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ウェブリブログで、2008年から2018年にわたって、サークル『趣味の部屋・詩と私』を主催してきました。平成20年から平成30年の間で、自分が54歳から64歳の頃でした。2011年に、電子書籍詩集「夢の翼」 を出すことも出来、遅れてきた青春というか、振り返れば、ネットを通じて詩を書く仲間に出会えたこと、さまざまな詩に出会えたことは、ひとつの宝物でした。
そのなかで、いちばん紹介させていただいたのが、POEM*ANDANTE のeriさんの詩でした。その後、詩を書くことから遠ざかっている自分ですが、ときどき、その頃のeriさんの詩を読み返しています。改めて、goo blog でも紹介していけたらなと。
『趣味の部屋・詩と私』 紹介詩: eriさんの詩より
日常の何気ない出来事が、きらきら輝いて見えるeriさんの詩を、『ブログ・POEM*ANDANTE 』より、紹介いたします。
DATE:12/06/2009 07:31:55 PM
『まどのそと、まどのなか』
北風が吹いてきた空の下で
マフラーを巻きなおしました
単線の駅には
電車はまだ来ません
片隅の自動販売機の珈琲は
ホットばかりが売り切れのまま
冬が来た
本当に来た
爪の先まで手袋が恋しくなるのも
ポケットの中があたたかいのも
みんな正真正銘の冬空のせい
笑うと目がなくなりそうな院長のいる
駅前の医院の大きな樹
今年も最後の枯葉の雨を降らしています
ゆっくりとホームに滑り込んだ
車両のてっぺんにも
惜しみなくこぼれる
赤い秋のいのちを降らしています
乗り込んだ電車のまどは
ひといきれで
まどのそとを曇らしています
動き出した電車のまどは
凍えないように
まどのそとを動かしています
乗り合った人の熱で
ぬくみを帯びるまどのなか
各駅停車のドアが開くたび
凍える空気がにじんできます
ゆるやかなカーブで
錆びた線路の音が軋みながら
北風に滑り込んでゆきます
まどのそと
まどのなか
その次も
その次の駅も
ずっとずっと
終着駅まで始発の冬です
DATE: 02/17/2010 07:38:39 PM
『コートを着て見た海』
誰もいない立春の海は
かたちのよい貝殻が
探さなくても見つかるのです
子連れの家族が
ビニールの袋いっぱい
貝殻を集めています
まだ名ばかりの春
コートを着て見た海は
テトラポットに描かれた
走り書きのように
何気なく刻まれるでしょう
遠くから流れてくる
単線の踏み切りの音
その駅に降りるのは
きっとほとんどが
暮らしなれた町のひとばかり
かたちのよい貝殻の
たくさん置かれた砂浜は
ひとの少ない海のしるしです
拾い上げれば
単線の駅では
もらえなかった切符です
途中下車なんてない
春へと向かう貝殻の切符です
コートを着て見る海を
春を探す
まなざしが泳いでいます
コートを着て泳ぐのは
浅い春を見渡しながら
深く目を細める
訪れるひとのまなざしです
DATE: 02/22/2010 07:46:24 PM
『光の素手』
ふくらんだつぼみを
開いてあげることはできません
開きかけたつぼみを
素手で開いてしまったら
ぽろぽろと崩れて
そのまま動かなくなってしまうのです
ぽつぽつと
道の途中で開きかける花のつぼみ
同じつぼみを
毎日 毎日
ずっと ずっと 見つめ続けていると
何にも触れていないのに
つぼみは開いてゆきます
かたわらで見守るまなざしは
光の素手
触れてあげられなくても
あたたかくする
光の素手
道行く人たちの
見つめる素手に抱かれて
蒼いつぼみたちは
すがたを変えてゆきます
何にも触れていないのに
蒼いつぼみたちは
閉じていたぜんぶを開いて
青々とした
風の中を動いています
DATE: 03/14/2010 06:01:04 AM
『分度器』
「空の分度器は180度しかはかれません。海の分度器は180度しかはかれません。お互いを重ねてみると、たちまち360度の地球が広がりだすのでした。」
ふと、
今私たちが立っている姿も、景色も、垂直ではないと気づくのです。
青々と、
青々と、
地球がまわり始めるのでした。
小さな街の真ん中で
ふと、
ビルの高さを見上げて
とがったものに触れてしまうのです。
傷ついた膝をまるめて
リビングのかたすみに雲隠れして
一日を凌ぐ日もあります。
とがったものをはかるのは
慣れっこになった今でも
どこか苦手なのです。
はかれっこない
ねじれたものを押さえるために
両手に胸をあてます。
お互いの180度を思えば
海と空は地球になります。
青い、
青い、
地球がまわりだします。
固い地球の片隅の
とぎれそうに霞んだアスファルトの上にも
どこまでも伸び伸びと伸びてゆく
あなたの影を胸にあてると
はかれないものが見えてくるのです。
点のような、
街のまん中にもあるのです。
手をふってくれる、
あなたの影を見つけました。
どこまでも、
どこまでも、
続くのです。
はかなくも繰り返される一日の
360度に続いています。
あの角を曲がってしまったとしても。
雑踏にあてられた鋭角の
くねりくねった曲線の
高すぎて霞んでしまいそうな垂直の影も
街の角で
何気なくかわされる一日の
一日のぬくみにあてられた時
360度へと続きます。
あなたが教えてくれた
まなざしは似ています。
まあるいあしたに続いています。
はかれないものを胸にあてる時
ここにいられることを
ふと、
思い出します。
DATE: 04/19/2010 05:08:09 PM
『つばめが飛んでいる』
しわしわ雲を
その翼で伸ばすように
つばめの群れが飛んでいる
昨日まで濡れていた空は
遠くまで響き渡る声に
照らされている
マンションの洗濯物さえ
洗いざらしの
鳥になりたがる空の青み
ベランダの大群は
パステルのなが袖を
はためかせていた
どこまでもどこまでも
飛んで行くつばめたち
どこまでもどこまでも
今日の空だから
どこまでもどこまでも
短い春の空だから
DATE: 06/11/2010 06:36:21 PM
『どうしてもきみにあいたくて』
どうしてもきみにあいたくて
日暮れの坂をサンダルで
駆け上った
砂埃に裸足はまみれて
爪先はジンジンして
どうしてもきみにあいたくて
なみだ顔を隠せる場所に
駆けて行った
坂の上の遠くには
白い架け橋が
消えない虹になって浮かんでいた
どうしてひとは
離れ離れになってしまうひととも
こんなに強く
出会ってしまうのだろう
いつか大人になったなら
会いに行けるだろうか
それともきみは
ぼくのことなんて
わすれてしまうのだろうか
夕刻のチャイムが
町の空に響き渡る
それはいつも
「明日また会おうね」の
以心伝心だったのに
どうしてもきみにあいたくて
遠くまで小石を投げたくなった
ジンジンしたままの爪先で
橋の向こうへと背伸びした
きみとは
ずっとずっと
出会っていたかったんだ
DATE: 06/14/2010 05:08:44 PM
毎日って、たった一度きりの連続なのに、いつも続いているように思えるのは、かたちあるもの、かたちないもの・・・いつも何かに出会っているからなのかもしれません。eri
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・サークル『趣味の部屋・詩と私』の仲間とは、今ではほとんど音信不通です。が、残された言葉としての詩には、いつでも出会うことが出来ます。この
goo blog での出会いも、一つの詩のような出会いであったらなと・・・・。