讃観世音菩薩頌和釈・・2/20
狂象被害
「四面狂象利牙齒 若人居中將被害 其人專心念菩薩 捨離苦惱而無畏」
四面には狂象あり、牙歯を利にす。人中に居て害されんとするがごときは其の人専心に菩薩を念じて苦悩を捨離して畏れる事なし。四面に狂たる大象の牙歯を利にして向ふに人あり其の中に居て既に害せられんとする時に、其の人専ら観音を念じ奉れば其の苦悩を捨離れて而も畏ること無しと也。
洛西の嵯峨に木屋助市と申す者は、深く観音を信じ月輪寺の十一面尊を写して恒に守袋に納れて胸に懸けいしが或日都に往くとて仁和寺の辺を通に牛の十疋ばかり烈て行くに遇へり。一疋の牛の追人を突んとて大にあばれければ余の牛も共にさわぎて助市を角にて突きふせしが漸に静まりて追人の寄りて見れば助市には疵なくて観音の像は砕けてありき。