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人民元弾力化声明(2010年6月19日)

中国人民銀行が人民元弾力化声明(2010年6月19日)後の展開
 大幅な元高には輸出産業 輸出企業の利益を代弁する中国商務省が強く反対している。中国政府は元高が雇用問題への波及を恐れている。2010年6月19日の弾力化声明のあと2010年7月5日に1ドル6.76元台をつけたあと、相場は一時横ばいになった。その後、先進国の景気の先行き不安からの元高で8月4日午前の基準値は6.7715元(最高値更新)。一時6.7644元まで進行(8月9日)、元高になることを当局が警戒して元安誘導されたとされた8月13日には6.8035元。8月中旬に入ると元は元安の1ドル6.8元台に誘導されるようになった(輸出企業のドル売り需要があったが、かなり強力に介入がおこなわれた)。
 8月31日の基準値は6.8105元。
 9月に入ると米議会、米政府の批判に配慮して、中国政府は元高誘導に転換する。2010年9月15日(水)の上海外国為替市場は1ドル6.7452元で引けた(前日終値は6.7463元)。同日午前の中国人民銀行の中間値は1ドル6.7250元。いずれも2005年7月の切り上げ後の最高値。
9月15日そして9月16日開催の米議会上院銀行委員会公聴会に向けて元高誘導の姿勢を示した。
同日、日本では6年半ぶりに日本単独で円売り・ドル介入が行われた。米議会の上院銀行委員会委員長のドッドは、日本の単独介入を国際協調という理想とかけ離れたものと批判したのは、多分に中国の為替市場介入批判の妨げになることを意識しての発言だ。
 2010年9月16日(木)に米上院銀行委員会で証言したガイトナー財務長官は、6月の弾力化声明後の上昇幅がわずかに1%に過ぎないことに不満を表明した。しかし中国政府としては元相場上昇に対する国内の不満を考慮しながら、一層の元高に進んだ点を評価してほしいところだろう(16日の終値は6.7248元で4日連続の終値最高値更新 16日の中央銀行基準値は6.7181元。6月19日後の対ドルレート上昇率は1.5%弱に達した)。
 9月17日は6.7235元の最高値で取引が引けた。人民銀行の基準値は6.7121元となった。しかし米国での公聴会終了もあり、当局の元高誘導する動きは弱まるとみられている。
 9月21日には一時6.7元を突破。

 10月8日のワシントンでのG7財務省中央銀行総裁会議は、新興黒字国に為替レートの柔軟性の向上を求め、人民元の切り上げを促した。中国の人民元切り上げに向けて、先進国の不満は高まっているともいえる。しかしG7の主導力は弱まっており、焦点はG20に移っている。
 10月19日 中国人民銀行は2年10ケ月ぶりの利上げを決めた。これを受ける形で人民銀行は翌日の基準値を前日比0.3%安の1ドル6.6754元とした。これは海外からの投機資金の流入をけん制するため、一本調子の上昇を意思表示したもの。
 10月23日 韓国の慶州で開かれていたG20財務相中央銀行総裁会議は通貨安競争回避で合意。声明を発表して閉幕した。
 ところが元相場は10月下旬 下落に転じた。11月1日終値は6.7015元。そこから上昇。
 11月5日 上海外国為替市場終値6.6566元(4日連続の上昇)
11月10日 上海外国為替市場で一時6.6353元の元高(過去最高値)
 11月11日 ソウルでG20首脳会議始まる(ソウルで米中首脳会談)
 11月12日 中国人民銀行の12日午前の基準値6.6239元(最高値更新)
 11月末 現物相場は6.66前後 先物は6.50前後

2010年12月末 6.6元割れ
 12月24日午前の基準値6.6317元(久しぶり、ほぼ1ケ月ぶりの6.63台)
 12月28日午前の基準値6.6252元(1毛月半ぶりの6.62台)
2010年12月31日に中国人民銀行基準値1ドル6.5896元と切り上げ以降の最高値を更新(6.6元割れ 終値は6.5897元 終値の最高値更新は4日連続)。これは2005年7月以降の最高値。
 その後 年明け以降、市場では利益の確定売りがでて少し元安に戻す。一時6.63元台まで下落。1月12日(水)をみると午前中に基準値6.6128元の元高を記録。午後も6.61元前後。その後も13日(木)、14日(金)と最高値を更新(3日連続)。13日午前には基準値が6.5997元台。しかし17日(月)は小幅安。18日(火)午前は再び6.5891元と2005年7月以降の高値を更新した。(背景には胡錦濤国家主席の米国日程があるとされる。1月18日到着。1月19日午前 歓迎式典・米中首脳会談)元相場の引き上げには、国内のインフレ抑制の側面、為替介入による投機資金供給を停止したい思いがかさなる。

 中国人民銀行は、管理変動相場制への移行により輸出依存を軽減、内需重視への転換を目指している。中国政府は、2008年のリーマンショックのあと、製造業の輸出促進のためのドルペッグ制にもどっていたが、2010年6月に至って再び外圧をかわすため人民元弾力化を今回再スタートさせた。
 しかし中国経済体制は開放体制とは言い難い面を残している。たとえば株式市場は存在するものの公開されている株は資本全体の3割。株式市場を通じたコーポレートガバナンスは実現していない。また金利は自由化されておらず、金利による政策効果が遅いため、人民銀行はもっぱら窓口指導に頼っている。さらに外貨準備の増加に為替介入政策が現れている。国内には人民元供給の増加とインフレ懸念が生じている。
 為替変動を自由化して人民元切り上げることは、成長の果実を国民に享受させることにもつながると考えられる。しかしそのためには輸出依存経済から内需依存経済への転換。また企業の国際競争力の強化を急ぐ必要がある。

2010年6月19日(土) 中国人民銀行は「人民元の弾力性を高める」との声明を発表した(通貨バスケット参考の管理通貨制度へ復帰)。過去2年近くドルに固定してきた人民元相場について上昇を容認する姿勢示す(しかし今回の声明に、1日あたり上下0.5%以内という変動幅についての言及はなく、変動幅は現状を維持すると思われる)。
 6月26日からカナダのトロントで始まるG20に向けたパーフォーマンスとも評価される。
 当面中国当局の元切り上げ幅は小幅にとどまりそう(6月21日朝 人民銀行は取引基準値を18日と同じ1ドル6.8275元でスタート。同21日は終値6.7976元までの上昇を許した。翌22日は6.7980元が基準値、終値は6.8136元。さらに23日には基準値6.8102元に対し終値6.8124元と明らかに介入。大幅な元高は許さない意思は明確だった)。人民銀行は経常収支黒字幅の縮小傾向や、貿易収支が均衡に近付いていると指摘する。それでもわずかに切り上げるのは介入を減らしてカネ余りを是正する狙いもあるとみられる。
 他方でなお切り上げが予測される場合、元に熱銭が向かう。しかしこの熱銭について中国政府は、取り締まりを強化するとしている(大幅な元高は輸出産業 輸出企業の利益を代弁する商務省が強く反対しており雇用問題への波及の懸念もある。実際、7月5日に1ドル6.76元台をつけたあと、相場は横ばいになった。)。
 なお日本では、熱銭の取り締まりはむつかしく、元の大幅引き上げを期待する熱銭の大量流入を予測する声がある。

以下は2010年6月19日までの経緯
熱銭問題 輸出 輸出額の虚偽申告 地下銀行などのルートで 外国資金が流入
為替介入による外貨準備の積み上がり 介入は貿易など経常取引以外の流入対策、熱銭対策の面もある
 7割をドルで運用 2010年3月末で2兆4471億ドル 日本の2倍以上
                          2010年9月末で2兆6483億ドル
為替介入で放出された資金の吸収問題

2010年6月18日(金) 米大統領 G20首脳会議参加者に書簡 経常黒字国に輸出依存の是正 市場原理に基づく為替相場を求め人民元改革の必要性を示唆。同日、中国外務省次官は記者会見で人民元相場は中国の問題と発言。 
2010年5月11日 中国国家統計局が4月の消費者物価指数発表。前年同月比2.8%上昇。今年2月の2.7%上回り、政府の年間目標3%に迫る インフレ懸念高まる
2010年5月2日 中国人民銀行は5月10日から預金準備率を0.5%引き上げるとした(引き上げ後の準備率は大手金融機関で17.0% 前回引き上げは2010年2月その前が2010年1月)。景気過熱感のなか住宅バブルなどへの懸念が高まっていることに対応した措置。
人民元相場維持のための介入が金余りの一因。元切り上げ観測も短期の投機資金「熱銭hot money」を引きよせている。
2010年5月1日 上海万博開幕
2010年4月14日 中国国家統計局 3月の主要都市70都市の不動産販売価格 前年同月比11.7%上昇 10ケ月連続のプラス 伸び率は2005年7月以降で最大
2010年3月末 中国人民銀行の外貨準備高前年同期比25.3%増の2兆4470億8400万ドル(ドル買い介入のほか 投機資金流入を反映か)
2010年3月 オバマ大統領 演説で元の切り上げ促す
2009年12月 温家宝首相が米国による元の切り上げ圧力を批判
2009年11月末 中国欧州首脳会議で人民元改革求められる
2009年11月 訪中したオバマ大統領が為替制度の研究促す
2009年10月 米財務省 国際経済と為替政策に関する半期報告書で2009年4月に続き、中国を為替操作国との認定を見送り、人民元過少評価を指摘
2009年7月 東南アジア諸国連合との貿易で元建て決済認める
     ドル建てにたよることの危うさ
2009年7月 ワシントンで第1回米中戦略経済対話
2009年7月 ウルムチ暴動
2009年5月 ガイトナー米財務長官が訪中
2009年1月 オバマ米大統領就任
2008年11月 総額4兆元(54兆円)の景気刺激策発表(インフラ投資が8割強)
2008年9月 米国債保有高 中国が日本を抜き首位
2008年9月 リーマンショック
2008年夏 金融危機の影響をやわらべるため為替介入で6.8元台で固定

2008年7月以降 1ドル6.83元前後に再び実質固定(人民銀行が元売りドル買い介入実施) 金融危機に対応してドルペッグに回帰

2008年5月 四川大地震
2008年4月 人民元1ドル6元台突入
2008年3月 チベット騒乱
2007年5月 人民元変動幅拡大 
2006年2月 外貨準備高 中国が日本抜き世界首位

2005年7月21日 為替制度改革 それまで米ドルに事実上固定していた元相場を一定の幅で変動させる方式に変更」人民元を2%(2.1%)切り上げ 新通貨制度に移行 通貨バスケットを参考とする管理通貨制度へ移行を宣言 2008年9月のリーマンショックまでに18%の上昇を許すことになった。2005年7月 対ドルで2%強の切り上げ ドル連動制からの離脱 その後3年間で約2割上昇
 
2003年春 SARS流行
2002年 QFⅡ 適格海外機関投資家制度 導入
2001年12月 中国WTO加盟

originally appeared in June 26, 2010
corrected and reposted in September 23 and Oct.31, 2010

2010年9月8日 船長逮捕拘留で中国政府は態度を硬化させている

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