Last Updated : April 22,2024
スイス連邦情報保護および情報自由化委員(以下「情報保護委員」という)(Der Eidgenössische Datenschutz- und Öffentlichkeitsbeauftragte:EDÖB/ PFPDT) (筆者注1) ハンスペーター・テュール(Hanspeter Thür)氏は、Googleおよびスイス・グーグルに対し2009年9月11日に行った画像等の非特定性(ぼかし)を確認したうえでの中止勧告に同社が適切に応じなかったこと等を理由に、連邦情報保護法(DSG)(筆者注1-2)等に基づき11月13日、連邦行政裁判所(Bundesverwaltungsgericht) (筆者注2)に提訴した。
Hanspeter Thür氏
その後、スイス連邦行政裁判所は2011年3月30日に保護委員の主張の大部分を認めた判決を下した。しかし、Google
はこれに上訴し、最上位たる連邦裁判所(Bundesgericht)は2012年5月31日にほんの一部のみGoogleの主張を認めた。これについては、本ブログ(その3)で詳しく解説する。
実はこのような各国のプライバーシー監視・監督機関による監視強化やGoogleとの条件交渉は、Googleのサービス提供国数の増加(米国や欧州ほかアジア等100都市以上)とともに欧州やカナダの保護委員等で見られるように拡がっている。 (筆者注3)
これらの監視・監督機関の要求内容を整理すると、①撮影に当り該当市町村への事前通知義務、②映像のぼかし技術の徹底、③ぼかし修正前の原画像データの一定期間内の完全廃棄、④情報主体者の公開拒否手続の簡素化等である。
なお、Googleは、本提訴に関し11月13日付けのブログ“European Public Policy”で反論を載せている。本ブログと併せ参照されたい。
また、スイス(UBS)と米国の間には金融取引における個人情報保護をめぐる秘密保持義務と課税回避措置をめぐる民事裁判(“John Doe” summons)の和解や政府間合意問題(筆者注4) (筆者注5)やセーフ・ハーバー協定問題があるが、今回のGoogleの告訴とは関係なさそうである。
今回のブログ作成にあたり筆者自身“Street View Service”(「Google マップ」サービスの一環である)で具体的にどのような内容が町並みや家並みとして見ることができるのか、その精度、非特定性や最新性等について実際に検証してみた。その結果、その潜在的とはいえプライバシー面やデータの精度から見た重大なリスクに気がついた。 (筆者注6) 特に、筆者が懸念するのはカナダやギリシャに見られるとおりストリート・ビュー類似サービスが広がっていることである。各国とも法解釈や立法措置の検討が遅れた結果、近い将来に悔いを残すことがないよう慎重かつより掘り下げた専門的検討の重要性を改めて感じた次第である。
一方、わが国の法的規制等の議論はどうであろうか。本文で述べるとおり、国のレベルでの実質的議論は皆無であり、東京都の「情報公開・個人情報保護審議会」や「町田市議会」等の意見書がせいぜいである。対応が遅れている最大の理由は言うまでもなく、わが国では「プライバシー権」という極めて法概念が曖昧で定義になじまないすなわち行政処分や裁判等になじみにくい問題について独立性をもった“Watchdog”が存在しないことが最大の理由といえよう。
さらに言えば中立的かつ国民の考え方等につきメディア等にも強い影響力を持つ“Watchdog”的人権擁護団体や行政感覚を持った研究者がいないということであろう。
今回のブログは、限られた時間でまとめたので補足すべき点が多いと思うが、特に憲法等人権法関係者だけでなく海外から「物言わぬ日本人」と指摘されない、すなわち「問題の本質をとらえ正確に問題指摘と行動が行える日本人」といわれるよう日頃からきちんと勉強しておきたい。
今回は、4回に分けて掲載する。
Last Updated: April 22,2024
1.スイス連邦情報保護委員のGoogle等に対する勧告および連邦行政裁判所への提訴
スイス連邦情報保護委員会委員Hanspeter Thür氏は、2009年9月11日に米国Googleおよびスイス・グーグル(以下“Google”)に対し、同社が提供する「ストリートビュー・サービス」について個人のプライバシー保護の観点から各種保護手段をとるよう求めたが、Googleは大部分の項目において応じなかったため、委員は11月13日に連邦行政裁判所に提訴した。
以下、 “EDÖB”サイトが”Google Street View”を取り上げており、時系列で取組内容につき各データにリンクしている。各URLをクリックしダウンロードして確認されたい。
リリースの内容および訴状の概要を紹介する。 (筆者注7)
(1)委員のリリースの内容
11月17日付の同委員サイトで告訴に至る経緯や問題の本質がわかりやすくかつ正確に解説(英文)されているが、ここではリリースに基づき紹介する(両者を併せ読んで欲しい)。
「2009年8月中旬にオンラインサービスを開始した「ストリートビュー・サービス」は多くの関係する個人の顔や車のナンバープレートにつき個人情報保護の観点から十分な特定不能措置とりわけ病院、刑務所や学校といった機微性の高い場所での撮影において配慮すべきであった。これらの理由から、本委員は9月11日、Googleに対し情報保護やプライバシー保護に努めるよう求める勧告書を発した。10月14日にGoogleから書面による回答があったが、その内容は当方からの要求の大部分を拒否するものであった。
Googleが、サービス開始にあたり本委員に予め提出した情報は不完全な内容であった。例えば、Googleは主として都市部中心街を撮影すると発表していたが、インターネット上で公開された写真は多くの町や都市部の包括的なイメージ写真を掲載していた。 辺ぴな地区の写真は、顔の簡単なぼかしのみであり個人の特定を回避するには不十分であった。そこでは、主としてウェブサイトのズーム機能により同サービスのユーザーは画面上で個人の写真イメージを取り出し、拡大することを可能にする。
また、勧告書で問題視したとおりGoogleの撮影車上のカメラが撮影する高さ(2.75m)も問題が多い。 それはフェンス、生垣や壁の上からの視界を提供する結果、ユーザーは普通の通行人として見る以上のものを見ることが出来る。 これは、囲い込んだ土地(庭や中庭)でもプライバシーが保証されないことを意味する。
これらの理由から、本委員は本問題をさらに重要視するとともに連邦行政裁判所に提訴することを決定した。(訴状(Klageschrift)(全20頁)の全文はドイツ語のみで利用可能である)」
訴状の表紙
(2)訴状の概要(筆者注8)
・訴状の標題:スイス連邦情報保護法(1993年7月1日施行)第29条第4項(Art. 29 Abs. 4 DSG) (筆者注9)および連邦行政裁判所法(2007年1月1日施
行)第35条b号(Art.35 b VGG) (筆者注10)の委任に基づく公法上の訴(Klage in öffentlich-rechtlichen Angelegenheiten
(Art. 29 Abs. 4 DSG, i.V.m. Art. 35 lit. b. VGG)
・被告:米国グーグル社およびスイス・グーグル社
・原告:スイス連邦情報保護委員会 (EDÖB) 住所地:ベルン
・事件名: 2009年9月11日付け連邦情報保護委員の個人を撮影した写真およ
びナンバープレートのインターネットでの適正な扱いとその公開に関する勧告
について
I. 訴えの内容( Begehren)
(法律の規定上の措置形式)
1.米国グーグル社および現地子会社である有限会社スイス・グーグルは、スイス国内でスイス連邦情報保護法第33条第2項(筆者注11)に定める連邦行政裁判所による緊急的救済措置に関する暫定決定の対象となる禁止される写真撮影を行った。
2.Googleは、今後正式通知があるまでスイス国内での撮影行為は禁止すべきである。
(起訴事由の枠組み)( Im Rahmen der Klage)
1.Googleは、「グーグル・ストリート・ビュー・サービス」において完全に特定不可とした場合のみ顔やナンバープレートの写真を公開すると偽った。
2.Googleは、「グーグル・ストリート・ビュー・サービス」において女性の保護家(夫の暴力から逃れてきた妻を保護する家:Frauenhäusern )、刑務所
(Gefängnissen)、老人ホーム(Altersheimen)、学校(Schulen)、社会福祉事務所
(Sozialbehörden)、後見人局(Vormundschaftsbehörden)、裁判所(Gerichten)、病院(Spitälern)など機微性の高い場所での匿名性を保証すると偽った。
3. Googleは、「グーグル・ストリート・ビュー・サービス」において個人の私的
管理エリア(生垣で囲われた中庭や庭等(umfriedete Höfe, Gärten usw)の撮影は行わないとし、すでに撮影済データについては、同サービスから削除すると偽った。
4.Googleは、「グーグル・ストリート・ビュー・サービス」において私道から の撮影につき同意がない場合は行わないと偽った。
5.Googleは、少なくとも撮影の1週間前に当該市町村にその旨を通知すべきである。
6.Googleは、ネット上への写真の登載につき1週間前に該当市町村に通知すべきである。
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(筆者注1)「スイス連邦情報保護および情報自由化委員」を根拠法(連邦情報保護法)に則して訳すと「情報保護および情報自由化に関する連邦議会公選委員」である。サイトでその任務が説明されており、任務の柱は(1)情報・プライバシー保護、(2)連邦行政の透明性に対する国民の情報公開支援である。その意味では、ドイツで同様の公選委員会形式の機関である“Der Bundesbeauftragte für den Datenschutz und die Informationsfreiheit”(直訳すると「情報保護および情報の自由化に関する連邦議会公選委員」と共通するし、(2)の任務は海外の先進国の趨勢である。しかし、スイスの保護委員の情報保護の対象は官民の活動を問わないのに反し、 (筆者注20)で説明するとおり、ドイツ連邦保護委員はあくまで連邦行政機関・準機関の行為に対する保護(州の委員は民間企業の直接監視機能もある)機関である点を理解しておく必要がある。
(筆者注1-2)スイス連邦情報保護法は1992年以降、主要改正を2020年9月に行っている。
(1)スイス連邦情報保護法(DSG)改正案が2020年9月25日、連邦議会で成立 した。今回の法改正は、スイスと欧州経済領域(EEA:EU加盟国とノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)との間で、円滑にデータをやり取りすることを期すものだ。EUでは、域内での個人情報保護の強化を目的として「一般データ保護規則(GDPR)」の適用が2018年5月に開始された。2018年7月には、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインでも適用を開始。これに対応し、スイスでもGDPRと同等の個人データ保護制度の構築が求められていた。
改正DSGは2020年9月25日に可決され、いくつかの新しい規定を加えて2023年9月1日に発効する予定である。 基本的には、処理中の個人データのプライバシーと権利を保護することを目的としている。
(筆者注2)スイスの連邦や州(canton)の裁判制度を理解していないと、連邦保護委員がなぜ行政裁判所に裁判を提起したか、その手続上の意味が分からないと考え、筆者なりに調べてみた。
連邦裁判所(Bundesgericht )のサイトが唯一簡単に解説している。しかし、海外の法律専門家向け説明としては内容的に不満であるが、内外を含め他に使えるものがない(おそらく先進国の司法サイトの中で最も説明が不足している(その最大の理由は、後述するとおり裁判官に法律家以外もなるという古典的司法制度である)。EU加盟国であれば他国との整合性をもった比較が出来ようが、このような点は金融・ビジネスでは一流国でも政治面ではスイスの大きな課題であろう)。従って、ここで「連邦」レベルの司法制度に関する部分のみ一部仮訳し、簡単に整理しておく。
B Auf Bundesebene(連邦レベル)の裁判所の役割・機能
年
1.Das Bundesgericht (連邦裁判所)
連邦最高裁判所の主導的役割は、最終審として州および連邦で提起された法的問題を決定、判断することにある。取扱う事件は民法、刑法、行政法および憲法に関するものである。連邦裁判所は判決を通じ最終的な連邦としての決定を下すことで、連邦裁判所としての連邦法の統一的適用を保証し、その強化を図る。
2.Das Bundesverwaltungsgericht(連邦行政裁判所)
以前はスイス連邦控訴委員会および連邦省庁に対する告訴サービス部門であったが、新たに再度「連邦行政裁判所」として統合された。
連邦行政裁判所の判決は、連邦裁判所判決の一部として引用される。
3.Das Bundesstrafgericht(連邦刑事裁判所)
ベリンツォーナ(スイス南部)にある連邦刑事裁判所は、刑事事件の第一審として連邦裁判所の管轄事件(テロ、爆弾犯罪、禁止された諜報犯罪、反逆反罪、マネーローンダリング、組織犯罪、ホワイトカラー犯罪)の裁判管轄権を持つ。その判決は連邦裁判所判決として引用される。連邦刑事裁判所の第一公訴部はさらに連邦検事の職務遂行や不作為、強制措置および裁判管轄に関する争いについての起訴責任を持つ。
また、司法警察の捜査全般の監督や連邦レベルの犯罪の捜査活動において優先的捜査権をリードする。強制的な措置に関しては連邦裁判所に上訴することができる。
第二公訴部は、特定の国際的な犯罪行為に対する公訴の可否を決定する。この決定に対しては連邦裁判所への限定的な上訴手続が存する。
4.Militärgerichte(軍事裁判所)
軍事裁判所は、基本的に軍人が犯した犯罪行為に関する裁判所で軍事刑法が適用される。
C Richter, Zusammensetzung der Gerichte, Anwälte(裁判官、裁判所の構成、弁護士 )
Allgemeines(総論)
スイスでは、必ずしもすべての裁判官が博士や修士という資格を持つ高度な司法教育を受けてはいないため諸人権についての理解は完全でない:すなわち治安判事職にある人が司法の専門的な教育を受けていないため健全な人権について理解できない。しかし、彼らも仲裁当事者としては適している。兼務者として任務を遂行する裁判官もいる。法教育者や弁護士は、彼らの時間の一部を裁判官活動にさいている。女性は従来以上に多く裁判所から数多く指名されている。一定の裁判(例えばレイプ事件)では共同した作業が必要となる。このような事件では裁判所による釈放は全員が参加する裁判官会議で行われる。
1.Zusammensetzung(裁判所の構成)
A Zivilgerichte(民事裁判の場合)
通常裁判は1人の裁判官または素人の陪審裁判官2人で行う。通常時の裁判は地域的に限定されて(町や郡)おり公衆が利用しやすい施設内にある。第一審裁判官または地区裁判官は、1人または3人の陪審裁判官が判決を行う。
B.Strafgerichte(刑事裁判の場合)
―警察裁判所:第一審では通常、裁判長が弁護士とともに1人で判決する。
―第一審の刑事裁判所:中程度に重い犯罪行為(それ自身最高刑に算定される)の場合は最低3人からなる刑事裁判所裁判官と1人の必須とされる担当弁護士で構成される。また公判は、裁判長となる1人の法学者と陪審リストから選らばれる数人からなる陪審で構成される。
―刑事裁判所、巡回裁判所:刑事裁判所は第一審刑事裁判所の判決に対する控訴にもとづく重大犯罪を裁く裁判所で7人の裁判官(うち3人は法律家)で構成する。巡回裁判所は1人の法律家(裁判長)、一定数の市民および市民陪審で構成する。
C. Verwaltungsgerichte(行政裁判の場合)
行政裁判所は通常3部構成で裁判を行う。裁判長は法律家と素人からなる陪席裁判官であるが、しばしば関係分野の実務専門家:例えば税問題の場合は公認会計士、受託者、公証人等も任務に当たる。
D.Bundesgericht und erstinstanzliche eidgenössische Gerichte(連邦裁判所の場合)
連邦裁判所は3人または5人の裁判官からなり全員が法律家である。イスラム法に関する裁判など特別な裁判では行政裁判所で多くの判決を経験した1人の裁判官が担当することもある。連邦裁判所においては緊急性から公的な法的手段が明らかにゆるされないとき以外は1人の裁判官での裁判開始決定は禁止される。
(以下、省略する)
(筆者注3)EUのプライバシー保護に関する代表的な域内共通NPO“Watchdog”は“EDRi”である。同組織そのものについての詳細は、同団体のホーム・ページで「European Digital Rightsは2002年6月に設立、 現在、27のプライバシーや市民権団体がEDRIの会員資格があり、EUの17の異なる国に拠点または事務所を置いている。 “EDRi”会員は、情報社会で市民権を守るために力を合わせる。 EUでの活発な組織の協力の必要性と目的は、EUや国際的な規制・監督機関に対し、EU域内におけるインターネット、著作権、およびプライバシーに関するより多くの影響力のある規制強化に向けた規則等を作り出すことである」と説明している。
なお、同団体の週刊広報ニュース“EDRi-gram”の最新号(11月18日付)の項目10でスイスの保護委員による提訴の情報を報じている。同ニュースは一覧性があり、効率的に人権問題に関する情報検索が出来る。
(筆者注4) 決着が長引いていたスイス(UBS)と米国の間の金融取引における個人情報保護をめぐる秘密保持義務と課税回避幇助問題の和解合意については、2009年8月13日に海外メデイアが報じたとおりである。なお、当時のロイター通信等の記事では和解文書や政府間の合意文書の内容については明らかでないとしていた。
UBSや米国連邦財務省連邦税課税庁(IRS)等の資料に基づき、本件につき筆者が調べた範囲で解説する。
【UBSの2つのリリースの概要】
2009年11月17日にUBSは次のリリースを発表している。極めて実務的に詳細にまとめられており、また顧客に対する説明としても分かりやすい(さすが世界的金融機関である)。和解文書の署名日は2009年8月19日であり、基本的な合意内容はリリースされているが、政府間の問題でもあり、公表までの水面下の調整や準備作業があったといえる。以下、両リリースの内容を統合してその要旨をまとめておく。
・今回の合意に伴うUBSの支払はない。
・UBSは2009年8月19日、「“John Doe” summons(米国の司法制度において裁判所は被告個人名を特定することなく召喚(summon)することが出来る。例えばIRS は,VISA,MasterCard 及びAmerican Express からのオフショアのクレジットやデビットカード口座を利用している米国市民や居住者についての情報を要求し,世界の77カ国からクレジットおよびデビットカードの口座情報を受け取っているとされる。(長崎大学経済学部助教授栗原克文氏「各国間での税制の相違と国際的租税回避問題」381頁から引用、一部補筆)」に関し、2008年7月21日に米国IRSおよび連邦司法省がフロリダ南部連邦地裁に起こした民事訴訟の却下につき和解文書に署名した。
・同和解により、2009年8月31日、米国IRSはスイス連邦財務省国税局(Eidgenössische Steuerverwaltung :ESTV/ Swiss Federal Tax Administratiom:SFTA)に対し既存の米国・スイス間の二重課税防止条約(US-Switzerland Double Taxation
Treaty:DTT/Doppelbesteuerungsabkommens zwischen den USA und der schweis)に基づきスイス国内でUBSが管理する直接またはオフショア会社を経由した米国民の約4,450口座につき行政支援要求が承認された。
本要求を受領次第、ESTVはUBSに対し、DTTに定める「課税回避詐欺行為等(tax fraud or the like)」の基準に基づき米国・スイス政府間で合意した特別な基準に合致する口座に関する情報提供提出命令を発する(連邦裁判所のレビューを受ける)。
ESTVが述べているとおり、これらの口座は既存のDTTが定める「課税回避詐欺行為等」の要件を100%満たすか否かにつき調査が行われる。スイス・米国政府間の合意内容に基づく特別な基準は11月17日にESTVが発布した別添のとおりである。
・UBSは、現在該当する顧客に対し米国IRSがDTTに基づき行う要求の範囲内で顧客への通知を行っており、今回の和解合意に定める期限(2009年9月1日から270日)以内に要求された口座情報をESTVに提出する。
(“John Doe” Settlementおよび2国間の条約手続について詳細内容)
また、米国政府は、2009年12月31日までに本条約によりカバーされない全口座に関する疑念を持った“John Doe” summonsを撤回する。
・米国税法における自発的開示手続(Voluntary disclosure)
IRSは永年米国の納税者に対し米国連邦税法の完全な遵守のため自発的情報開示の慣行を働きかけてきた。この慣行は現在も残されており税還付やUBSにあるオフショア口座保持の結果その他の義務を負う米国の納税者は、2009年10月15日に期限がきれる2009年3月23日に通知された任意開示要求に関するIRSの特別な罰則回避措置(special penalty initiative)にもかかわらず可能である。(なお、“special penalty initiative”とはいかなるものを指すのか。自信はないが次のような内容ではないか。「タックス・シェルターの開示イニシアティブ」( Tax Shelter Disclosure Initiative )やセトルメント・オファー( ‘Settlement Offer’ )と称されるものである。これらは、一種のアムネスティ・プログラム( Amnesty Program )であり、納税者が濫用的なタックス・シェルターへの関与の事実等を自主的に開示すれば、附帯税の部分的な免除やタックス・シェルターに係る費用(プロモーターに対する手数料等)の控除・税務上の損金処理を認めるというもの
である。(税務大学校研究部教授松田直樹氏「租税回避行為への対抗策に関する一考察」68頁以下から引用)。IRSが永年実施してきた“voluntary disclosure practice”への参画は一般的に納税者への刑事訴追を排除することになる。
・顧客は口座情報をIRSに提供するよう指示することが出来る。すなわち“John Doe” summonsに関し、顧客はUBSに対し自身に代り口座情報をIRSに提供する合意や指示を行うことが出来る。
(筆者注5) スイス連邦財務省国税局(Eidgenössische Steuerverwaltung :ESTV/ Swiss Federal Tax Administratiom:SFTA)サイトでは、米国外に口座を持つ米国人納税者における2国の当局間の情報共有について解説がある。
(筆者注6) 市民の感覚では納得で出来ない不安感を一例であるが「あるブログ」が代弁している。Google は削除依頼を受け付けてはいるが、実際わが国の消費者自身が海外のような委員会等公的機関の後押しなしに差止め請求等を実行できるであろうか。この問題についても機会を改めて述べたい。
(筆者注7) “EDÖB” のストリート・ビューに関する問題意識はかなり高い。専用サイトを設けている。
なお余談であるが、スイスの大衆メデイアである“swissinfo.ch”の本件に関する日本語版記事を読んだ。
記事の内容はおおむね事実であるが、「連邦情報保護・透明性維持担当課 ( EDÖB(筆者注:連邦情報保護委員会のドイツ語略称)/PFPDT(筆者注:フランス語の略称))) 」のハンスペーター・トュール氏は8月21日に発表されたコミュニケで述べた。」と言う説明はおかしい(「連邦情報保護委員」が正しい)。また、「こうしたストリートビュー実施以前に、「スイス情報保護委員協会 ( Privatim ) 」のチューリヒの責任者ブルノー・ベーリスヴィル氏は、「本人の承認を得る以前の個人情報漏れ」がストリートビューの問題だと主張していた」とある。“Privatim”はスイスの州(kanton)の保護委員協議会(die schweizerischen Datenschutzbeauftragten)の新名称である。同協議会は保護法に基づくもので“Dr. iur. Bruno Baeriswyl”氏は同協議会のチューリヒ州代表委員である。
念のため筆者自身フランス語の記事の原文も読んだが、保護委員会については正式名称である“le préposé fédéral à la protection des données et à la transparence”が使われている。“le préposé” は仏和辞典で見ると「担当者、職員、係員」であるが、“Google Translate”で訳すと、同委員会の英文表示である“The Federal Data Protection and Information Commissioner”となり正しい意味が理解できる。
欧州委員会(European Commission)のように当初の小規模時の機関名がそのまま残っているが、実際は2万5千人を擁するEU全体の強力な行政機関もあるのである。言語は生きている、仏和辞典の限界か。
同記事の最後に(仏語からの翻訳、里信邦子)とあるが、特に法律関係の場合、単に記事の日本語への置き換えだけでなく、その内容に関する事項については関係サイトに当たるなど努力と工夫が必要であろう。
(筆者注8)訴状固有のURLはない。起訴状原本を閲覧するときは“EDÖB”サイトが”Google Street View”から該当するリリースの最後にある“Klageschrift”をクリックして欲しい。
(筆者注9) わが国では参考にできるものがないので、スイス連邦情報保護法の関係条文を仮訳しておく(EUの公式サイトの英文訳もデータが古い)。
①スイス連邦情報保護法第29条 (Art. 29 Abklärungen und Empfehlungen im Privatrechtsbereich) 第3項(Art. 29 Abs. 3)
「委員は、自らの調査に基づき個人データ処理の変更または停止処理について勧告することができる。」
②第29条第4項(Art. 29 Abs. 4)
「3項の委員勧告が不遵守または拒否されたときは、委員は連邦行政裁判所の案件として判決を求めることが出来る。また、委員は同判決に対し控訴する権利がある。」
(筆者注10)スイス連邦行政裁判所法第35条b号(Art.35 b VGG)(仮訳)
「連邦行政裁判所は次の問題につき第一審として判決を行う。
A号 略
b号 連邦情報保護法(1992年6月19日)第29条第4項に定める情報保護にかかる民間部門の監督機関の勧告に係る紛争」
(筆者注11) スイス連邦情報保護法第33条(仮訳)
「委員が委託された事案において、第27条第2項または第29条第1項の規定に従い状況を調査した結果、個人について更なる補償されるべき重大な損害を被る脅威が存すると判断されるとき、連邦行政裁判所の情報保護につき権限をもつ部門長に緊急措置を申請することができる。
その手続は、 「連邦民事訴訟法に関する連邦法(1947年12月4日)」第79条から第84条を準用する。」
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〔参照URL〕国別にみた今回のブログ全体にわたり参照可能なURL
・スイス:スイス連邦情報保護委員のサイトのリリース文である。なお、起訴状原本(Klageschrift:ドイツ語のみ)についてはリリースからのみリンクできる。(独語/英語)
https://www.edoeb.admin.ch/edoeb/de/home/dokumentation/taetigkeitsberichte/aeltere-berichte/17--taetigkeitsbericht-2009-2010
”Strassenansichten im Internet: Google Street View”(インターネット上のGoogle Street View)
https://www.edoeb.admin.ch/edoeb/de/home/aktuell/medien/medienmitteilungen--archiv/medienmitteilungen-2009/street-view--edoeb-zieht-google-vor-bundesverwaltungsgericht.html
”Street View: EDÖB zieht Google vor Bundesverwaltungsgericht”(ストリートビュー:EDÖBがGoogleを連邦行政裁判所に提訴 )
・スイス連邦情報保護委員のサイトの2009年3月以降のstreet view問題の経緯説明(独語);キーワード”street view”検索結果は内容では100件、文書では23件が出てくる。
https://www.edoeb.admin.ch/edoeb/de/home/suche.html#street%20viewa
・スイス連邦情報保護法第29条(独語のみ)
http://www.admin.ch/ch/d/sr/235_1/a29.html
・スイス連邦行政裁判所法35条(独語のみ)
http://www.admin.ch/ch/d/sr/173_32/a35.html
・EU指令第29条専門調査委員会の専用サイト(英語)なお、5月25日に欧州データ保護会議(EDPB)が最初の本会議を開催した。 法人格を持つこの新しい独立したEUの意思決定機関は、一般データ保護規則(GDPR)によって設置され、本日より適用された。 同専門調査委員会の後継機関であるEDPBは、EDPS(欧州データ保護監督官)と加盟国の監督当局を結集して、欧州連合全体でGDPRを一貫して適用し、個人を一貫して保護することを保証する、 さらに、EDPBは、データ保護法執行指令の実施を監督している。
https://ec.europa.eu/newsroom/article29/news.cfm?item_type=1358
・カナダ:プライバシー委員によるgoogle street viewに対する原画写真情報の保存期間など再改善意見書(英語)委員のサイトのアーカイブ保存されている。
https://www.priv.gc.ca/en/opc-news/news-and-announcements/2009/let_090821/
・ギリシャ:個人情報保護局(Hellenic Data Protection Authority (Αρχή προστασίας δεδομένων προσωπικού χαρακτήρα)のstreet viewの許可条件書に関するニュースサイト(ここからリリース内容にリンク可)(英語)
https://www.dpa.gr/en/enimerwtiko/prakseisArxis/ypiresia-eikonikis-periigisis-stoys-dromoys-ellinikon-periohon
なお、わが国ではギリシャをはじめ中小EU加盟国の情報保護機関に関する解説は皆無といってよい。また、言語の障壁もあり、手に負えないのも現実である。そのような中でEUの公的サイトではないが、GDPR HUB は極めて貴重な存在である。
・ドイツ:ハンブルグ州保護法委員サイトのGoogleとの「原画像データ」削除の合意報道
https://abluteau.wordpress.com/2009/05/20/google-threatened-with-sanctions-over-photo-mapping-service-in-germany/
・フランス:CNILのstreet viewと情報・プライバシー保護法に関する説明サイト(仏語のみ)2010.6.24 blog
https://www.huntonprivacyblog.com/2010/06/24/french-data-protection-authority-investigates-google-street-view/
・英国:“Privacy International”の情報委員(ICO)に対する意見書
https://edri.org/our-work/edri-gramnumber7-9uk-google-street-view-ok/
2009.5.6 EDRI記事:UK: Google's Street View does not breach the Data Protection Act
https://www.theguardian.com/technology/2009/apr/23/google-street-view-data-protection-cleared
Google Street View cleared of breaking Data Protection Act:Google Street View privacy complaints are rejected by Information Commissioner's Office
This article is more than 11 years old
・日本:2008年11月25日(火)第38回東京都情報公開・個人情報保護審議会議事録
(ただし配布資料そのものは見れない。)
http://www.metro.tokyo.jp/POLICY/JOHO/JOKO/SHINGI/e7j1k400.htm
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