外は生憎の雨模様である。
白川沿いに門があって、どうやらここからは知恩院が近いらしい。
広い道路には誰もいない。周囲は浄土宗系の学校や施設が密集しており、浄土宗町を形成している。緩やかな坂の頂上に位置するのが知恩院だ。
知恩院といえば三門である。高さ二十四メートル。木造門としては日本最大級だ。目の前に立つと、ドッシリとした構えに早くも圧倒される。
意味もなく三門の下で雨宿り。
誰もいない境内はモノクロの世界である。
傘を差さぬ今では聞こえる音は瓦に打ち付ける雨の音だけ。
ゆっくりとした時間の流れに心洗われるかのようだ。
羅城門の下で雨やみを待っているのは下人であるが、私は知恩院の門の下で止まぬと分かっている雨を眺めながら過ごす。
知恩院には七不思議が伝わっていて、その一つに「忘れ傘」というものがある。
御影堂の手の届かないほど高い軒裏に、傘が一本おいてあるのだが、左甚五郎か白狐がいずれも魔よけとして置いていったものだという。
三門下に置いた傘を私が忘れたら、もう一つの忘れ傘が誕生することになるが、どうやら忘れられぬほど雨脚は強まっているようだ。