『グスコーブドリの伝記』は、主人公ブドリが、自分の生命を犠牲にして、イーハートーブのたくさんの人たちを救うお話です。それは、寒い異常気象を、ある火山を人口的に爆発させることにより、暖かく変えて、農作物を収穫できるようにしたのです。その人工的な爆発にかかわったのがブドリであり、どうしてもそのカルボナード火山島にひとりのこらなくてはならないのであり、それをかってでたのがブドリだったのです。
童話ではありますが、実際にそのような立場になったら、自分ではできないお話です・・・。そのような、自分を捨てて世のなかの役に立つというおもいが賢治童話にはあります。そして、そのような重たいテーマにかかわらず、賢治童話の言葉の表現の仕方ですが、ときにユーモアを感じさせる自由自在なものいいをしていて、それらものいいが私が賢治童話を好きな理由でもあります・・・。 たとえば、
『蜘蛛となめくぢと狸』より
蜘蛛と、銀色のなめくぢとそれから顔を洗ったことのない狸とはみんな立派な選手でした。
けれども一体何の選手だったのか私はよく知りません。
山猫が申しましたが三人はそれはそれは実に本気の競争をしていたのだそうです。
蜘蛛は森の入口の楢の木に、どこからかある晩、ふっと風に飛ばされてひっかかりました。蜘蛛はひもじいのを我慢して、早速お月様の光をさいはひに、網をかけはじめました。
あんまりひもじくておなかの中にはもう糸がない位でした。
夜あけごろ、遠くから蚊がくうんとうなってやって来て網につきあたりました。けれどもあんまりひもじいときかけた網なので、糸に少しもねばりがなくて、蚊はすぐ糸を切って飛んで行こうとしました。
蜘蛛はまるできちがひのやうに、葉のかげから飛び出してむんずと蚊に食らいつきました。
蚊は「ごめんなさい。ごめんなさい。」といったのですが、蜘蛛に食べられてしまいます・・・。そんな蜘蛛も最後は、食べ過ぎて腐敗してしまうのですが・・・。
秋の夜長、ふと、賢治童話を読んでいる私です。