第七十八首
淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に
幾夜ねざめぬ 須磨の関守
源兼昌
(生没年不詳) 父は俊輔。十二世紀初頭の歌人として知られる。
部位 四季(冬) 出典 金葉集
主題
須磨の千鳥の声によってもよおされた旅の哀感
歌意
海峡を隔てて日中は見えるあの淡路島から渡ってくる千鳥の鳴く悲しい声に、この須磨の関所の番人は幾夜目を覚まして物思いにふけったことだろうか。
冬の須磨の浦に旅寝をして、千鳥のものがなしい声をきき、いかにも須磨という所がらか、ひとしおの哀れを覚え、関守のさびしさに託して、みずからの哀れをよんだ歌で、「関路千鳥」という題詠であるが、『源氏物語』の須磨の巻の「友千鳥もろごえに鳴くあかつきはひとりねざめの床もたのもし」の歌をふまえて余情深い歌となっている。
『金葉集』以下、勅撰集入集七首。