第五十五首
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滝の音は 絶えて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ
大納言公任
藤原公任 (966-1041) 父は頼忠。博学で歌人・歌学者。愛娘の死を哀しんで官を辞し、出家した。中古三十六歌仙の一人。
部位 雑 出典 拾遺集
主題
水が涸れて久しい滝の今もなお伝わる名声への賛美
歌意
ここ大覚寺にあった滝の水の音が聞こえなくなってずいぶん長い年月が経てしまったが、その評判だけは世の中に流れ伝わり、今日でも聞こえ知られているよ。
非常に技巧的な歌。「滝」「絶え」「ながれ」「きこえ」と縁語を並べ、「な」を頭韻に重ねてよみこなしている。当代無比の歌人と尊崇された公任ではあったが、俊成・定家のころともなれば、その評価は急速に下がってゆく。
学識豊かな才人で、作文・和歌・管絃の三才を具備、有識故実にも詳しかった。『拾遺抄』の撰者とされ、貫之を継ぐ和歌・歌学の大家。
『拾遺集』以下に九十二首。中古三十六歌仙の一。