時間は瞬く間に経ち、6時を過ぎ、7時になっても渋滞が解消する気配は全くなく、辺りはすっかり暗くなってしまった。
ヘッドライトに照らされた雪は風もなく静かに降り、まるで白い葦の簾でも立て掛けたように、視界を遮り、ワイパーを全開に作動させてもフロントガラスの両端に積る。
それでも時折小降りになることも有り、その合間を縫って外に出、フロントガラスに積った雪を落す。
車の前後に目をやると、雪に反射したやわらかなライトの光で、辺りは白夜のような幻想的な景色を醸し出し、私と同じようにフロントガラスの雪を落し、前方の渋滞を心配そうに見入っている数人の人影が見えた。
路肩には除雪車が撥ねた雪がうず高く積り、これまで経験したことないほどの積雪となっていたが、車の中は暖房がよく効いて温かく、この渋滞さえ抜ければ何とかなるだろうと考え、それほどの危機感は抱いていなかったが、この時、これまでにも見たことのない異常な大雪に気づき、事態の深刻さを感じ不安に襲われた。
「おい、大変、すごい雪だ、この状態ならいつ家に着くか分からないよ!」
溝口ICを過ぎて、まだ2kmも進んでいない。いったい何時になったらこの状態から解放されるのだろうか?
車列は亀の歩みのように遅い、それでもようやく前方に大山PAの水銀灯の明かりが見え始めた。
すると車の横を足早に通り過ぎて行く人影が見えた。
「あの人、トイレにでも行くのかな?」
たまに車で遠出すると、決まって2時間おきにはトイレに駆け込む妻が、通り過ぎる人影に同情するかのように呟き。
「裕子、汐里と沙織はトイレに行かなくても大丈夫かな」
裕子は喋り疲れエビのように丸まって、シートに横たわっていた汐里と沙織を起こした。
「汐里、沙織、トイレに行かなくて、大丈夫!」
二人は暖房の効いた車の中で、夢でも見ていたかのように寝ぼけ眼で“ゆっくり”顔をもたげ「まだ、大丈夫よ!」と言う。
大山PAの入口が近づくと、PAの駐車場は満杯状態になっていた。
「トイレに行かなくてよかったな、ここを過ぎると渋滞が少しは緩和すると思よ。もう少しの我慢だ」
私は自分に言い聞かせるように、孫たちを宥めた。
PAの出口付近では、本線側の車とPAから出てくる車で輻輳しなかなか進めなかったが、PA出口を過ぎると、一車線からまた二車線へとまた道が広がり、車の流れが少し速くなった。
「やれやら、ようやく流れがよくなった!」
カーナビに目をやり、米子道の出口までの距離を見ると、残り6kmと表示していた。
道路側壁には車のライトに照らされた、衝突防止の標示と思われるポールが10m間隔に整然と立ち、それに雪が積っていた。
「ほら、あれ見て!人がポールに覆いかぶさっているみたいだろー」
「あ!かわいいー」
汐里と沙織が歓喜の声を上げる。
「赤ちゃんが産着を着てポールに“おんぶ”されているみたいだねー」
裕子も妻もこの情景に感動したように叫ぶ。
重い空気に包まれて車内は、一瞬、桜でも咲いたように華やぎ、私たちに一服の安らぎと心のゆとりを与えてくれた。
よくよく観察してみると、真綿でも被せたような雪が、1.5m位のポールに規則正しく降り積もり、それがライトの光に反射し神秘的な光景を醸し出していた。
車は、老人が重い荷物を背負って坂道でも登るような“ゆっくり”した速度で進み、出口まで2km位のところまで帰ると、また二車線から一車線へと道は狭まり渋滞が始まった。
「あれ、何か落ちている」
前方に、車列と除雪され高くなった雪の間に、黒い手提げカバンのような物が雪に埋もれ、わずかに顔を出していた。
停まって拾おうか、このまま進もうか、外は寒そう、停まる・進む、・・・どうしよう、等と思案している間に、その場を通り過ぎてしまつた。
しばらく走っていると、前の車が突然止まり、前方の車から黒っぽい服を着た男性が降りて、私の車の横を通り過ぎ後方に歩いて行った。
「あの人、いったいこの雪の中、何しているのだろう」
前方の車は、停車したまま一向に動き出す気配はなく、前方の車から先の車の距離がしだいに離れていくのが見え、イライラが募る。
「一体何してるんだ!!何故、速く走らないのだ!」
怒りにも似た感情が沸々と湧き、車を降り、停車している車の運転者に訳を正そうとした時、黒っぽい服を着た男性が雪で真白になりながら、タイヤチェンを片手に提げ、足早に引き返して来て車に乗り込んだ。
「ああ、さっきの黒っぽい落し物は、あの車から外れたタイヤチェンだったのか」
雪の中でタイヤチェンを探すのも大変だったろうに、私は黒っぽい服の男性に多少の同情の念を抱きながら、前車に追随して走ると、今までの渋滞が嘘のようにスムースに進み、米子IC出口200m付近までたどり着いた。
IC出口付近は道幅が広くなっていたが、除雪し、確保された車線は一車線、ここで前車がまた突然に停止した。
Ⅰー6へ続く
ヘッドライトに照らされた雪は風もなく静かに降り、まるで白い葦の簾でも立て掛けたように、視界を遮り、ワイパーを全開に作動させてもフロントガラスの両端に積る。
それでも時折小降りになることも有り、その合間を縫って外に出、フロントガラスに積った雪を落す。
車の前後に目をやると、雪に反射したやわらかなライトの光で、辺りは白夜のような幻想的な景色を醸し出し、私と同じようにフロントガラスの雪を落し、前方の渋滞を心配そうに見入っている数人の人影が見えた。
路肩には除雪車が撥ねた雪がうず高く積り、これまで経験したことないほどの積雪となっていたが、車の中は暖房がよく効いて温かく、この渋滞さえ抜ければ何とかなるだろうと考え、それほどの危機感は抱いていなかったが、この時、これまでにも見たことのない異常な大雪に気づき、事態の深刻さを感じ不安に襲われた。
「おい、大変、すごい雪だ、この状態ならいつ家に着くか分からないよ!」
溝口ICを過ぎて、まだ2kmも進んでいない。いったい何時になったらこの状態から解放されるのだろうか?
車列は亀の歩みのように遅い、それでもようやく前方に大山PAの水銀灯の明かりが見え始めた。
すると車の横を足早に通り過ぎて行く人影が見えた。
「あの人、トイレにでも行くのかな?」
たまに車で遠出すると、決まって2時間おきにはトイレに駆け込む妻が、通り過ぎる人影に同情するかのように呟き。
「裕子、汐里と沙織はトイレに行かなくても大丈夫かな」
裕子は喋り疲れエビのように丸まって、シートに横たわっていた汐里と沙織を起こした。
「汐里、沙織、トイレに行かなくて、大丈夫!」
二人は暖房の効いた車の中で、夢でも見ていたかのように寝ぼけ眼で“ゆっくり”顔をもたげ「まだ、大丈夫よ!」と言う。
大山PAの入口が近づくと、PAの駐車場は満杯状態になっていた。
「トイレに行かなくてよかったな、ここを過ぎると渋滞が少しは緩和すると思よ。もう少しの我慢だ」
私は自分に言い聞かせるように、孫たちを宥めた。
PAの出口付近では、本線側の車とPAから出てくる車で輻輳しなかなか進めなかったが、PA出口を過ぎると、一車線からまた二車線へとまた道が広がり、車の流れが少し速くなった。
「やれやら、ようやく流れがよくなった!」
カーナビに目をやり、米子道の出口までの距離を見ると、残り6kmと表示していた。
道路側壁には車のライトに照らされた、衝突防止の標示と思われるポールが10m間隔に整然と立ち、それに雪が積っていた。
「ほら、あれ見て!人がポールに覆いかぶさっているみたいだろー」
「あ!かわいいー」
汐里と沙織が歓喜の声を上げる。
「赤ちゃんが産着を着てポールに“おんぶ”されているみたいだねー」
裕子も妻もこの情景に感動したように叫ぶ。
重い空気に包まれて車内は、一瞬、桜でも咲いたように華やぎ、私たちに一服の安らぎと心のゆとりを与えてくれた。
よくよく観察してみると、真綿でも被せたような雪が、1.5m位のポールに規則正しく降り積もり、それがライトの光に反射し神秘的な光景を醸し出していた。
車は、老人が重い荷物を背負って坂道でも登るような“ゆっくり”した速度で進み、出口まで2km位のところまで帰ると、また二車線から一車線へと道は狭まり渋滞が始まった。
「あれ、何か落ちている」
前方に、車列と除雪され高くなった雪の間に、黒い手提げカバンのような物が雪に埋もれ、わずかに顔を出していた。
停まって拾おうか、このまま進もうか、外は寒そう、停まる・進む、・・・どうしよう、等と思案している間に、その場を通り過ぎてしまつた。
しばらく走っていると、前の車が突然止まり、前方の車から黒っぽい服を着た男性が降りて、私の車の横を通り過ぎ後方に歩いて行った。
「あの人、いったいこの雪の中、何しているのだろう」
前方の車は、停車したまま一向に動き出す気配はなく、前方の車から先の車の距離がしだいに離れていくのが見え、イライラが募る。
「一体何してるんだ!!何故、速く走らないのだ!」
怒りにも似た感情が沸々と湧き、車を降り、停車している車の運転者に訳を正そうとした時、黒っぽい服を着た男性が雪で真白になりながら、タイヤチェンを片手に提げ、足早に引き返して来て車に乗り込んだ。
「ああ、さっきの黒っぽい落し物は、あの車から外れたタイヤチェンだったのか」
雪の中でタイヤチェンを探すのも大変だったろうに、私は黒っぽい服の男性に多少の同情の念を抱きながら、前車に追随して走ると、今までの渋滞が嘘のようにスムースに進み、米子IC出口200m付近までたどり着いた。
IC出口付近は道幅が広くなっていたが、除雪し、確保された車線は一車線、ここで前車がまた突然に停止した。
Ⅰー6へ続く
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