琉球王朝時代、侍(サムレーと言う)の家でも、家長と嫡子以外はサツマイモ(沖縄から薩摩に渡ったのに、サツマイモとはこれいかに)が常食であったという。貿易による富を薩摩に搾取されていたために、琉球は、国全体が貧しかったのだ。それでも、「生きてりゃいいさ」といった風に、それなりに楽しく暮らしていたのだろう。その時代、歌や踊りが庶民の間に広まり発展した。雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ、生きていたのだろう。
先島(宮古諸島、八重山諸島など)は、沖縄島よりさらに貧乏で、悲惨。琉球は薩摩に搾取されていたが、先島はまた、その琉球に搾取されていたからだ。それは、人頭税(別項で詳しく)という制度があったという事実から窺い知ることができる。
そんな貧しい時代に、こんな木があったらいいのになぁ、という木がある。パンノキと言う。その実は食用となり、蒸すと、「パンとサツマイモをミックスしたような風味」になると文献にはある。野原にたくさん植えとけば、先島の飢餓も救えただろう。
職場に大きなパンノキがある。毎年実をつける。数年前に一度、職場でバーベキューパーティーがあった時に、パンノキの実を丸ごと1個、焼いて食ったことがある。「パンとサツマイモをミックスしたような風味」に近いと言えば近かったかもしれないが、さほど「美味しい」というものではなかった。が、不味いというほどでも無い。無味に近い淡白な味なので、調理の工夫次第では美味しく食べることができるかもしれない。
将来、いつ地震や戦争などが起こるか知れない。そういった非常時の場合に備えて、各家庭の庭に1本、パンノキを植えておこう。パンノキの実を必要とする時は来ないかもしれないが、そういう場合は、その実を集めて、飢餓に苦しむ国の人々に送ればいいのだ。飢餓が無くなれば戦争が減る。戦争が減れば農業する人々が増える。食物が増えれば飢餓がさらに減る。といった様な平和スパイラル。というわけにはいかないだろうか。
パンノキ(麺麭の木):果樹・公園樹
クワ科の常緑高木。分布は太平洋諸島、マレーシア。方言名:無し
別名タネナシパンノキ。種のあるパンノキと種の無いパンノキがあるようだ。食用となるのはタネナシパンノキの方。蒸して食すとのこと。収穫期は10月から12月。
実だけで無く葉にも特徴がある。切れ込みがあり、つやがあり、何より大きい。長さ60cmほどある。その大きな葉もきれいだが、全体の形もまとまっていて街路樹や公園樹としても優良な樹木。成長が早く、高さ10mほどにもなるので、小さな庭には向かない。
実
葉
記:島乃ガジ丸 2004.9.30 →沖縄の草木目次
参考文献
『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
今週”イヌビワ”と名のつく植物を4種紹介しているが、4種ともクワ科で、そして、イチジク属である。この仲間は南方系のものが多いようで、沖縄にはいくつもある。このところ学名にも興味を持って、『寺崎日本植物図譜』などという、字の小さな書物も見るようになった。イチジク属はFicusという。フィカスと発音し、これも馴染みがある。なにしろ、このHPの名前であるガジュマルもまたフィカスだからである。
学名などには興味無いという人が多いかもしれないが、せっかく調べたので、沖縄でよく見ることのできるフィカス属の学名を紹介しておこう。
アコウFicus superba (Miq.) Miq. var. japonica Miq.
イタビカズラFicus nipponica Franch. et Savat.
イチジクFicus carica L.
イヌビワFicus erecta Thunb.
インドゴムノキFicus elastica Roxb.
インドボダイジュFicus religiosa L.
オオイタビFicus pumila L.
オオバアコウFicus caurocarpa Miq.
オオバイヌビワFicus septica Brumann fil.
ガジュマルFicus microcarpa L. fil.
カシワバゴムノキ(カシワバイヌビワ)Ficus lyrata Warb.
ギランイヌビワFicus variegata Bl.
シダレガジュマル(シロガジュマル)Ficus benjamina L.
ハマイヌビワFicus virgata Reinw. ex Bl.
ヒメイタビFicus thunbergii Maxim.
ベンガルボダイジュFicus bengalensis L.
上に挙げた植物たちは、だいたいがその樹形、葉形、果実などに特徴があって、見分けやすい。素人の私でもただ一つを除いてはどれも認識できる。その、ただ一つとは今回紹介するハマイヌビワである。私は、これがハマイヌビワだと認識して見たことは一度も無い。あまり特徴が無いので、見たとしても認識できないのである。よって、写真のものがハマイヌビワかどうかについてもあまり自信が無い。イヌビワとよく似ているので、その見分けが難しい。文献の写真と見比べて、何となくそうじゃないかと・・・。
ハマイヌビワ(浜犬琵琶):公園・添景
クワ科の常緑高木 原産分布はトカラ列島以南、沖縄、他 方言名:アチネークなど
同属のイヌビワによく似ていて、海岸に自生するところからハマ(浜)イヌビワという名前。イヌビワという名前は、その果実の見た目がビワに似ているが、ビワの実より小さく、味も劣っているというところからきている。
分枝が割合少なく、自然樹形で整った形になる。高さも5mほどに留まり、民家の庭でも使い易い。ではあるが、民家の庭木としてはあまり見ない。いや、見ているかもしれないが、私が気付かないだけなのかもしれない。イヌビワのそれと似た果実、採種期は3月から4月。花はイチジク同様に果実の中にある。これを無花果という。
陽光地を好む。耐潮風性が強く、成長は速い。幹や枝から多くの気根を発生する。
ちなみに、似たような名前のハマビワはクスノキ科の常緑中木。
実
イヌビワ類の葉と実3種 ハマイヌビワ ケイヌビワ イヌビワ
記:島乃ガジ丸 2006.9.2 →沖縄の草木目次
参考文献
『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
知合いの木工家Mさんとはここ4、5年会っていないが、10年ほど前までは週に2日以上は顔を合わせていた。主に週末、彼の木工所に通って木工の技術を教わっていた。
熱しやすく冷めやすい私は、3年ほど続いた木工の趣味も10年前に終わっており、その後はMさんとも年に数回、会うか会わないかとなっていた。ここ4、5年まったく会っていないのは、4、5年前に彼が木工を辞めて、その木工所からも消えたからである。
噂であるが、3回目の浮気がばれて(過去2回のことは本人に聞いている)、ついに女房から離縁され、仕事も減って、生活が苦しくなり、木工家としては生きていけなくなったとのことである。タクシーの運転手をしているんじゃないかということである。
まあ、そんな悲しい話は、ここでは関係ない。
Mさんの木工所の裏手には墓地があり、境界のブロック塀の傍、2、30坪ばかりの広さは雑木林となっていた。その雑木林の中に大きなハゼノキが1本あった。
Mさんは木工所に犬を1匹飼っていた。犬に(猫にも)興味の無い私は、その犬の種類が何というのか知らないが、人懐っこい小型の犬であった。
ある日、木工所を訪ねると、私にも懐いていたその犬がいない。
「どうしたの?食ったの?」と私が訊くと、笑って、
「今、病院だ」とMさんは答えた。
「交通事故?」
「いや、このあいだ、裏の林で犬を遊ばせていたら、翌日、犬の体全体にふきでものができたんだ。どうも、ハゼノキに被れたらしいのだ。」
愛犬家の皆様、犬も漆被れするみたいです。お気をつけ下さい。
ハゼノキ(黄櫨・櫨・梔):公園
ウルシ科の落葉高木 本州以南、沖縄、他に分布 方言名:ハジ・ハジギ
別名リュウキュウハゼ、またロウノキともいう。ロウノキは蝋の木で、この実から木蝋が採れることから。もう一つのリュウキュウハゼは、ヤマハゼと区別するための名前らしい。木蝋を採る技術が中国から琉球を経て伝わったことからとある。
ウルシ科の植物なので、ウルシ同様ひどく被れる人もいる。よって、庭木にはあまり向かない。紅葉する木として有名だが、亜熱帯の沖縄でも紅葉する。
高さは10mほどになる。初夏に黄緑色の小さな花を咲かす。樹皮は染料となる。
花
葉
紅葉
記:島乃ガジ丸 2006.3.12 →沖縄の草木目次
参考文献
『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
近所、家から徒歩5分程度の場所にハスノハギリがある。「そうではないか?」と気付いたのは4、5年前で、「そうに違いない」と思ったのは2年前、2008年の夏。葉の形から「そうではないか?」で、花を見て「そうに違いない」となった。
その時、花の写真を撮ったが、ハスノハギリの花はそう目立たない。ハスノハギリはその実が面白い形をしている。「紹介するのは実の写真を撮ってから」となる。
「花が咲けば実も付くだろう。」と、2008年の秋以降、同じ場所へ何度か確認しに行った。しかし、実が付いているのを見ることはできなかった。実どころか、花も見せてくれなかった。そこのハスノハギリは年々元気がなくなっているようであった。
ハスノハギリのある場所はマンションの駐車場で、道路沿いに5本、大きな植木鉢に植えられいた。大きな植木鉢といっても、成長が速く、大木になるハスノハギリにとっては小さ過ぎたのかもしれない。で、実が付かない、花も咲かない、何年経っても同じ高さに留まって、しだいに元気が無くなっているように見えたのかもしれない。
去年今年と、そのマンションを訪ねていなくて、その後、ハスノハギリがどうなったか不明。今年(2011年)2月、海洋博公園を訪れた際、たくさんの実が付いたハスノハギリを見つけた。なので、マンションのハスノハギリはどうでもよくなった。
ハスノハギリ(蓮の葉桐):景観、防潮風
ハスノハギリ科の常緑高木 奄美以南、東南アジア、他に分布 方言名:トゥカナチ
名前の由来、葉の形がハスの葉に似ているからハスノハ(蓮の葉)というのは解るが、キリ(桐)が不明。キリはゴマノハグサ科の落葉高木、どこかが似ているのかもしれないが、沖縄にキリは無く、私は見たことが無いので、どこが似ているかも不明。
方言名はトゥカナチの他、トカナチ、トゥヌチ、ウンブギ、アカシタなど多くあって、沖縄では古くから親しまれてきたようである。なお、方言名の意味はいずれも不明。
高さ20mに達する。萌芽力が強いので、剪定し形を整えることができる。ただし、切口が腐り易いので、太い枝の切り口は防腐処理が必要とのこと。大木になるので民家の庭には使いにくいが、耐潮、耐風性が強く、防潮風林として利用される。
花は白色、小さく目立たない。乳白色、または薄紅色に熟す大きな実が目立つ。結実期は10月から6月。材は器具や下駄などに利用、種子や若葉は下剤になるとのこと。
花
実
記:島乃ガジ丸 2011.5.24 →沖縄の草木目次
参考文献
『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
『花の園芸大百科』株式会社主婦と生活社発行
『新しい植木事典』三上常夫・若林芳樹共著 成美堂出版発行
『花合わせ実用図鑑』株式会社六耀社発行
『日本の帰化植物』株式会社平凡社発行
『花と木の名前1200がよくわかる図鑑』株式会社主婦と生活社発行
金曜日の職場のある近辺は、ほぼ碁盤目模様に区画整理された住宅地である。地番も、何丁目何番地の何というふうに今はなっている。その歴史は浅く、そのような地番になったのはまだ30年ばかり前のことで、それまでは字○○であった。
職場の建物が建ったのは20年ほど前のこと。店のオーナーである従姉の亭主は、その建物と、建物が建っている土地の所有者でもある。建物がもうすぐ完成するという頃、建物の名前を決めるという協議があり、わたしも参加した。建物の前に1トン程度の石を置き、その石に建物の名前を彫るということが既に決まっていて、石を選んだり、名前を彫らせたり、そういった手配を私は頼まれていたのである。
店の名前に関しては、私も店の運営に参加するということが決まっていたので、いくつか意見を出した(それらは全て、従姉の強権によって却下されたが)。建物全体の名前に関しては、私は何の意見も言うつもりは無かった。そんな権利も義務も無いのだ。
「ねえ、私たちの頭文字のアルファベットと数字だけのシンプルなものにしない。」
「うん、いいんじゃないの。でも、数字は何にするんだい?」
「ここの住所でいいんじゃないの。」
「何丁目何番地の何って、なんか長ったらしくないか?」
「いや、古い地番を使うのよ。3ケタだけだし、私たちには馴染み深いし。」
「そうだな、そうするか。」
と、ここまで黙って聞いていた私であったが、ここで初めて口を出した。古い地番が853であることを知っていたからだ。
「まあ、それなら覚えやすいよね。ハゴーサンて覚えられるね。」
その後、二人の間から地番を名前にするという意見は消えた。ハゴーサンはウチナーグチで「汚い」という意味になる。自分たちの建物が「汚い」と覚えられるのは、二人とも嫌だったようである。結局、建物はごくありふれた名前になった。
バクチノキは博打の木ということで、あまり良い名前とは言えないが、それでも、方言名のファゴーギー(=ハゴーギ=汚い木)よりはまだましかもしれない。
バクチノキ(博打の木):公園・街路
バラ科の常緑高木 原産分布は関東以西、南西諸島、他 方言名:ファゴーギー
博打の木という面白い名前は広辞苑に、「樹皮は灰褐色で絶えずはがれ落ち、博打で負けて裸になるのにたとえての名」とあった。方言名のギーは木。ファゴーはハゴーとも発音するが、汚いという意味。まだら模様になった幹肌が汚いということ。
高さは10~15m。葉は革質で大きい。葉の腋から花茎を出し、白色の小花を穂状につける。一つの花から長い雄しべが何本も出て、全体にはブラシのように見える。開花期は9月から10月。果実は翌年の初夏に黒紫色に熟す。
広辞苑に「ばくち水」との記述もあった。この葉から製した液で、鎮咳、鎮静薬になるとのことであるが、「博打水」とは任侠の世界にもありそうな言葉だ。
葉
記:島乃ガジ丸 2006.7.24 →沖縄の草木目次
参考文献
『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行