来年1月末で65歳の完全定年を迎える友人から「山に行こう」と誘われた。彼は団塊の世代の最後のサラリーマンである。その世代の特徴なのか、彼は仕事一途でほとんど趣味を持っていない。そんな彼はリタイヤが間近になってから、その後のことを真剣に考えるようになったと言う。彼は散歩で良く歩いていることから、とりあえず考えたのがアウトドアーとしての山登りである。しかし今までに高い山には登った経験がないから、「最初は近場の低山から・・」という要望である。そんなことから川崎に住んでいる彼の近場、神奈川県にある大山に登ることになった。この山は古くから霊山として庶民から信仰され、山頂には阿夫利神社本社、中腹には阿夫利神社下社がある。標高1252mの山だが、途中(700m)まではケーブルカーがあるから、山頂までは550mの標高を登ることになる。高尾山が599mであるから同程度の山で、彼の体力を測るには相応しい山である。
小田急線の伊勢原駅からケーブル駅まではバスである。朝8時に伊勢原駅で友人と待ち合わせ、駅を出てバス停に行くと、そこにはすでに長い行列ができていた。寿司詰め状態のバスで約30分、大山ケーブル駅のバス停に着いた。そこから15分ほど歩くとケーブル駅である。そこでもすでに長い行列ができている。定員100人乗りのケーブルカーを2台待ってやっと乗ることが出来た。そして通勤ラッシュ並みのケーブルカーは10分弱で阿夫利神社(下社)駅に到着した。そこは標高700mである。正面のはるか先には相模湾が見え、東方向には遠く横浜ランドマークタワーが望める。阿夫利神社にお参りしてから、神社の裏手から登山道に入る。そこからもだらだらと行列を作って登ることになる。40年ほど前に登ったことがあるが、そのときは閑散としていて人と会うのが珍しいほどであった。やはり今はアウトドアーとしての登山人気は高いのであろう。
登り初めて10分もすると、友人が「ちょっと休もう」と言う。しかたなく登山道の広くなった場所を見つけ、道の端に座って5分ほど休む。それからまた上り始めたのだが、また10分ほどすると、「きつい、休もうよ」と後ろから声がかかる。またつき合って休むが、さすがに3度目になったとき、これは付き合いきれないと思うようになった。「これではこちらの調子が狂うから、しばらく歩いて上で待ってるよ。だから自分のペースでゆっくり登ってきたら」、そう言いって一人で登ることにした。30分ほど登って下から上がってくる友人を待つ。しかし10分経っても上がってこない。そして15分が経過する。さすがにそこまで遅れると心配になる。携帯を出し彼に電話をかけて見る。しかし電話は繋がらず直ぐに留守番電話になってしまった。そして待つこと20分、やっと息を切らせ疲れた表情で彼は上がって来た。
「大丈夫?」と私、「大丈夫大丈夫、自分のペースで登れば何とかなるから」そう言いながらも、荒い息はなかなか収まらない。しばらく休んで2人は再び出発する。しかし2人の距離は次第に開いて、下から来る彼の姿は見えなくなる。私の経験からすれば10分15分と歩けば乳酸が足に溜まりだるく重くなってくる。ここで休んでしまえば、休憩の繰り返しになり登山にはならない。普通登山では1時間歩いて10分休憩が基準といわれる。きつくなってもしばらく我慢して上り続けると、足はそれに慣れてきて、後は惰性で登れるようになるものである。しかし彼の体重は86kg、私より15kg重い。米5kg詰め3袋(15kg)を背負って歩いていると思えば、そのハンディーから仕方ないのかもしれない。私は一気に頂上まで歩いて彼を待つことにした。喘ぎ喘ぎ彼が上がってきたのは、別れてから35分後であった。結局行程1時間30分のこのコースを我々は3時間を要したことになる。
頂上から眼下を見下ろしながら昼食を取る。本来なら富士山が見えるはずだが、今日は曇りがちなのか雲に隠れて見ることができない。しばらく頂上で休んでから今度はなだらかな尾根伝いにケーブル駅まで歩くことになる。下りでもやはり彼は遅れ、1時間15分の行程を2時間近くを要した。山登りで一番必要なものは持久力であろう。彼のように特段のトレーニングもせず、体重のコントロールができてなく、しかも年齢の衰えが顕著になってきての山登りは、どんなに低山といえども無理があった。彼にとっては今回の山登りは苦行であったはずである。彼が期待している「山登りを楽しむ」ためには、まずは体重を落とすことが必須であろう。そのことは本人も自覚したようで、「頑張って体重を落とすから、次回は高尾山に登ろう」と、今回の山登りではまだ諦めていないようである。
伊勢原駅からケーブル駅までバスで30分
ケーブル駅までバス停から歩いて15分
ケーブル駅には長い行列が出来ていた
ケーブルカーの中も満員
阿夫利神社(下社)
かっこよく決めた山ガール
神社の裏手の急な階段
山道でも行列
富士見台 晴れていれば正面に富士山が見えるはず
リュックと幼児を背負い子供の手を引く
遅れること35分、喘ぎながら疲れた表情の友人
山頂にある阿夫利神社(上社)
頂上からの眺望
帰りは雷ノ峰尾根から下る
下りでも遅れている友人、体重が災いしているのであろう
見晴台 もうすぐ秋
長い下り道
モミジも少し赤くなり始めている
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