≪手を動かさねばっ!≫

日常で手を使うことや思ったこと。染織やお菓子作りがメインでしたが、病を得て休んでいます。最近は音楽ネタが多し。

柞刈湯葉(いすかりゆば)『人間たちの話』

2020-06-13 10:24:12 | 本 (ネタバレ嫌い)

SF短編集である。
彼の処女作『横浜駅SF』をいたく気に入ったのでハヤカワ文庫から出た柞刈湯葉『人間たちの話』も手に入れた。

『横浜駅SF』を読んで最初に思い出したのは 椎名誠氏の『アド・バード』で、実際あとがきにも柞刈氏も椎名氏が大好きでその影響が出ている、とあった。
この『人間たちの話』にも椎名氏の影響のある話(あとがきにもそうある)も入っているけれど、バラエティに富んでいる。6編入ってますからね。

柞刈氏は生物畑出身なんである。そこに興味のあるわたしとしては好奇心をそそられる。とはいっても如何にも生物してます、なんて話はないよ。そこが氏の漠とした広さを表しているようでおもしろい。

それぞれの話は全然違う舞台で登場人物もシチュエーションも違うのだが、妙に登場人物に共感できるのだなあ。 いや、 ぺたぺたと 分かるう ! みたいなことにはならないのだけれど、 そうだよなあ、 みたいな気分にはなれた。その微妙な距離感がすごく気に入った。 人間いろいろありますよ、あなたの思いもよらないわたしかもしれないし、わたしの思いもよらないあなたかもしれないし、でも存在してるんだよね、っていう感じ。通底しているのは「愛」ですかね。すう~っ と薄くね。それくらいがいいよ。

6編のうちわたしがいちばん身近に感じられたのは「たのしい超監視社会」だな。うん、大いにあり得る。
何にせよ生まれたからには死ぬまで生きてくのだ、せめて楽しみたいものだよ、と思いました。

 
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メノ・スヒルトハウゼン『ダーウィンの覗き穴』、日高トモキチ『マンガ版 ダーウィンの覗き穴』

2020-04-13 15:50:19 | 本 (ネタバレ嫌い)

右の緑の本をマンガ化したのが左の黄色い本だ。
緑の本の副題には「性的器官はいかに進化したか」とある。そういう話である。テンコ盛りである。
卵は精子より数が少ないので雌雄で思惑が異なる、という出発点から如何様に発展するのか、っていう迷宮である。
「事実は小説より奇なり」 というか、こんなん想像できません!

実は日高トモキチ氏のマンガ版をネットの Hayakawa Books & Magazines(β)内で読むことができる。 さあどうぞ!

いやあ、生物って有性生殖って面白いですね!


 
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ファビオ・ジェーダ 『海にはワニがいる』

2019-06-01 10:42:24 | 本 (ネタバレ嫌い)

少年エナヤットはアフガニスタンの小さな村で母や家族と暮らしていたが、タリバーンが政権についてから村は迫害されるようになる。父親が死んで、学校も閉鎖され、いよいよ身の危険を感じるようになって母は10歳のエナヤットを連れてパキスタンへ脱出した。そしてある夜、母は姿を消してしまう。
エナヤットの過酷な日々をファビオ・ジェーダが聞き取り本にしたものである。

つまりこれは難民のリアルな話なのだ。

たった10歳の少年が異国で独りどうやって生きて行けばいいのか?
彼はより良い暮らしを切実に求めてイラン、イラク、トルコ、と北西へ移動してゆく。
生き延びられたのはひとつは幸運だったこと。もうひとつは彼が賢かったこと。

少年が主人公のファンタジーを読んでいるかのように思えてしまうこともあれば、そうであったらよかったのに、と現実を思い出すこともあった。

昨年 『判決、ふたつの希望』という映画を観たが、あれはレバノンのベイルートでの話だった。難民問題が重要な要因だった。

明日は我が身、と思うには辛すぎる。考えずにすむならそれに越したことはない。
しかし実際には思った以上に身近だ。日本政府は難民認定を渋りまくっているから人数は少ないけれど、色々な理由で日本に住んでいる外国人はもうすごく増えている。日本に憧れて、という人もいると思うけれど、それ以外の理由、止むに止まれぬ理由があるんじゃなかろうかという人も多いのではないか。

エナヤットの1人称で語られるこの話は、集団としての難民ではなく、ある日突然難民になってしまった1個人がどのように感じ考え行動したか、知ることができる。
過酷だがそれだけではない。人を酷い目にあわせるのが人なら思いもかけず助けるのも人だ。わたしはどちら側につくのだろう?


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計見一雄『 統合失調症あるいは精神分裂症 精神医学の虚実 』

2018-11-14 14:05:45 | 本 (ネタバレ嫌い)


計見一雄『 統合失調症あるいは精神分裂症 精神医学の虚実 』 アマゾンへリンク→

ブックオフでなぜだか紺背の講談社学術文庫でカタい題名のこの本を手に取ったのだが、表紙のサブタイトルに「精神医学の虚実」とあって、おっ、いけるかも、と出だしを読んでみたんである。

3p.
「はじめに-精神病はただの病気である」

虚実でいうなら 実 を語っているんだな。ほうほう、と思い、次は本文を見てみる。

12p.
「第一回講義 決まり文句を疑う
ジャーゴン
まずは精神医学的な業界用語、隠語ですね。ジャーゴンの話から入ろうと思います。」
ぶっちゃけた感じが期待させる。
というか、「はじめに」の最後部分に
6p.
「本稿は2003年5月から2004年3月まで、千葉県精神科医療センターでおこなった10回の連続講義をまとめたものです。」とあり、
6p.
「喋ったものを原稿に書き直したので、多少ラフな印象を与えるかもしれません。感じが悪いところは、筆者の柄の悪さが出たものとお考え下さい。」
とあるのを読んだのは買ってからで、納得したんだけれど。

で、何をそんなにぶっちゃけちゃってるかというと、偉い先生が「~である。」っていっているけど違うよね!?ってことなんである。とりあえず本書の入り口は。
しかし先人批判だけで1冊うめられては最後まで読みきれない。色々な話が出てきます。


個人的にぐっときたのが
190p.
「あんたを見ていると、まっすぐ行って帰ってくればいいものを、あっちとかこっちとか気を取られる。変なところに気を取られて、自分が今何をしているのか忘れてしまう。それはやめなさい」
という一説。煙草を吸いにいこうとするのに頓挫して他の患者をヘッドロックしてしまう患者の例なんだけど。嘘をつかないピノキオのわたしには刺さるね。
あと、
214~215p.
「憑かれてるから疲れない」
の段もぐっときた。


ただの病気、といわれてもパッと見で色が違う、とかいうのではないし難しいのは難しいのだ。ネタバレしようにもうまく説明できないくらい理解していないなので、そういう意味では幸いだ。

分からないなりに色々な話が面白かったが、読み終えて思ったのが、とりあえず拙速に人に対応しない方がよいかも、ということだな。先だって観た映画『判決、ふたつの希望』を見ときに思ったのが、声を荒らげたり相手を挑発するような物言いは厳に慎むべきだ、ということだったが、それにも通ずるかな。


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細川貴弘『カメムシの母が子に伝える共生細菌』

2018-10-24 08:51:15 | 本 (ネタバレ嫌い)

この夏、ぐんま昆虫の森で『カメムシすごいぜ!』展 を観に行った ときに買ったもの。

期せずして共生細菌づいてます。あっ、ネタバレ(別の本)か!?
この本に直接関係ないし、その話はヤメ。


虫って特定のものしか食べない「偏食」が多いよなあ、と漠然と思っていた。
哺乳類だと あっちをつまみこっちをつまみ という感じで、たとえ草食といえでも色々な種類を食べていたり、虫に比べりゃ意外と偏食じゃないな、とは思っておったんである。

まず本文冒頭からそのことについて始まる。
p.2
「これは何か仕掛けが隠されていそうである。
 この謎に関しては古くから多くの研究がおこなわれており、現在ではかなりはっきりした答えが得られている。栄養成分が著しく偏った餌資源だけを利用して生活している昆虫は、体の内部に共生細菌を保持しており、餌資源の中に不足している栄養分を共生細菌に合成してもらうことで栄養不足を解消しているのである。」

抗生物質の投与によって共生細菌を取り除いて育てたチャバネアオカメムシの写真はなかなかインパクトがある。

そして、色々な種類の昆虫が共生細菌を持っているらしい。
例えば、アブラムシ類、ゾウムシ類、ツェツエバエ類、ヒトジラミ類、など。ああなるほど、餌が偏っている気がする。

p.4
「これらの昆虫の共生細菌は、単一の共通起源をもつのではなく、昆虫分類群ごとに独自の進化的起源をもっているのだ_」
長い歴史があるらしい。もう切っても切れない仲のようだ。

p.6
「・共生細菌は宿主昆虫の菌細胞の内部に寄生している
・共生細菌は宿主昆虫の母親から子へ垂直伝播される
・共生細菌は宿主昆虫と共種進化している
・共生細菌のゲノムサイズが非常に小さくなっている」


ここまで教えちゃってからのカメムシなんですよ。
カメムシといえば母親が卵を守る行動が有名である。さあ、それと垂直伝播を掛け合わせるとどういう面白いことが出てくるでしょう? というのがこの本の醍醐味である。

生き物って面白いねえ!


ひるがえって、ヒトがどうか、というと、腸内細菌ネタはずいぶん耳にするようになったし、皮膚常在菌とか、われわれの体にはすっごく沢山の種類や量の菌がいるらしい。
そのうちその分野で面白い本に出会うことを期待している。


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