だいぶ間があいてしまいましたが、ロスタムがイラン王カイ・カヴスを救出に行く際の冒険のお話です。
獅子や龍と闘うというシンプルなストーリーなので、他の写本の挿絵も見てみたいよね~、と、約14冊分ほどの写本の挿絵を集めてみました。
同じ龍退治の話でも、いろいろなパターンがあってそれぞれ綺麗だし面白いです。
が。
このとりまとめが大変で。
読んで下さっている方にも少しでも面白いと思って頂けるといいのですが・・・。
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12.ロスタムの七つの試練(上)
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■登場人物
ロスタム:白髪のザールの息子。
ラクシュ:ロスタムの馬。黄色地に斑点模様。
マザンダラン(地名):人間とともにディヴや魔術師が住む国。架空の土地で、現在のマザンダラン地方(カスピ海南岸)とは無関係。
■概要
軽率で傲慢なイラン王カイ・カヴズは、アーリマンにそそのかされて魔術師とディヴ(鬼)の国マザンダランを侵略しに行きましたが、兵士ともども捕らえられ魔法で目が見えなくされてしまいました。
ザールは息子ロスタム(と愛馬ラクシュ)に、救出を命じました。
マザンダランへの最短の道は、数々の苦難が待ち受ける道程でした。
獅子、水のない砂漠、龍、魔女をなんとかクリアして更に進みます・・・。
■ものがたり
□1□第一の試練:ラクシュと獅子の闘い
シスタンを出発したロスタムは興奮で顔を紅潮させ、暗い夜も明るい昼もラクシュを走らせ、2日分の旅を1日で終わらせました。
疲れて空腹になると、前方に野ロバがたくさんいる平原が見えてきました。
彼はラクシュを駆り、野ロバに追いつきました。どんな動物もラクシュの速さとロスタムの投げ縄を逃れることはできません。ロスタムが投げ縄を投げると、その縄は勇敢な野ロバの頭を捕らえたのです。
そして、矢の先で火を熾し、その上に茨と屑を積み上げ、獣を殺して皮を剥ぐと、その炎の中で調理しました。彼はすっかり肉を平らげ、骨だけがのこりました。
彼はラクシュの手綱を外し、近くの草原を自由に歩き回らせました。
ロスタムは葦藪のひとところに寝床を作りましたが、実はその場所は安全ではありませんでした。葦の中には獅子の住処があったのです。
明け方、この獅子は巣に戻ってきました 。
彼は象のような大男が葦原でぐっすり眠っているのを見ました。
●眠るロスタム(f118r)
そして、その前に一頭の馬が起きて立っているのを見ました。
「馬の乗り手に爪を立てるには、まず馬を倒さねばならないだろうな。」
獅子はラクシュに向かって突進し、襲いかかりましたが、ラクシュはライオンの頭に前足のひづめを打ちつけ、鋭い歯を背中に食い込ませました。
そして獅子を地面に投げ捨て、引き裂いて、この野蛮な動物を無害にしました。
●獅子と闘うラクシュ(f118r)
ロスタムが目を覚ますと、獅子が死んで横たわっています。
彼はラクシュに言いました。
「お前、なんという無茶を。誰が獅子と戦えと言ったか?
もしお前が殺されていたら、この兜、虎皮、弓、投げ縄、剣、そして巨大な棍棒を持って、どうやってマザンダランに行くことができようか?
私を起こしてくれれば、獅子との闘いは短かったはずだ。」
□2□ロスタムの第二の試練:ロスタムは泉をみつける
山の頂から陽が昇ると、ロスタムは甘い眠りから目を覚ましました。
ラクシュの体をこすり、鞍をつけ、行く道の無事を神に祈りました。
この日の道程は、暑く、乾ききった土地でした。
水のない砂漠は、鳥が粉になるほどの暑さで、平野と廃墟は焼け野原のようでした。
ラクシュは疲れ果て、ロスタムの喉は渇ききってしまいました。
ロスタムは馬を降りると、長槍を杖にしてよろめきながら進みました。
彼は救いを求め、天を仰いで言いました。
「おお神よ。あなたが我が頭上に全ての苦難をもたらし、我が苦痛に喜びを見出すならば、私の寄与は大きいはずです!
私は、神がカヴス王に慈悲を与え、神の命に従ってイラン人をディヴの手から解放することを願って旅をしています。彼らは罪を犯しあなたに見捨てられましたが、それでもあなたの奴隷であり崇拝者です。どうか私に任務を果たさせて下さい。」
ロスタムの舌は乾いてひび割れ、灼ける大地に倒れてしまいました。
やがて、目の前をよく太った雄羊が通り過ぎていくのを見ました。
彼は思いました。
「この羊はどこで水を得ているのだろう。このような時にこの動物を見せてくれるとは、これは神の慈悲に違いない。」
彼は右手に剣を握り、力を振り絞って立ち上がりました。片手に剣、もう片方の手でラクシュの手綱を引いて雄羊の後を追いました。
●ロスタムが追いかけた羊が水場に辿り着く(Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers.10, f.83r)
雄羊は彼を小川に導き、ロスタムは顔を空に向け神に感謝しました。
「慈悲深き神よ!この羊は水辺に足跡を残していません。これは生身の砂漠の羊ではないのですね。」
そして神秘の雄羊に祝福を与えました。
「お前の牧草地が常に緑で、豹がお前を獲物と思わないように。お前を射ようとする者の弓が折れ、その矢が逸れるように。ロスタムはお前によって生き延びたのだから。
お前がいなければ、私は今頃自分の屍衣を準備していただろう。」
そして、ラクシュの馬具をはずし澄んだ水で全身を洗うと、ラクシュは太陽のようにきらきらと輝きました。
そして、ロスタムも渇きを癒やし、力を取り戻して、矢筒をいっぱいにしてラクシュに跨がり、大きな野ロバを倒しました。
皮を剥ぎ足を落とし、内臓をとりだして小川で洗い、炎の中で調理しました。
彼は手で骨を引き裂きながら食事に没頭し、また小川に戻って喉を潤しました。
彼はもう眠ろうとし、ラクシュに言いました。
「今夜は誰とも戦うなよ。もし敵が現れたら、私を起こすように。魔物や獅子にひとりで立ち向かうことはない。」
そして、横になって唇を塞いで眠り、ラクシュは夜中まであちこちの草を食みながら歩き回っていました。
□3□ロスタムの第三の試練:龍との闘い
眠るロスタムのもとに、近くの荒れ野に棲む龍が近づいてきました。
その龍はどんな象も逃がしたことがなく、魔物でさえもその荒れ地を通ることを恐れる程でした。
龍は、眠っている人間と、そのそばにいる馬を見て怒り狂いました。
「こいつらは何だ? 誰がわざわざこんなところで休もうとしているのか?」
というのも、魔物も象も獅子も、龍を畏れてこの道を避けていたからです。
龍は艶やかなラクシュに牙を剥きました。
ラクシュは急いでロスタムのもとへ駆け寄り、蹄で地面を踏みしめ、激しく嘶きました。
ロスタム目を覚まし荒野を見渡しましたが、周囲に何も見つけられず、自分を起こしたラクシュを叱りました。
彼は眠り、再び龍が暗がりから近づいてきました。ラクシュはロスタムの寝床に駆け寄り、大地を蹴って踏み鳴らしました。
眠っていたロスタムは目を覚まして辺りを見回しましたが、静かな暗闇のほかは何も見えません。彼は愛情深く見守っているラクシュに言いました。
「お前は夜の闇を見通すことができないのに、また私をせっかちに起こしたね。
もしこれ以上邪魔をするならば、私の鋭い剣でお前の首をはね、兜と巨大な棍棒を徒歩で運ぶことにするよ。
私は『獅子が迫ってくるなら立ち向かう』と言ったが、『夜中に駆けつけてくれ!』とは言っていないだろう。どうか私を眠らせてくれ。」
そして三たび、虎皮の胴着をかけて眠りにつきました。
恐ろしい竜は更に近づき、唸って火を噴きました。
ラクシュはすぐに牧草地を離れましたが、ロスタムに近づくのをためらいました。
彼はロスタムも龍もどちらも畏れて心を乱しましたが、やがて主君への愛情に駆られ、ロスタムの側に素早く駆け寄り、嘶いて騒ぎ、その蹄で地面を激しく踏み荒らしました。
ロスタムは甘い眠りから覚め、ラクシュを叱りつけようとしましたが、しかし今回は神が龍を見ることを望みました。ロスタムは闇の中で龍を見つけ、剣を抜いて龍に向かって大声で叫びました。
「そなたの名前を教えよ! 世界はもはやそなたのものではない。しかし名も知らずにそなたを殺すのは忍びないのだ。」
恐るべき竜は鷹揚に言いました。
「誰も私を侮ることはできない。
何世紀もの間、この荒れ地は私の家であり、私の大空であった。鷲が飛び越えることもなく、星もこの上では瞬かない。
そなたの母親はそなたのために泣くであろう。名を名乗れ。」
戦士は答えました。
「私はロスタム、ザールの息子で、ナリマンの家系のサームの孫だ。
私は戦士であり、勇敢なラクシュと共に闘う。そなたは我が武勇を見よ。そなたの頭を塵に帰すであろう。」
龍はロスタムに飛びかかりました。
ラクシュはその強靱な巨体がロスタムに迫っているのを見ると、耳を寝かせ、竜の肩に歯を食い込ませました。そして獅子のように竜の肉を引き裂き、ロスタムはその勇気と強さに驚かされたのです。
ロスタムは鋭い剣の一打ちで竜の頭を切り落とすと、頸から毒が川のように流れ出しました。
●龍と闘うロスタムとラクシュ(f119v)
くずおれた龍は大地を覆い、暗い砂漠には血と毒が溢れていました。
すさまじい光景にロスタムは恐れおののき、何度も神の名を唱えました。
彼は小川に入り、体を清めて祈りました。
「偉大なる神よ、あなたは私に力と知性と技を与えて下さいました。
しかし、敵は多く、時間はあまりありません。」
□4□ロスタムの第四の試練:ロスタムが魔女を殺す
ロスタムは感謝の気持ちを込めてラクシュに馬具をつけ、彼にまたがって魔術師が住む世界に乗り込んできました。
長い間馬に乗っていた彼は、夕暮れになって草木や小川が流れる風景を目にしました。
雉の目のようにキラキラ輝く小川があり、その横には葡萄酒を満たした黄金の杯がありました。また、山羊の丸焼きやパンもあり、近くには塩壺や砂糖漬けの果物もありました。それは魔術師たちの宴会場だったのですが、彼が近づいてくるのを聞いて姿を消してしまったのです。
ロスタムは馬を降り、ラクシュから馬具をほどきました。
彼は山羊肉とパンを見て驚き、小川のほとりに腰を下ろして宝石をちりばめた杯を葡萄酒で満たしました。そのかたわらにはリュートが置いてあり、まるで砂漠が宴の場であるかのようでありました。
●小川の傍らの楽器や酒器、盃(f120v)
ロスタムはリュートを手に取るとつま弾いて、自分のことを歌い始めました:
「ロスタムの歌を歌おう。
彼はまだ故郷を遠く離れ、喜びの日々はなく、
ありとあらゆるの悪鬼に狙われ、
ひとときの安らぎもない。
闘いにあけくれ、寝床は丘の中腹か砂漠の砂。
悪魔やドラゴンが日々の獲物で、
魔物や砂漠が彼の疲れた道を塞いでいる。
かぐわしい花や葡萄酒、緑の草木が茂る麗しい土地、
それらは彼のためのものではない。
鰐と格闘している最中から、豹がつぎの闘いを待ち構えている。」
彼の歌は魔術師の一人である魔女の耳に届きました。彼女は春のように美しい若い娘に変身し、香水をつけ美しく着飾り、にこやかに挨拶してロスタムの隣に座りました。
ロスタムは密かに神に感謝しました。マザンダランの平原で、このようなご馳走と葡萄酒に出会えたこと、そして今、若く美しい女性の酌婦にも出会えたことを。
彼は彼女の手に葡萄酒の杯を置き、すべての善きものの創造者である神をともに賛美しようとしました。
しかしこのとき女の態度が変わりました。
彼女の魂はそのようなことを理解できず、彼女の舌はそのような賞賛を口にすることができません。神の名を聞いただけで、彼女は青ざめてしまいました。
ロスタムはこれを見て風のように素早く投げ縄を彼女に巻きつけ、あっという間に彼女を巻き綱で縛り上げて問いただしました。
「お前は一体何者だ!? 正体をあらわせ!」
すると投げ縄の中に、悪意に満ちて、皺だらけの醜い老婆がいました。
ロスタムは短剣で彼女を二つに切り裂き、それを見た他の魔術師たちの心は恐れおののきました。
●魔女を斬るロスタム(f120v)
■シャー・タフマスプ本の細密画
ずっと知りたいと思っていた画家の情報がわかりました。過去の表にも追記する予定です。
サムネイル | ページ番号 | 画のタイトル※ | タイトル和訳 | 所蔵館と請求番号 | 画像リンク先 | 備考※ |
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118 RECTO | Rakhsh Slays a Lion | ルスタムの第一の試練: ラクシュがライオンを倒す | The Museum of Fine Arts, Houston, Texas, United States. LTS1995.2.48 | ● | 画カディミ |
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119 VERSO | Rustam's third course: he slays a dragon | ルスタムの第三の試練:ドラゴンを倒す | The Khalili Collections, MSS 1030, folio 119 | Khalili | 画アブド・アル・ヴァハブ |
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120 VERSO | Rustam's fourth course: he cleaves a witch | ルスタムの第四の試練:魔女を薙ぎ倒す | MET, 1970.301.17 | MET |
p149 |
※画家の情報は、次の本より。
The Shahnama of Shah Tahmasp : the Persian book of kings
Sheila R. Canby ; [edited by Marcie M. Muscat]
Metropolitan Museum of Art , Distributed by Yale University Press, c2014
■その他の写本の細密画
段取りのせいかどうか、とりまとめにめちゃ時間がかかりました。
写本ごと、ではなくストーリーに沿って、たとえば「獅子との戦い」がまとまっていて、比較しやすいようになっています。
サムネイル、もしくはリンク先をクリックすると大きな画像が見られますので、よかったら見てみて下さい(リンク先の方が勿論解像度がいいですが、ちょっと遅いときがあります)。
サムネイル | 連番 | フォリオ番号、タイトル | タイトル(日本語) | 所蔵館と請求番号 | 画像リンク先 | 備考 |
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他1 |
90v Rakhsh attacking the lion while Rustam sleeps. | 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う | ②British Library, Add MS 18188 カタログ |
● |
1486, Turkman/ Timurid 様式 |
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他2 | 73r Rustam's first labour: Rakhsh kills a lion, Painter B. | 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う | ⑤Library of Manchester, Ryl Pers 910 | ● | 1498?/1518?/ 1570? |
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他3 | 277.22 Rustam's horse Rakhsh fights a lion while Rustam sleeps, | 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う | ⑪Chester Beaty, Per 277.22 | ● | 1590-1600 |
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他4 | 056r Rustam's first labour: Rakhsh kills a lion | 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う | ⑭Fitzwilliam Museum, Ms 311 | ● | 1620 - 1621 |
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他5 | 074r Rustam's first labour: Rakhsh kills a lion | 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う | ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 | ● | 15XX、1670 年代 |
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他6 | - | 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う | ⑯Blitish Museum 1948,1211,0.23 | ● | 1515-1522, タブリーズ (シャータフマスプ本のために描かれたが使われなかった?) |
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他7 | 83r --- | 第二の試練:砂漠で泉をみつける | ⑧Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10 | ● | 1560-1750 |
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他8 |
91v Rakhsh helping Rustam defeat the dragon. | 第三の試練:龍と闘う | ②2British Library, Add MS 18188 カタログ |
● |
1486, Turkman/ Timurid 様式 |
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他9 | 74r Rustam's third labour: he kills a dragon, Painter B. | 第三の試練:龍と闘う | ⑤Library of Manchester, Ryl Pers 910 | ● | 1498?/1518?/ 1570? |
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他10 | RUSTAM KILLS THE DRAGON | 第三の試練:龍と闘う | ⑥シャーイスマイル二世のシャーナーメ、Aga Khan Museum, AKM100 | ● | 1576–77、カズウィン |
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他11 | 99v Rustam's third labour: he kills a dragon | 第三の試練:龍と闘う | ⑩Staatsbibliothek zu Berlin, Diez A fol. 1 | ● | 1593 |
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他12 | 205r Rustam's third labour: he kills a dragon | 第三の試練:龍と闘う | ⑫Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 4251 | ● | 1605,イスファハン |
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他13 | Rustam's Third Feat: he kills a dragon. | 第三の試練:龍と闘う | ⑬The New York Public Library, Spencer Coll. Pers. ms. 3 | ● | 1616-07、シラーズ? |
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他14 | 57r Rustam's third labour: he kills a dragon | 第三の試練:龍と闘う | ⑭Fitzwilliam Museum, Ms 311 | ● | 1620 - 1621 |
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他15 | 75v Rustam's third labour: he kills a dragon | 第三の試練:龍と闘う | ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 | ● | 15XX、1670 年代 |
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他16 |
92r Rustam killing the witch woman. | 第四の試練:魔女と闘う | ②British Library, Add MS 18188 カタログ |
● |
1486, Turkman/ Timurid 様式 |
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他17 | 85r -- | 第四の試練:魔女と闘う | ⑧Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10 | ● | 1560-1750 |
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他18 | 76r Rustam's fourth labour: he thorns a sorceress | 第四の試練:魔女と闘う | ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 | ● | 15XX、1670 年代 |
■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●118 RECTO Rakhsh Slays a Lion ロスタムの第一の試練: ラクシュがライオンを倒す
〇Fujikaメモ:
愛馬ラクシュが、ロスタムが眠っている間にひとりで獅子を退治するシーンです。
シャー・タフマスプ本では、あっさりした色の背景をバックにロスタムが眠っていて、手前の川と葦・草の茂みの上で獅子とラクシュが闘っています。
(他6)はタブリーズの様式。タフマスプ本のために準備されたけれど採用されなかったとも言われる絵です。このふたつを比べると、(他6)は特に背景というか地が濃密な描き込み、f118rはすっきりあっさり、ずいぶん雰囲気が違います。
13冊のうち5冊について、このシーンの挿絵が描かれています。
構図も色合いも、様々ですよね!
でも、ロスタムはどの絵でも、前腕と脛の防具や兜などほぼフル装備のまま、盾を枕に寝ています。
●ロスタムの第二の試練:砂漠で泉をみつける
〇Fujikaメモ:
この部分を絵にしている本は少ないようで、12冊のうちひとつだけ絵がみつかりました(他7)。バイエルン州立図書館の本です。
雄羊の後をついていったら小川がみつかり、ロスタムは天を仰いで感謝する、という場面です。文章だと、ロスタムはよろよろ歩いてラクシュの手綱をひいている様子なのですが、この挿絵では、ロスタムは騎馬の状態ですね。
あと、ロスタムを導く動物は、私が読んでいる英語資料では、well-fed Ramよく肥えた雄羊/ram with fat haunches脂肪ののった臀の雄羊、とあって、すっかり普通の家畜の羊(羊毛がモコモコの)かと思っていたのですが、この絵をみると、毛は短くて野生のガゼル?鹿?のようにも見えます。砂漠に突然、家畜の羊が一頭だけあらわれるよりも、野生動物があらわれる方が自然かもしれません。
●119 VERSO Rustam's third course: he slays a dragon ロスタムの第三の試練:ドラゴンを倒す
〇Fujikaメモ:
ロスタムとラクシュが協力して龍を退治する名シーンです。
タフマスプ本の挿絵は、薄紫の地面を背景に、ゴールドの龍に、茶色(ブチはあまり目立たない)のほっそりりしたラクシュがかみついて、そして、わりとずんぐり小さいロスタムが龍の首を落とそうとしています。
ロスタムがずんぐりしていることで、龍が相対的に大きく見えます。
すぐ背後の枯れ木?が異様にウネウネして、この場面の躍動感を表現しています。
(ペルシャ細密画は、人物は概してクールに無表情だけれど場面のエモーショナルさを植物が表現したりするのだそうです)
その他写本では、12冊中、(他8)~(他15)の8枚の挿絵がありました。相当人気の場面ですね。うち3つがロスタムが騎馬のままですが、残り5つは馬から下りた状態です(文章では馬にのっていない模様)。
龍の意匠で変わっているのは(他12)。鮮やかな青で、皮膚にヒダが寄っている感じで、かなり中国風?
(他15)は、是非拡大してみて下さい。龍が小さめですが、構図の効果かな、なんとも迫力がある絵だと思いました。
●120 VERSO Rustam's fourth course: he cleaves a witch ロスタムの第四の試練:魔女を薙ぎ倒す
〇Fujikaメモ:
魔術師たちが席を外したすきに、ロスタムが彼らの宴会のごちそうやお酒を勝手に頂いちゃって、そして特に明確な悪意があった訳でもなさそうな魔女を殺してしまうというのは、現代的な感覚からはちょっと・・・という気もしますが、深く考えないことにしましょう(なにしろこれから先、もっとすごいオトナの展開が・・・)。
ロスタムに伐られる魔女は、シャータフマスプ本では、全身の肌が黒く、しぼんだ乳房でしわしわの半裸の老婆(黒人をイメージ?)。背後にいる仲間の魔術師も老人です。
他の写本では、3枚の絵がみつかりましたが、シャー・タフマスプ本の絵がいちばん特徴的です。(他16)や(他18)はツノが生えていたり耳がとがっていたりして異形の姿ですが、(他17)は見た目的には普通の女性ぽいです(歯をむき出しにした表情で、美女ではなさそうということはなんとなく分かる・・・)。
それにしても、そろそろ自分が年取ってきて、「まんが日本むかし話」でも、(いじわる)ばあさんとか山んばの方に共感できるようになってきました。老婆だからといって斬り捨てられちゃうなんて、ひどいわ・・・。
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