次回のテーマは 「脳死は人の死か」 ですが、
脳死の問題は、事実を知らないまま語ることのできない問題です。
人は、脳死とは何かや、脳死と植物状態の違いを知らないまま、
脳死臓器移植がよいことか悪いことかを語れてしまいますが、
事実を知ってみるとその議論がまったく空虚であったことが判明したりします。
ふだんのテーマでしたら、皆さんの常識や感覚、言葉に対してもっているイメージ等から出発して、
自由に思考の翼を広げていっていただければいいのですが、
特に今回の脳死臓器移植というテーマに関しては、
やはり事実を押さえておいた上で議論していただく必要があるでしょう。
(実は脳死や臓器移植に関しては事実を確定するのが難しいという面があるのですが…)
ですので、今回は簡単な資料を配付しようかと考えております。
今週のてつカフェに参加予定の方は、あらかじめざっと目を通しておいていただければと思います。
1.脳死と臓器移植の歴史
1902年 人工呼吸の継続 → 23時間後死亡 → 死亡後解剖、脳が融解
1936年 世界初の死体からの腎臓移植 (36時間後死亡)
1940年代 移植免疫拒絶反応の解明
1950年代 人工呼吸器の普及
→「力強く脈打つ死体」 「超過昏睡」 「不可逆的昏睡」
1963年 米、世界初の肝臓移植 (直後に死亡)
1967年 米、世界初の肝臓移植の成功
南ア、バーナードによる世界初の心臓移植 (18日後死亡)
1968年 米、バーナードによる2度目の心臓移植 (9ヶ月生存)
日、札幌医大の和田寿郎による日本初の心臓移植 (83日後死亡)
→ 殺人罪で告発 → 証拠不十分のため不起訴
→ これ以降日本では脳死臓器移植はタブーに
米、ハーバード大学が脳死判定基準作成 → 「脳死 brain death」 概念の登場
1980年代 免疫拒絶反応抑制剤 (シクロスポリン) の普及
→ 臓器移植の成績が向上し、脳死臓器移植が世界的に普及
1985年 日、厚生省の脳死判定基準 (竹内基準)
1992年 日、脳死臨調の答申 「脳死は人の死」
1997年 日、臓器移植法施行
1999年 日、臓器移植法の下での初の脳死臓器移植 (改正まで86件実施)
2009年 WHOが渡航移植を規制する方針を表明
日、臓器移植法改正
2010年 日、改正臓器移植法施行 (改正後140件実施、2013年7月8日現在)
2.脳死とは何か?
①植物状態と脳死の違い
植物状態‥‥脳幹は機能している
※呼吸,心拍,消化,代謝,ホルモン分泌等を司る
自発呼吸がある
脳死‥‥少なくとも脳幹が機能していない
自発呼吸がなく、人工呼吸器が必要
②脳死をめぐる争点
・脳幹死 (脳幹さえ死ねば脳死) or 全脳死 (脳幹も大脳も含めて全脳の死が脳死)
・機能死 (脳の機能の不可逆的停止) or 器質死 (脳の細胞レベルでの死)
③脳死の定義の3種類
A.脳幹の機能死 ex.イギリス
B.全脳の機能死 ex.日本やアメリカをはじめとして多くの国々
C.全脳の器質死 ex.ロシア、スウェーデン等
3.日本における脳死
①定義 「脳幹を含む全脳の不可逆的な機能停止」(=B.全脳の機能死)
②判定方法 厚生省基準 (竹内基準) 1985年作成
イ.深昏睡
ロ.自発呼吸の停止
ハ.瞳孔散大
ニ.脳幹反射の消失 (対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射)
ホ.平坦脳波
ヘ.イ~ホの確認後6時間後に再検査
4.日本の臓器移植法の骨子
①改正前臓器移植法 (1997年) の骨子
イ.医師は死体(脳死した人の身体を含む)から移植のために臓器を摘出できる。
ロ.脳死した者の身体とは、移植のために臓器が摘出される予定で、
全脳の機能が不可逆的に停止したと判断された人の身体をいう。
ハ.脳死で臓器を摘出する場合の脳死判定は、
本人が生前に書面で脳死と判定されたら死者として扱われることに同意しており、
家族が判定を拒まない場合に限って行える。
ニ.脳死の判定はこれを的確に行うために必要な知識、経験を有する
2人以上の医師の行う判断の一致による。(摘出医、移植医は除く。竹内基準による。)
ホ.脳死で臓器摘出ができるのは、死者が生前に書面で臓器を提供する意思を表示しており、
遺族が摘出を拒まない場合に限る。
ヘ.心臓停止後に腎臓又は角膜を摘出する場合は従来どおり、
本人の提供意思が不明でも、遺族の同意で摘出できる。
ト.脳死した者の身体への処置の費用は当分の間、保険給付の対象とする。
チ.臓器提供は15歳以上の者のみ可能とする。
②改正後臓器移植法 (2010年) の骨子
イ.脳死は一律に人の死。
ロ.本人の書面による意思表示がない場合、家族の同意のみで脳死者から臓器提供できる。
(15歳未満の者からも、家族の同意があれば臓器提供できる。)
ハ.本人の書面による意思表示があれば、近親者への選択的臓器提供ができる。
脳死の問題は、事実を知らないまま語ることのできない問題です。
人は、脳死とは何かや、脳死と植物状態の違いを知らないまま、
脳死臓器移植がよいことか悪いことかを語れてしまいますが、
事実を知ってみるとその議論がまったく空虚であったことが判明したりします。
ふだんのテーマでしたら、皆さんの常識や感覚、言葉に対してもっているイメージ等から出発して、
自由に思考の翼を広げていっていただければいいのですが、
特に今回の脳死臓器移植というテーマに関しては、
やはり事実を押さえておいた上で議論していただく必要があるでしょう。
(実は脳死や臓器移植に関しては事実を確定するのが難しいという面があるのですが…)
ですので、今回は簡単な資料を配付しようかと考えております。
今週のてつカフェに参加予定の方は、あらかじめざっと目を通しておいていただければと思います。
1.脳死と臓器移植の歴史
1902年 人工呼吸の継続 → 23時間後死亡 → 死亡後解剖、脳が融解
1936年 世界初の死体からの腎臓移植 (36時間後死亡)
1940年代 移植免疫拒絶反応の解明
1950年代 人工呼吸器の普及
→「力強く脈打つ死体」 「超過昏睡」 「不可逆的昏睡」
1963年 米、世界初の肝臓移植 (直後に死亡)
1967年 米、世界初の肝臓移植の成功
南ア、バーナードによる世界初の心臓移植 (18日後死亡)
1968年 米、バーナードによる2度目の心臓移植 (9ヶ月生存)
日、札幌医大の和田寿郎による日本初の心臓移植 (83日後死亡)
→ 殺人罪で告発 → 証拠不十分のため不起訴
→ これ以降日本では脳死臓器移植はタブーに
米、ハーバード大学が脳死判定基準作成 → 「脳死 brain death」 概念の登場
1980年代 免疫拒絶反応抑制剤 (シクロスポリン) の普及
→ 臓器移植の成績が向上し、脳死臓器移植が世界的に普及
1985年 日、厚生省の脳死判定基準 (竹内基準)
1992年 日、脳死臨調の答申 「脳死は人の死」
1997年 日、臓器移植法施行
1999年 日、臓器移植法の下での初の脳死臓器移植 (改正まで86件実施)
2009年 WHOが渡航移植を規制する方針を表明
日、臓器移植法改正
2010年 日、改正臓器移植法施行 (改正後140件実施、2013年7月8日現在)
2.脳死とは何か?
①植物状態と脳死の違い
植物状態‥‥脳幹は機能している
※呼吸,心拍,消化,代謝,ホルモン分泌等を司る
自発呼吸がある
脳死‥‥少なくとも脳幹が機能していない
自発呼吸がなく、人工呼吸器が必要
②脳死をめぐる争点
・脳幹死 (脳幹さえ死ねば脳死) or 全脳死 (脳幹も大脳も含めて全脳の死が脳死)
・機能死 (脳の機能の不可逆的停止) or 器質死 (脳の細胞レベルでの死)
③脳死の定義の3種類
A.脳幹の機能死 ex.イギリス
B.全脳の機能死 ex.日本やアメリカをはじめとして多くの国々
C.全脳の器質死 ex.ロシア、スウェーデン等
3.日本における脳死
①定義 「脳幹を含む全脳の不可逆的な機能停止」(=B.全脳の機能死)
②判定方法 厚生省基準 (竹内基準) 1985年作成
イ.深昏睡
ロ.自発呼吸の停止
ハ.瞳孔散大
ニ.脳幹反射の消失 (対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射)
ホ.平坦脳波
ヘ.イ~ホの確認後6時間後に再検査
4.日本の臓器移植法の骨子
①改正前臓器移植法 (1997年) の骨子
イ.医師は死体(脳死した人の身体を含む)から移植のために臓器を摘出できる。
ロ.脳死した者の身体とは、移植のために臓器が摘出される予定で、
全脳の機能が不可逆的に停止したと判断された人の身体をいう。
ハ.脳死で臓器を摘出する場合の脳死判定は、
本人が生前に書面で脳死と判定されたら死者として扱われることに同意しており、
家族が判定を拒まない場合に限って行える。
ニ.脳死の判定はこれを的確に行うために必要な知識、経験を有する
2人以上の医師の行う判断の一致による。(摘出医、移植医は除く。竹内基準による。)
ホ.脳死で臓器摘出ができるのは、死者が生前に書面で臓器を提供する意思を表示しており、
遺族が摘出を拒まない場合に限る。
ヘ.心臓停止後に腎臓又は角膜を摘出する場合は従来どおり、
本人の提供意思が不明でも、遺族の同意で摘出できる。
ト.脳死した者の身体への処置の費用は当分の間、保険給付の対象とする。
チ.臓器提供は15歳以上の者のみ可能とする。
②改正後臓器移植法 (2010年) の骨子
イ.脳死は一律に人の死。
ロ.本人の書面による意思表示がない場合、家族の同意のみで脳死者から臓器提供できる。
(15歳未満の者からも、家族の同意があれば臓器提供できる。)
ハ.本人の書面による意思表示があれば、近親者への選択的臓器提供ができる。