SAILIN' SHOES

デジタル一眼、ライカ等でのスナップ写真や、カメラ、音楽、鉄道・車、子育ての日々雑感です。

ビルの谷間に咲く

2009-04-03 | スナップ
先日、仕事で日本橋へ行った。
この辺は、再開発の最中で、大きなビルが次々に建設されている。
小さな店や飲食店がたくさんあった地域が根こそぎ無くなっている。
これからもまだまだ開発が進む。


3年前まで東京駅八重洲側の会社で働いていた。
定食屋や中華で昼食を取ったあと、コーヒーを飲みに行った。
昼休みはきっちり11:30から12:30と決まっており、なるべく早く食事をして喫茶店に向った。
今となっては懐かしい。
なぜなら、今の仕事では昼食時間はきっちりと決まっているわけではなく、
そもそも忙しいので、立ち食い蕎麦屋に行き10分以内で帰ってくる日々だ。
コーヒーを飲む時間はないし、今時そんな余裕なんてない時代だ。
そもそも禁煙のチェーン店が多く、入る意味も少ない。

さて、八重洲時代にいつも行っていたのは、日本橋の小さな喫茶店だった。
店の名前は「恵」。 ケイと読む。
お爺さんと、おばさまがやっていた純喫茶だが、コーヒー代がたった250円だったのだ。
8年ほど前にお爺さんが亡くなった。
おばさまは客に励まされてお店を続けた。
おばさまは元商社の秘書をやっていた人で、その前は女優さんもやったことがあると言っていた。
話しのとおり、きれいな人だった。
上海で育ち、引き揚げて来た話も何回か聞いた。
お爺さんとおばさまは10歳離れた夫婦であったが、
お爺さんは頑固で、いつもおばさまに厳しく当たっていた。
それでも、おばさまは軽く流していた。
私たち客のほうを向いて、「またまた、すぐにカーッとなっちゃうんですから。ハイハイ。」
と、いつもニコニコしていた。
そんなやりとりをいつも見ながらコーヒーを飲んでいた。
そんなおばさまだから、見知らぬ客同士もいつしか顔見知りになった。
それでも、お爺さんが亡くなったあと、コーヒーの味に自信がなかったのか、
「前と比べてどうですか?」といつも聞いていた。
お爺さんの入れるコーヒーと同じようにできているかを心配していた。



用件が終わり、日本橋の新しい大きなビルの間を歩いてみたが、風景が変わってしまって、
むかし来た定食屋がどこだったのかも判らなかった。
ビルの横に車が止まれるぐらいの通路があったので入ってみた。
L字型に曲がると、その一角だけだがビルの谷間に挟まれて古いビルがあった。
そして驚いたことに、その喫茶店があったのだ。
ドアから中を見てみると、おばさまが居た。

「あらあ、何年ぶりかしら。変わっていないですね。」
「たぶん3年とか4年ぶりですよ。あたりがすっかり変わってしまいましたね。」
「そうそう、この道だけ残ってるんですよ。ビルのオーナーが売らないんですね。」
「懐かしいなあ。毎日のように来てたから。」
「あの時と変わらないですのよ。午前中はコーヒーは200円。11時からは250円。
年金が減るいっぽうだけど。ふふ。」

おばさまは相変らず元気で、相変らずお話が大好きだ。
もうひとりの女性のお客さんと私と3人で懐かしい話しをした。
こうやって、また見知らぬ人と、知り合いになる。


コーヒーの味は、お爺さんの入れるコーヒーとまったく変わらなかった。






目の前も大きなビルが建設中だ。
















SONY α900、AF50mm/F1.4


コメント (16)
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