夏の思い出 25

2021-10-21 09:18:23 | 日記
お別れ会は、静かに終わった。

「星、出てるね…」

帰り道、玲子は、星がポツポツと輝く夜空を見上げ、ゆっくりと歩くタカシと並んで歩いた。

「まゆみ、星、好きだったよね」

「え?知ってるの?」

まゆみは、学生時代に、星の話しが好きで、よくしてくれた。

「バイトしていたホームセンターの飲み会があってさ、珍しくまゆみも来てたんだ。たまたま隣に座ったら、星の話しですっかり盛り上がってさ。」

「タカシも星好きだったっけ?」

「学生時代、天文学部だったし」

「あ、まゆみも、そうだったよね。」

「ホームセンターの飲み会のあと、偶然に街であってお茶をして、そのあと、一緒にプラネタリウムに行った」

「わぉ!結構会ってたんだ。で、そのあとは?」

「それだけ…。それからは、電話しても出ないし…。嫌われたかな?って思った」

「そんなことは…。病気…深刻だったのかな?」

「…そうかも…。」

「メンタルの病気だって…知ってた?」

「うん。プラネタリウムの帰りに、急に彼女過呼吸を起こしたことがあって…」

「え?」

夏の思い出 24

2021-10-20 08:46:14 | 日記
お別れ会は、静かにはじまった。

まゆみと縁のあった仲間が、思った以上に集まってくれて、玲子はうれしかった。

そして、お酒を飲んで、まゆみの思い出話しに終始した。

そこで、聞いたのは、まゆみの心の病の話。

それは、思った以上に深刻なものだった。

仕事に就いたが、会社では、トラブルが続き、上司のパワハラに悩み、数ヶ月もしないうちに、会社を休むことになってしまっていた。

トラブルそのものも、まゆみが起こしたものではなく、元々長年抱えていたトラブルを、まゆみの責任として、先輩たちが逃げ出したのだ。

詳しい事情を知らないまゆみは、責任を感じ、深く悩んだ。

上司もまゆみを責めた。

そうこうするうちに、立ち眩み、吐き気、発熱…と、ひどい症状が体に現れて、会社に行くことが出来なくなった。

もともと、責任感が強く、その反面、気弱なまゆみには、地獄だったろう…。


夏の思い出 23

2021-10-19 09:54:33 | 日記
まゆみがいなくなって数ヶ月…。

玲子はずっとまゆみのことを考えていた。

あの時、まゆみが最後に玲子に会いに来た時、まゆみが「またね」と手を振ると、何か言いたげだった…。

何度も何度も、あの時の顔を思い出す。

それより、何より、あの日、玲子に会いに来てくれたことが、うれしくて悲しくて…。

そして、こんなことになる前に、何も出来なかったことへの後悔が続いた。


玲子は、まゆみのお別れ会をする事にした。

大袈裟なことはするつもりはない。

学生時代の彼女を知ってる人がひとりでもふたりでも、まゆみのことを思い出してくれればいい…と、思った。

…というより、何よりも本当は、タカシを呼びたかった。


夏の思い出 22

2021-10-18 10:03:16 | 日記
お気に入りの散歩道を散策して、自宅へ着くと、


……「玲子!」

母親が玲子を待っていたかのように駆け寄った。


「どうしたの?お母さん」

「まゆみちゃんが亡くなったって…」

「何を言ってるの?ついさっき……」

話をしながら、さっきから不思議な胸騒ぎがしていたことを思い出した。

これが、そうだったの……?!



まゆみは、玲子に会いに来た前日に、亡くなっていた。


玲子は、現実を受け止められない。


取り急ぎ、まゆみの家へ向かった。

そこには、憔悴しきったまゆみの母親がいた。

まゆみは、なんと、自殺だった。

一人暮らしのアパートで、明け方、一人で寂しく…。

「お、おばさん…。」

「玲子ちゃん」

まゆみの母親は、玲子をしっかりと抱き締めてくれたし、玲子もしっかりと抱き締め返した。