第二十三首
月みれば 千々に物こそ 悲しけれ
我が身ひとつの 秋にはあらねど
大江千里
(生没年不詳) 父は漢学者の音人とされる。学識豊かだが官位は低かった。中古三十六歌仙の一人。
部位 四季(秋) 出典 古今集
主題
秋の夜の月をながめて、物思いにふける孤独の悲哀
歌意
秋の月を見ていると様々なことが悲しく感じられます。私一人を悲しませるために秋が来るというのではないのですが。
広く愛唱された歌で、定家も高く評価しているばかりでなく、「いく秋を千々にくだけて過ぎぬらむ我が身ひとつを月に憂へて」(拾遺愚草、上)などと、この歌を本歌としてよんでいるなど、好みにあった歌であった。
「秋ならねども、と有るべきところを、秋にはあらねど、と一字あましたるにて、詞つまらず余情かぎりなし。これを歌拍子といふ」(雑談)
大江千里は、『旬題和歌』の作で知られる。詩句の翻案というかたちを、千里が得意としていた。が、『古今集』直前の、宇多天皇をめぐる歌壇で、一つの流行を見ていたとということもできるのではなかろうか。
『古今』に十首、『後撰』以下に約十五首入集。