一 もしも薪がすなわち火であるというのであれば、行為主体と行為とは一体であるということになるであろう。またもしも、「火が薪と異なる」というのであれば、薪を離れても火が有るということになるであろう。
二 また火が薪とは異なったものであるとすると、火は永久に燃えるものであるということになり、燃える原因を持たないものであるということになるだろう。さらに火をつけるために努力することは無意味となってしまうだろう。そういうわけであるならば、火は作用をもたないものとなる。
三 他のものと無関係であるから、火は燃える原因をもたないものとなり、いつまでも燃えていて、火をつけるために努力することは、無意味となってしまうのである。
四 それについて、もしも、この故に、燃えつつあるものが薪であるというならば、まず、この薪が燃えつつあるのみであるときに、その薪は何によって燃えるのであろうか。
五 異なった別のものは到達されることがないであろう。未だ到達されていないものは、燃えることがないであろう。また燃えないものは、消えることがないであろう。消えないものは、みずからの特質を保ったままで存続するであろう。
六 もしも薪とは異なった別のものである火が薪に到達するのであるならば、それは女が男に至り、また男が女に至るようなものである。
七 もしも火と薪との両者が互いに離れた別のものであるとしたならば、薪とは異なる別のものである火が、欲するままに、薪に至り得るであろう。
(J註:本章における『依存』は、縁起のそれではなくて『成立要因』ぐらいの意と判断されます。)
八 もしも薪に依存して火があり、また火に依存して薪があるのであるならば、いずれかが先に成立していて、それに依存して火となり、あるいは薪が現れることになるのであろうか。
九 もしも薪に依存して火があるのであるならば、薪はすでに成立している火の実現手段である。こういうわけであるならば、さらに火の無い薪もあることになるであろう。
十 或るもの<甲>が【他のもの、乙に】依存して成立するのに、その【甲】に依存して【乙】が成立している。もしも、依存されねばならぬものが、【先に】成立するものであるとすると、いずれがいずれに依存して成立するのであろうか。
十一 【他のものに】依存して成立するところのものは、未だ成立していないはずなのに、どうして依存をなすのであろうか。またもしも、「すでに成立しているものが依存するのである」とすると、そのものが【あらたに】(他に)依存するということは理に合わない。
十二 火は薪に依存してあるのではない。火は薪に依存しないであるのではない。薪は火に依存しないであるのではない。
十三 火は他のものからくるのではない。火は薪の中には存在しない。この薪に関して、その他のことは第二章、
いま現に去りつつあるもの・すでに去ったもの・未だ去りらないもの【についての考察】によって説明されおわった。
十四 さらに火は薪ではない。また火は薪以外の他のもののうちにあるのではない。火は薪を有するものではない。また火のうちに薪があるのでもない。また薪のうちにも火があるのでもない。
十五 アートマンと執着(すなわち5取蘊)とのすべての関係が、火と薪とによって、残りなく説明された。瓶と衣などとともに【すべてについて】説明されたのである。
十六 アートマンは実体を有するものであると考え、もろもろの事物はそれぞれ別異のものであると説く人々は、教えの異議に熟達している人々である、とわたくしは考えない。
二 また火が薪とは異なったものであるとすると、火は永久に燃えるものであるということになり、燃える原因を持たないものであるということになるだろう。さらに火をつけるために努力することは無意味となってしまうだろう。そういうわけであるならば、火は作用をもたないものとなる。
三 他のものと無関係であるから、火は燃える原因をもたないものとなり、いつまでも燃えていて、火をつけるために努力することは、無意味となってしまうのである。
四 それについて、もしも、この故に、燃えつつあるものが薪であるというならば、まず、この薪が燃えつつあるのみであるときに、その薪は何によって燃えるのであろうか。
五 異なった別のものは到達されることがないであろう。未だ到達されていないものは、燃えることがないであろう。また燃えないものは、消えることがないであろう。消えないものは、みずからの特質を保ったままで存続するであろう。
六 もしも薪とは異なった別のものである火が薪に到達するのであるならば、それは女が男に至り、また男が女に至るようなものである。
七 もしも火と薪との両者が互いに離れた別のものであるとしたならば、薪とは異なる別のものである火が、欲するままに、薪に至り得るであろう。
(J註:本章における『依存』は、縁起のそれではなくて『成立要因』ぐらいの意と判断されます。)
八 もしも薪に依存して火があり、また火に依存して薪があるのであるならば、いずれかが先に成立していて、それに依存して火となり、あるいは薪が現れることになるのであろうか。
九 もしも薪に依存して火があるのであるならば、薪はすでに成立している火の実現手段である。こういうわけであるならば、さらに火の無い薪もあることになるであろう。
十 或るもの<甲>が【他のもの、乙に】依存して成立するのに、その【甲】に依存して【乙】が成立している。もしも、依存されねばならぬものが、【先に】成立するものであるとすると、いずれがいずれに依存して成立するのであろうか。
十一 【他のものに】依存して成立するところのものは、未だ成立していないはずなのに、どうして依存をなすのであろうか。またもしも、「すでに成立しているものが依存するのである」とすると、そのものが【あらたに】(他に)依存するということは理に合わない。
十二 火は薪に依存してあるのではない。火は薪に依存しないであるのではない。薪は火に依存しないであるのではない。
十三 火は他のものからくるのではない。火は薪の中には存在しない。この薪に関して、その他のことは第二章、
いま現に去りつつあるもの・すでに去ったもの・未だ去りらないもの【についての考察】によって説明されおわった。
十四 さらに火は薪ではない。また火は薪以外の他のもののうちにあるのではない。火は薪を有するものではない。また火のうちに薪があるのでもない。また薪のうちにも火があるのでもない。
十五 アートマンと執着(すなわち5取蘊)とのすべての関係が、火と薪とによって、残りなく説明された。瓶と衣などとともに【すべてについて】説明されたのである。
十六 アートマンは実体を有するものであると考え、もろもろの事物はそれぞれ別異のものであると説く人々は、教えの異議に熟達している人々である、とわたくしは考えない。