【率直に欠点や間違いを指摘できる間柄 ~ 忖度も時と場合によりけり の巻】
智恵伊豆と綽名(あだな)されたほどに
鋭敏才智に富んだ松平信綱。
四代将軍・徳川家綱が幼少であった頃は
独裁政治を行っていた。
ある時、同役と雑談していた時
「将軍には目下弱年にあられるゆえ
物事すべて慎重に心掛けねばなりませぬ。
従ってもし諸大名より音物(いんもつ)が
ありましょうとも、拒絶するように
ありたいものです。
これから固く申し合わせ
諸侯においても同様の心掛けであるよう
申し渡してはいかがでしょうか」
と提議した。
その席にいた阿部忠秋は剛毅朴訥な人物。
「そのご意見は、至極ごもっともですが、
さて、我々の方へは未だ音物を持参した者とてなく
また当方から贈り物をした覚えもない。
他はともあれ、我々の方は禁じようもない
と申し上げたい」と言った。
さすがの信綱も、
これにはかえって赤面した、
と伝えられる。
◇
二人は互いの欠点を指摘し合い
よって天下の統治は盤石であったという。
常に正しい行いをなし
不浄な贈り物を受けないことを
「魚を受くれば禄(ろく)を失う」
とある。
紀元前の「事分類集」に
ワイロを断る話がみえる。
今日のようにカネを巡っては
清廉とは程遠く
堀の中に落ちるエライ先生にとっては
耳に遠い話であるかもしれない。