めたことへの反省がようやく証券取引所関係者から吐露されるようになった。そして新興株市場をジャスダックに統合するという議論が行われるようになった。

 ジャスダックは2004年12月に証券取引所法上の取引所になり、成り行き注文も可能になった。また取引所化に先立って2004年4月には制度信用取引を導入。立会外分売制度も導入。特色としてのマーケットメイク制度には賛否両論。わかりにくいとの批判残る。
 ジャスダックは上場企業数約970と、新興企業向け3市場(ジャスダック 東証マザーズ、大証ヘラクレスをさす。その合計で1300超)の中でもっとも多くの上場企業をかかえる市場だが、2006年3月期をピークに業績は悪化し2008年3月期に営業赤字に転落見込みとなった。
 売買の低迷が新興株の流動性リスクを高め、投資家が離散する悪循環が続いている。新興株向け市場には地方取引所内のさらに小さな市場まであり、新興株市場が多すぎるため業界全体ではコストが割高になっている(システムの開発運営が重複することによる無駄がある)、新興企業向け市場は統合が必要というのは業界の共通認識といっていい。
 統合が必要な別の背景は、ジャクダックの株の7割をもつ日証協(日本証券業協会)が自主規制法人としての役割を強めていること。ジャスダック株を多数保有したままでは、規制をする立場と規制を受ける側との利益相反が生じる恐れがある。
 3市場の統合を構想する向きもあったが、東京証券取引所は07年12月18日にジャスダック株取得見送りを正式に表明。表向きの理由としては、ジャスダックを統合しても東証の企業価値を高める効果は少ないとの外部の評価機関の意見などが挙げられた。
 これに対して前向きの意思を示したのは大阪証券取引所。しかし大証との統合にはジャスダック内部に異論が多いとされる。大証は統合により、ジャスダック統合により新興株上場銘柄数を6-7倍に増やし、新興株の売買代金をより安定させることができる。
理屈としては、取引所は単一の株主に独占的に所有されるべきではない。ということがある。
 07年12月27日 日本証券業協会は傘下のジャスダック取引所の株式を大阪証券取引所に売却する交渉を始める方針を正式に決めた。背景にはジャスダックの売買の落ち込み(昨年比で47%)。しかし大株主の日証協のこのような意思とは別にジャスダック内部の意思意向があり、それが問題を複雑にしている。
 ただしそれぞれの立場を離れて互いに議論すると、乱立している新興市場統合が必要との共通認識はある。またジャスダックをめぐっては株取引に応じて証券会社が取引所に払う手数料が他の取引所に比べ割高で、運営の効率化が必要という点でも意見の一致がある。
2007年12月 日証協 大証への1jasdaq株売却決める
 2008年3月jasdaq取締役会。システムの一本化議案を否決
 2008年4月 日証協 jasdaq株売却を正式合意
 2008年6月jasdaq統合反対派役員一掃。 
 2008年8月にもTOB実施。10月にJasdaq臨時株主総会で大証からの役員受け入れ。委員会会社から監査役会社への変更を決議。

07年末ヘラクレスジャスダック
上場会社数173979
時価総額17,259億円134,852億円
売買代金12/26171億円336億円


マーケットメイク方式は廃止の流れにあった
ではジャスダックの手数料はなぜ高いのか。一つ理由とされるのはシステム費用が割高だということである。ではなぜ割高になるのか。
 実はマーケットメイク方式をとっているために、オークション方式をとるほかの市場に比べてシステムが複雑になるといわれている。マーケットメイクは証券会社側にもコスト負担が大きいため、マーケットメイク方式によるものは上場銘柄の4分の1程度、売買高は近年は10%を切るところまで低下している。
 ではなぜマーケットメイク方式を捨てられなかったかというと、それがカンバンになっていたからである。マーケットメイクについては、市場ではとりあえずマーケットメイカーである証券会社が売り気配・買い気配を出しているので、流動性の低い銘柄がでも売買できるという利点が知られる。
 ただ証券会社にすれば、この行為は在庫をかかえるリスクの問題だから、売り気配と買い気配の間のスプレッドを十分空けることになる。それは投資家の側からは、うまみのない値段ということだから、結局はその値付けが活きることが少なくなる。
 投資家の側は、証券会社がもうかる値段での売買に不信感があった。他方で証券会社にとっては、コスト負担が利益に見合わないとの不満が残った。
 ジャスダックは、1963年に始められた店頭登録制度が起源。その後、1976年の日本店頭証券発足で原型はでき、1983年からは公募増資が解禁されたことで成長企業の資金調達の市場として認知されるようになった。1991年にはJASADAQシステムが稼動。1998年にはマーケットメイク方式を導入した。しかしマーケットメイク方式をめぐっては、証券会社・投資家双方の不満が絶えず、改革がくりかえされてきた。投資家サイドからはスプレッドの縮小が課題となるが、それは証券会社の利益にはまさに合わないことであった。
 2004年12月にジャスダックが「ジャスダック取引所」に移行したとき(札幌取引所以来55年ぶりの新たな取引所として)に、オークション銘柄(マーケットメイクを採用しない銘柄)への成り行き注文(market order)の導入。信用取引時の担保掛目の引き上げ。立会外取引の導入。上場時の審査を間接審査(証券会社だけの審査)から直接審査を加えたものに変更。などの改革が行われた。
 ジャスダックは実態として取引所でありながら、取引所ではないという「アイマイな存在」であったが、そのことがこの取引所への移行で解消されたことになる。
 だが証券業界内で証券会社にとってコストの高い市場という批判は消えなかった。そこでシステム問題の議論が進むなか、2007年夏には、ジャスダックの売買システムを大証のものと2009年秋に統合が検討されていることが紹介された。システムの統合は、マーケットメイクの廃止と大証との統合を実務的には意味していた。
 試算ではシステム統合によりシステム開発関係の経費は4分の1程度に圧縮が可能とされた。
 なお背景にはジャスダックも大証もメーカーとしては日立が入っている(東証は富士通)。大証で2006年2月から本格稼動している新売買システムが、世界的にみても先端のシステムの一つだとの指摘もある。
成行注文market order
  指値注文limit order
注文の様々な形(orders)


参考
大証の新売買システム
  

不可思議な新市場開設(2007年8月)
 ところでジャスダックはこの統合問題の議論を進めながら新市場NEOを2007年8月に開設した。これは技術規定がある代わり、利益基準などを緩和して成長力のある企業の上場を促そうというもの。2007年11月にはその第一号として通信ソフト開発のユビキタスが上場した。しかし一方で市場間の統合問題を議論しているのに、他方で自市場の生き残り策である先端技術企業向け新市場を立ち上げる関係者の頭の構造は少なくとも私には理解不能である。

ジャスダック取締役会は売買システム統合を否決(08年3月24日)
 ジャスダックは2008年3月24日に取締役会として、売買システムに統合案を否決し、大証の株式独占保有に反対する見解をまとめたが、これはジャスダック内部の独立志向の強さを改めて示したが、これも外部からはよくわからない展開だった。
親会社ともいえる日本証券業協会の方針に対して子会社の取締役会が造反する驚きの事態。しかも取締役会の構成する中立的であるはずの外部取締役が、ほぼ全員が協会の方針に反対するという事態。これは何を意味するのだろうか。
 外部取締役が役割を果たしているとすれば親会社がよほどの無理難題をつきつけていることになる。日本証券業協会では、3月31日にジャスダック証券取引所株式の売却を議論する特別委員会を開き、過半数の株式を大阪証券取引所に売却する決定を行った。さらに4月8日には日証協では理事会でこの方針を正式に決定した。

複雑な経緯をたどったジャスダック統合問題
 すでに述べたように2008年3月24日にジャスダック取締役会は大証とのシステム統合を否決する(正確にいえば一本化決議を見送った)。これは事実上、統合の否定で72.6%の株式を保有する日本証券業協会の意向に対する造反。これに対して日本証券業協会は2008年4月8日の理事会で保有株式の大半を大証に売却する方針を正式に決めた。安東俊夫日本証券業協会会長はこれは証券業協会の総意だと述べて圧力を強めた。

語られない反対派の筋論
 ところが取締役会で反対に回った渡辺達郎氏は日本証券業協会副会長である。副会長が協会の方針に反対しているというのはどういうことなのか。またジャスダックの取締役会は、社外取締役中心で社会的地位、法律への見識のある人たちである。なぜその人たちが反対して統合派の筒井高志社長が孤立したのか。取締役会で反対の先頭にたったのはジャスダックの藤原隆会長である。金融庁で審議官まで勤めた人物。渡辺氏は同じく金融庁出身。その後、日本証券業協会で専務理事、さらに副会長を勤めた。これは業界の総意を金融庁出身の二人が反対したという構図なのだろうか。この二人が他の社外取締役を説得して反対したのは、個人的な私欲や金融庁の利権確保が目的だったのだろうか。どうも語られていない論点。なにか筋論があるように思えてならない。だからこそ他の社外取締役もともに反対に回ったのではないか。

安東俊夫氏と筒井高志氏との近すぎる関係
 行き違いの生まれた一つの原因として推測できるのは、安東氏と筒井氏とのあまりに近い関係である。二人はともに慶応大学出身、同じように1974年野村證券入社。安東氏は、2002年4月に野村証券専務から野村AM会長に展じ、その後、投信協会会長(03/06)、証券業協会会長(06/07)と歴任した。これに対して筒井氏は2005年6月に野村證券専務からジャスダック社長に転じた。この二人の太いパイプをベースにしたジャスダック改革の動きは、社内に様々な憶測と疑いを生み出したのではないか。

反対派退任による幕引き
 この問題は藤原会長のJパワー監査役転任。渡辺氏をはじめ反対派社外取締役の退任で、幕引きとなった。反対派が一斉退任すれば、統合の障害はなくなる。大証は2008年7月にもTOBを実施して、ジャスダックを子会社化する方針。統合が確実なこの時点(2008年5月)で改めて、なぜジャスダック内部が大証との統合に賛成しなかったのか。退任する役員は発言を控えたと思われるが、反対した理由をぜひ知りたいところだ。市場のあり方をめぐって大事な問題提起が実はそこにはあったのではないか。もともとジャスダック内では自主規制機能の分離・独立性の議論のなかで、委員会など設置会社に移行してその委員会のひとつに自主規制委員会を置いていた。またその議論の中で日証協が72%の株をもつことも問題視していた。ここは推測だが、自主規制機能をめぐる筋論の対立があったのではないか。


名称利益基準時価総額基準技術規定
NEO赤字の場合は黒字化の見通し10億円以上基礎技術利用開始から10年以内
JASDAQ最終黒字または経常利益で5億円以上or時価総額50億円以上10億円以上規定なし
MOTHERS規定なし10億円以上規定なし
HERCULES純利益7500万円以上 時価総額50億円以上 純資産4億円以上のいずれか規定なし


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JASDAQ銘柄の初値決定方式
新興株市場の低迷について

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

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