コロナで休園・休校、なくなる有休 国の助成金申請には高いハードル
2021/09/02 12:00
(朝日新聞)
新型コロナウイルスの感染拡大で小学校や保育園が休みになり、子どもの世話で保護者が仕事を休む場合の国の助成金制度。今年度から支給の要件が厳しくなり、申請のハードルが高くなった。保護者でつくる団体は昨年度の制度の復活を訴え、国も制度を見直す方針だ。(一條優太)
愛知県のパートの30代女性は、1歳の娘が通う保育園で感染者が出て、8月16〜19日に臨時休園になった。女性は勤め始めたばかりで有給休暇が使えず、この間は無給の欠勤扱いに。臨時休園などの際に特別に有休を認める場合の国の助成金について勤務先に尋ねてみたが、「対象外」と回答されたという。
「有休が使えないのは困る。生活に響く」。愛知でも8月中は感染者数が大幅に増えた。「また休園になる可能性もあるが、休むしかないのかな」と嘆く。
厚生労働省によると、8月26日時点で臨時休園となった保育施設は14都道府県で179カ所。小学校でも夏休みを9月上旬まで延長した自治体もある。
こうした臨時休校や休園で、子どもの世話のために仕事を休まざるを得ない保護者への支援はどうなっているのか。
国は昨年の全国一斉休校を機に「小学校休業等対応助成金」をつくった。小学校の臨時休校などに伴い、通常の有給休暇とは別に、有休を取得させた企業に対し、助成金を支給する制度だった。
支給対象としたのは、小学校や保育園、幼稚園などが臨時休校・休園▽登園自粛の要請が出た▽子どもが感染したり、濃厚接触者になったりした――などのケース。従業員1人あたり1日1万5千円を上限に、従業員に支払った賃金と同じ額が企業に支払われた。
当初、事業主からの申請のみ受け付けていたが、企業が協力的ではなく申請が進まないケースがあり、最終的に個人からの申請も認められた。今年8月現在で約16万件、約600億円の支給が決まった。
ところが、この助成金は昨年度で打ち切りになった。厚労省の担当者は「一斉休校を踏まえて創設した制度。現在は、小学校や保育所でも、全国的に長期の休業が行われることは想定されていなかったため」とその理由を話す。
国は今年度、育児と仕事の両立を支援する「両立支援等助成金」の枠内に後継の制度をつくった。ただ、内容は大きく異なる。今年度はまず、企業側が特別に有給休暇を認める制度を就業規則などで規定することが前提だ。昨年度の助成金にはこの要件はなく、今年度、新たに加わった。同省の担当者は「恒常的に企業に制度を設けてもらうのが狙い」と言う。
支給額も実費ではなくなり、金額も特別有休を取った労働者1人あたり5万円を上限とし、最大10人分の50万円までになった。
助成金申請の実務に詳しい深石圭介・社会保険労務士は「企業にとって、申請のハードルは上がったと言える。手続きの手間や社労士への報酬と比べ、割に合わないと考える企業もあるだろう」と指摘。「子育て世代の労働者の割合が多い企業では、制度を利用して次々に休む人が出れば、『業務に支障を来す』と考える経営者もいるのでは。通常の有休や欠勤の扱いにする企業の方が多いだろう」と説明する。
昨年度、助成金の個人申請の実現に向けて署名活動をした「小学校休業等対応助成金の個人申請を求める親の会」代表の沖田麻理子さん(41)=岐阜県=は「小さい子どもは体調を崩すことがよくあり、通常の有休はそれでかなり使ってしまう。コロナで休園が続いて有休がなくなれば、やっていけなくなる。昨年の助成金を復活させるか、今の助成金の対象を拡大してほしい」と訴える。
こうした保護者や労働者支援団体からの声を踏まえ、厚労省は、保護者個人でも申請できる助成金制度を整えていく方針だ。昨年度で打ち切った「小学校休業等対応助成金」の枠組みを活用する方向で今後、検討するという。