(本ブログは執筆途上である)
筆者の手元に「2002年電子政府法(E-Government Act of 2002)」(筆者注1)を受けて、その準備を進めていた標記パイロット計画の一部稼動に関する連邦裁判官会議”U.S.Courts”サイトの最新情報(2011年10月31日) (筆者注2)が入ってきた。その狙いとするころは司法情報のより一般的な解放と透明性確保と考えられる。
筆者自身、米国の連邦、州等という多岐・多様にわたる司法情報を正確にフォローするとなると大変な手間と時間を要するが、米国の司法関係者やアカデミーやNPO関係者はさらに切実な問題であろう。(筆者注3)
その一例として今回のブログは本年10月に連邦印刷局(Government Printing Office:GPO)がサービスを開始した“FDsys”の「検索手順」等に関して解説する。その前に本年4月時点の連邦司法会議のリリースではGPOの“FDsys”サービス計画はよりアグレッシブな内容であった。
春以降実施される予定の裁判所は2連邦控訴裁判所(第2、第8巡回区控訴裁判所)、7連邦地方裁判所(ミネソタ、ロードアイランド、メリーランド、アイダホ、カンサス、ニューヨーク北部地区およびアラバマ北部地区)、および3破産裁判所(メイン、フロリダ南部地区およびニューヨーク南部地区)であった(連邦司法会議(Judicial Conference)は2011年3月に最大30の連邦裁判所の追加を承認した)。
なお、言うまでもないがGPOの“FDsys”サービスについてはわが国の国立国会図書館(NDL) が2011年4月に「連邦デジタルシステム(FDsys)の概要」というテーマで取上げている。しかし、その説明内容はまさに「制度全体の概要」(また、当然ながら“UNITED STATES COURTS OPINIONS - BETA”の解説はない)だけであり、わが国の司法関係者や研究者、学生等が“FDsys”を実際に利用し、判決情報を活用するには説明不足である点は否めない。(筆者注4)
さらに疑問に思ったのは本文で言及したとおり、控訴裁判所の判決サイトには下級審判決とのリンク機能があると考えるであろう。しかし、この期待は裏切られた。わが国でも同様であるが、米国の判決情報は連邦、州とも最高裁や控訴裁判所の判決情報については各種のデータベースが取上げ充実している一方で、下級審判決のなると実際問題“PACER”を利用するしかないというのが現実であろう。
本ブログの執筆にあたり、わが国を初めフランス、ドイツや英国の判例データベースの最近時の充実度につき比較を行った。その結果は最後に簡単にまとめたが、検索機能や下級審と上級審リンクや検索機能はいずれも米国の官民の判決データベースより優れていると感じた。この問題は電子政府のあり方という視点で改めて論じたい。
今回のブログは、(1)BETA版の「検索手順」に焦点を当て解説を試みるとともに、(2)UCLA(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)ロースクール図書館(Hugh & Hanzel Darling Law Library)のオンライン検索ガイドの特徴ある解説内容を紹介し、(3)最後に電子政府の主要目的の1つである判決の無料または低廉な検索サービスのあり方等について仏、独、英および日本の現状比較をまとめた。
1.パイロットシステムの一部稼動内容
(1)第一次計画の内容
“U.S.Courts”の稼動計画の解説によると計画の概要は次のとおりである。第一次として4つ(3つと紹介しているが、GPOは4裁判所と記しているので本ブログでは4つに訂正した)(筆者注5)の連邦裁判所(第8巡回区控訴裁判所(U.S. Court of Appeals For The Eighth Circuit)(筆者注6)、ロードアイランド連邦地方裁判所(U.S.District Court for the District Rhode Island)およびフロリダ南部地区連邦破産裁判所(U.S.Bankruptcy Court for the Southern District of Florida)、ニューヨーク南部地区連邦破産裁判所(U.S.Bankruptcy Court for the Southern District of New York))の判決につき広く内外の関係者による無料検索閲覧が可能となった。
11月初めの時点では本年12月末には予定されている12のパイロット裁判所が“FDsys”上での利用が可能となる予定と説明されていたが、12月5日現在、FDsysサイトで見る限り8裁判所(第8巡回区控訴裁判所; アイダホ連邦地裁(United States District Court District of Idaho);カンサス連邦地裁(United States District Court District of Kansas);メリーランド連邦地裁(United States District Court District of Maryland);ニューヨーク北部地区連邦地裁 (United States District Court District of Northern District of New York);ロードアイランド連邦地裁:フロリダ南部地区連邦破産裁判所;およびニューヨーク南部地区連邦破産裁判所)である。
また、2012年の前半にはさらに22の裁判所判決を追加すべく目下準備中であると説明されている。
さらに、FDsysに加え従来各連邦裁判所判決のオンライン情報検索に関する登録・有料司法サービスである“Public Access to Court Electronic Records:PACER”制度(米国(連邦管轄)の場合、判決を含めたすべての裁判記録についてPACERという公的データベースからアクセス可能である。PACERは1990年代にダイアルアップでそのサービスを始め、現在はインターネットを用いて利用できる。料金は1頁あたり8セント(筆者注7)で、1文書の料金上限が2ドル40セントとなっているので30頁以上の文書でもキャップがあり、それ以上の料金はかからない。
なお、この上限は「氏名検索」、「事件を特定しない報告類」や「連邦裁判所規則の写し」には適用されない。また四半期ごとの支払請求の利用額が10ドル以下の場合は費用請求は放棄され、実質的にほとんどのユーザーは無料となっている)等の実質的な一部無料化拡大が行われているほか、個別の対応として無料で判決をウェブサイトに掲載サービスを始めている連邦裁判所も数箇所ある(リリースには具体的裁判所名は明記されていない)。
本パイロット計画は2011年3月の連邦司法会議において承認され、また2011年2月には印刷事業にかかる連邦議会との共同委員会(Joint Committee on Printing)において承認された。
同プロジェクトに関しては当初次の12の裁判所での実施を想定していた。
①2巡回区控訴裁判所:第2および第8。
②7連邦地裁:ミネソタ、ロードアイランド、メリーランド、アイダホ、カンザス、ニューヨーク北部地区、アラバマ北部地区。
③3連邦破産裁判所:メイン、フロリダ南部、ニューヨーク南部
しかし、2011年3月の司法会議において35裁判所の任意参加を待って拡大することを決定した。結果的に見ると連邦の判決検索サイトとしては現在機能している低額利用料の“PACER”と併用していくことになるといえる。
本プロジェクトは計画実施が完了後、“FDsys”を介したアクセスサービスを今後とも継続するか否かの決定を行う予定である。
(2)FDsysの具体的な検索手順以下
筆者は実際にFDsysの手順に即して判決内容の検索を行ってみた。ガイダンスの読んでいないので正確な手順でないかも知れないは目的とする情報は得られた。
①FDsysのHP を開く。
②Featured Collectionsのボックスから一番右下の「United States Courts Opinions – BETA」を選択
③“Appellate”,“District”,“Bankruptcy”のいずれかが選択可能、ここからは個別にツリー構造で選択することになる。まず、 “Appellate”を選択すると「第8巡回区控訴裁判所」判決の2001年から2011年の年度一覧が表示される。
④ためしに2009年を選択してみる。全判決の一覧で出てくる。事件番号、原告・被告名、判決日が表示される。ここで2009年8月20日の「04-2901 - United States v. Travis Ray Burns」事件を選択してみる。
⑤「04-2901 - United States v. Travis Ray Burns」事件の判決原文(PDF)が表示される。
⑥「04-2901 - United States v. Travis Ray Burns」事件の控訴裁判所に係属開始から判決に至る経緯が一覧で表示される。さらにその中から必要な項目を選択し、閲覧できる。
2.UCLAロースクール図書館(Hugh & Hanzel Darling Law Library)のユニークな判例オンライン・データベースのガイダンスの概要
(1) UCLAロースクール(筆者注8)は創設から年数は約60年と歴史は浅いがユニークな校風をもっているといえる。その図書館である“Hugh & Hanzel Darling Law Library”のサイトでは「オンライン・リーガル・リサーチ」と題してわが国で広く・・・・
(2)「LexisNexisやWestLawを越えて」の意図するところは・・・
PACERの利用料負担問題に関し、米国の大学生はどのような特典があろうか。
3.国際比較からみたわが国の電子政府政策と判決データベースの高度化のあり方(私見)
(1)わが国の判例データベースの検索機能や一覧性の評価
指宿教授等が指摘されているとおり、わが国では“PACER”や“FDsys”に該当するデータベースはなし、今後電子政府の計画の中でこの問題を優先的に取組む予定はないようである。
しかし、翻ってみると保管データの量(情報検索の網羅性)は別として判例データベースの使いやすさだけで見ると、わが国の「最高裁の判例検索システム」や民間ベースではあるが「知的財産権判例データベース」は条件の入力方法や上級審と下級審が一覧で確認でき、また直接リンクされるなど優れている点も多いと思う。
米国のFdsysや前記で取上げた判例データベースを見ると、この一覧性では劣るし、筆者自身も連邦地裁判決を探すのに大変苦労した。改善の余地は十分にあると考える。
(2)これからの電子政府と公的判決データベースのあり方
米国と比較して網羅性という点でわが国の公的判例データベースの評価はどうであろうか。また、フランス、英国やドイツの判例データベースと比較した場合はいかがであろうか。簡単にまとめておく。
A.フランス
B.ドイツ
C.英国
まず、“BAILII”を取上げるべきであろう。その対象範囲の広さや・・・・・る。
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(筆者注1) 「2002年電子政府法(E-Government Act of 2002 (Pub.L. 107-347, 116 Stat. 2899, 44 U.S.C. § 101, H.R. 2458/S. 803)」は、①連邦最高情報責任者を置くこと、②各種プロジェクトと技術革新を支援するための電子政府基金を設立すること、③オンライン・ナショナル・ライブラリーを開設すること、④連邦の裁判所の判決録等をオンラインで提供することを主な内容としている。(国立国会図書館 平野 美惠子「調査と情報: 米国の電子政府法」第423号(2003年6月)から一部抜粋)。
(筆者注2)10月30日の”U.S.Courts”の第一次プロジェクトの実施裁判所名のリストの1つが抜けている。正確にいうと4つの裁判所であり、抜けていたのは「ニューヨーク南部地区連邦破産裁判所」である。筆者は“U.S.Courts”のサイト上でパイロット計画の件を読んで改めてGPOのサイトやUCLAロースクールの解説サイトを読んで確認した。“U.S.Courts”事務局宛コンタクト専用画面があるので訂正依頼をしておいたが未だに訂正されていない。この問題点は、本文で述べたとおり8裁判所に拡大されたためか、担当者から回答は来ない。
(筆者注3)
(筆者注4) 民間の連邦裁判区別判決情報・検索サイトとしては有名なものは“Find Law”がある。同サイトの第8巡回区控訴裁判所の検索サイトもあわせ参照されたい。
(筆者注5)
(筆者注6) 第8巡回区控訴裁判所の裁判管轄州は、 Arkansas、 Iowa、 Minnesota、 Missouri、 Nebraska、 North Dakota、South Dakotaである。同裁判所の判決検索サイトも従来から機能している。
(筆者注7)2011年9月に開催した司法会議において、2005年から据え置いてきた1件あたりの国民アクセス利用料(EPA)を2012年4月1日から「10セント」に引上げることを決定した。その背景には次世代の司法電子事件ファイリングの開発やその実装の必要性、また連邦議会から受益者負担の徹底を強くもとめられたことにある。
一方で、司法会議は地方、州や連邦機関については今後3年間引き上げを免除し、また四半期の利用額免除を15ドルに引上げるといった措置をとった。これにより75~80%のユーザーは免除となると説明している。
(筆者注8) 弁護士の藤本一郎氏がUCLAロースクール生活や弁護士資格に監視まとめたサイト「藤本大学」の中でUCLAロースクールの図書館の概要を紹介している。
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