海にまつわる〝思い出話〟を一つ。
今から 30年ほど前のことです。
田舎へ、ある東京のキー局から、テレビ映画のロケ隊が来ました。
特派員は、その一行の取材が許されて、4日間のロケの内、2日間に同行しました。
出演(ロケに参加した方)は、中野良子、速水 亮、原田美枝子 ほかの皆さん。
タイトルは「恋歌(こいうた)」(五木寛之 原作)だったと記憶しています。
当時は、鶴来町や内灘町、高松町辺りで 撮影していました。
スタッフ、キャストなど、合わせて30人余りの一行です。
その頃は、田舎での 映画のロケが 珍しく、電車に乗るシーンなどでは、地元の人たちがエキストラで出演するなど、話題になったものです。
季節は秋。10月も下旬になっていました。
ロケが、口能登(能登半島の入口)の、日本海の浜辺で行われた日の 午後のことです。
一行の撮影が しばらくの休憩に入り、ある女優さんが 波打ち際を歩き始めました。
特派員はカメラを持って、そばを歩きながら スナップを撮らせてもらっていました。
彼女は、海に向かってしゃがみ込むと、しばらくは、寄せては返す波の動きを、ジッと見つめています。
私は、彼女が浮き立つように撮影するため、少し離れて、望遠レンズで撮っていました。
二、三度シャッターを切ったとき、彼女が顔を上げて 私を見たので、構えていたカメラをおろして そばへ歩み寄りました。
ロケの一行からは 少し離れていたので、辺りは 波の音しか聞こえません。
視線を 海に戻した彼女が
「静かですね。このまま ここに 残りたい…」と 呟きました。
私は 黙って、ただ 黙って 聞いていました。
そのまま、静かな時間が流れました。
「そろそろ 次のシーンを撮りますから、お願いしま~す。」
ADさんの呼び声が届いて、二呼吸か三呼吸おいた 彼女は、ゆっくりと立ち上がりました。
私の目を見て ニッコリと笑顔を浮かべ、ロングスカートを ほんの少し持ち上げながら、静かに 一行の方へ歩き始めました。
そのとき、彼女の目は 心なしか潤んでいるように見えたのです。
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今日使った写真は、手持ちの資料画像で「日本海の夕陽」です。
(DVテープからコピーして、取り込みました。撮影地は白山市徳光海岸)