私が所属する東京都行政書士会のHPに以下のような記事が出ていました。
------------------------------
【 生後認知でも国籍取得! 】
《 国籍法改正/今国会で成立か? 》
法務省は10月10日、本年6月の婚姻を必要とする国籍法第三条の規定を違憲とした最高裁大法廷判決を受け、結婚していない日本人の父と外国人の母の間に生まれた子が日本国籍を取得するための条件から、両親の婚姻要件を外す国籍法改正案を、自民党法務部会(国籍問題に関するプロジェクトチーム、河野太郎座長)に提示し承認された。
今国会で国籍法第三条の規定が削除されると、未婚の日本人父親が外国人母親から生まれた子を認知することにより、認知された子は日本国籍を取得することになる。
婚姻の前後に生まれた子の国籍取得に関し「合理的理由のない差別を生じさせた」とする大法廷の判断により、法改正は2003年以降の届出について、遡り婚姻要件の除外を認めるもよう。
但し、自分の子でもないのに出生後の認知を行う不正行為(認知偽装)に対しては、1年以下の懲役か20万円以下の罰金を科す罰則規定をもうけるとともに、出入国情報の照合などの審査体制も強化するもよう。
子供の人権尊重を主眼とする法改正には異論の無いところだが、人道的な立場の法改正を逆手に取った認知偽装の横行が危惧されることとなる。
-----------------------------
ちょうど、9年ほど前のことだったと思うのですが、南米某国の女性が、当時私が所属していた新宿にあった事務所を訪ねて来たのでした。彼女は、涙ながらに、
「某日本人男性に騙されて妊娠した!」
「お金などはいらないから、子供を認知して欲しい!」
「自分の子として認めないのなら、裁判で訴えても認知させて欲しい!」
そう訴えていたのでした。
私は、この件は知人の弁護士に処理して貰うつもりではありましたが、言葉の問題もあるので、取り敢えず話を聞いてみることにしたのでした。それによると、確かに所持する数々の写真等の証拠品から、彼女とその日本人男性とは、かなり親密な男女の交際関係があったらしいことが分かったのでした。
ところが、調べてみると、仮に裁判にしたとして、その裁判が長期化して、その間に子供が出生してしまったような場合で、出生後にやっと判決で勝訴するか、又は、和解が成立してその子供が父親から認知をされるようなケースでは、その子供にはもう既に日本国籍が得られない可能性が高いことが分かったのでした。
生まれて来る子が、この父親からの認知が生後になることで、日本国籍が得られないなんて、どう考えて不公平な話なのです。こりゃあ、困ったことになったと思い、この男性と会えますかと、彼女に聞いたところ、この男性、案外素直に事務所にやって来たのでありました。
「この彼女は、貴方の子を妊娠していて、認知して欲しいと言っていますが、心当たりはあるのでしょうか?」
「ええ、まあ、本当かどうかはの確証はありませんが、多少は思い当たるフシはあります。はい。」
この内容を通訳して伝えたところ、その彼女は叫ぶように泣き出し、
「嘘つき!自分の子なのに。それに、独身だと私に嘘を言って・・・、私を騙したのね!」
これをそのまま、通訳して伝えたところ、その日本人男性は、相当に狼狽したのでした。そこで、私は、
「ご自分の子だと、お認めになるのでしょうか?或いは、否定されるのでしょうか?」と聞いたところ、返事がありませんでしたので、
「それでは、知人の弁護士に、この件は引き受けて貰い、裁判で争うことにしましょう!」と言いましたら、
「子であることは認めます!ですが、女房子供に秘密にしたいのですが・・・」
「今の段階で認知すれば、子供が生まれるまでは、特に発覚することはありません。しかし、無事に生まれて来れば、XXさんの戸籍に認知したことが記載されますから、いずれはバレてしまうと思うのですが・・・」
「それは、困ります・・・」と、その日本人男性
「では、こういった紛争性のある事件ですから、やはり知人の弁護士に回します!」
「ちょっと、待って下さい!裁判は駄目です。何とか穏便にお願いします。」
「では、彼女のお腹にいる子は、ご自分の子であるとお認めになるのですか?その認知手続きに全面的に協力されるいう事なのですか?」と、確認したところ
「とりあえず、それでお願いします。手続きには全面的に協力します。」との事でしたので、
「彼女には言いませんが、もし仮に、お子さんがご自身の子でなかったと確証するのならば、生まれた後でも、親子関係不存在の訴えを起こすこともできますよ。しかし、逆に、今認知しないと、きっと彼女やお子さんに一生恨まれることになるかもしれませんから、正しい選択だと思います。」そう、私はそう答えて、この多少気弱な妻子持ち男に、ほんの僅かに同情をしたのでした。
手続きは、彼女がオーバーステイであったことによる障害や、現在未婚である事の立証、また、母親の本国法での胎児認知に相当する記載があることの立証などで困難の連続だった上に、管轄の区役所窓口や法務局の逃げ腰な姿勢などにより、数々な障害がありました。しかし、一つ一つの障害をクリアーして行き、とうとう無事に受理させる事に漕ぎ着けたのでした。しかし、オーバーステイである以上は、不法滞在者でもあったので、自主的に出頭帰国して貰ったのでした。勿論、帰国後に無事に子供が生まれた場合の日本大使館への届出方法なども教えて差し上げたのでしたが・・・。
私の心の中では、あの外国人女性の子は、本当にあの妻子持ちの日本人の子であったのかどうかが、やはり多少は気になっていたのでした。もし、将来何らかの疑義があった場合、今度は日本人の男性の相談にも乗ってやろうと思っていたのでしたが・・・。そして、2年ほどの月日が経ったある日、何とその彼女が事務所に再び突然現れたのでした。それも、南米から、あの胎児認知されて生まれ来た子供を連れて戻って来たのでした。
彼女は、2年前の礼を言うと共に、生まれた子が女の子で、名前は何とあの父親が付けたとの事でした。かといって、妻子持ちの日本人の彼の生活を壊すつもりは無く、もう彼には会わないとの事でした。そして、その子の顔を見せて貰って、思わず心の中で笑い出してしまったのである。それは、その子の顔が父親にあまりにも瓜二つだったからでした。
**********************************************************************************
もし、仮に胎児認知手続という選択をせずに、この案件を弁護人に渡して、認知事件、或いは損害賠償事件として争っていたと仮定したら、もしかしたら、この子の日本国籍は無かったのかもしれない。そう思うと、一人の子供の運命を不幸にせずに良かった!と、心より思ったのでした。
最近の新聞などの論調では、出生後認知が、偽装認知を急増させる結果となるとことを危惧するという内容の記事が多く出ていました。しかし、その前に重要なのは、多くの妻子持ちの日本人男性達が、外国人女性への胎児認知の重要性を知らずして、生後認知したケースに於いて、結果として、全く罪無くして生まれて来たこれらの認知された子供達から、日本国民となるという権利を奪って来ており、今なおその悲劇が続いていることにあるのです。
ですから、先ずはこういった生後認知には日本国籍を認めないという、国籍法に於ける著しく正義に反していた規定を、真っ先に改めるべきだと私は思うのです。
日本人と偽装結婚する外国人女性は、今でも後を絶ちません。だからといって、外国人女性と結婚することを禁止すべきだとでも言うのでしょうか?生後認知で、日本国籍を取得する子供達を認めないという事は、外国人女性と結婚することを禁止すべきだと言っているのと、論理的にはまったく同じ考えだと私は思うのです。
偽装認知する最大のメリットは、認知される子ではなく、その親権者・監護権者である外国人母である筈ですから、偽装認知に対する刑罰を強化したり、その母親と父親との交際関係の立証が不十分な場合で親子関係に重大な疑義があるような場合には、入管局が、養育者であるその外国人母の本邦での滞在を認めないという、行政処置を採ることはかなり有効な手段だと思います。
勿論、慎重にも慎重な運用が必要不可欠であることは言うまでもありませんが、親子関係に重大な疑義があるような場合には、入管局が認知子の母親の在留資格に対する厳格な審査を行うことや、場合によっては、DNA鑑定を含む立証証拠の提出を求めても良いのではないのかと、私個人として思うのです。
それが、結果として、罪のない子供達の将来を閉ざすような不幸な結果を少しでも防ぐことに繋がるのであれば、当面はやむを得ない措置かなと私は思うのですが・・・。
記事、とても興味深く読ませていただきました。
今年の違憲判決をニュースで見たときに、この国籍法の存在を知りました。
危険を回避するためなのは分かりますが、なんと可笑しなことを考えたんだろう、と一般人としては思いました。
今、まだ資格は取れてませんが、行政書士として係りたいことが入管関係ですので、こちらのブログはとても興味深いです。
少しばかりですが、海外にいたことがあり、日本のビザ取得が諸外国に比べ厳しいものだと知り、早く資格を取り、貢献したいです。
お話にあった南米の女性のようなケースも、表にでなくても沢山あるんでしょうね。。真面目に、一生懸命生きてる人達が泣かないような、そんな国になってほしいです。
長々と失礼しました。
コメントありがとうございます。偽装認知、偽装婚などのマイナス面ばかりが報道されているので、このように実際に泣いている、又は、泣く寸前であった子供達が沢山いることを伝えたく、あえて過去の事例を書いてみました。
この事例では、胎児認知によって日本国籍を留保でき、幸いにもこの子には国籍選択権があるのですが、日本人の子として生まれながら国籍さえ貰えなく泣いている子供達が相当数いるのです。このように、現行の国籍法は矛盾だらけなのです。だからこそ、最高裁は違憲判決を出して、行政機関、立法機関に警告したはずなのですが・・・。
ちなみに、明治時代の国籍法では、日本人と結婚した外国人にも自動的に日本国籍を与えていた程寛容な法律でした。また、旧国籍法(1950年6月末まで)でも、出生後の認知は認めていたのです。それが、どうゆう訳なのか、このような超保守的というか、超閉鎖的な法律に、いつの間にかすり替えられてしまったのです。
この私の記事をご理解頂けるような方であれば、是非ともご同業になって頂きたいと思います。お待ちしています。
私も、旧国籍法の存在も、そのときに合わせて知ったのですが、その寛容な法律が、どうしてそうなったのか、疑問に思いました。
あまりにも保守的というか、手前勝手な内容ですよね。。
勿体無い言葉ですよ。。ありがとうございます。
でも是非とも資格を取り、ご同業者となり役立ちたいです。ありがとうございます。
まずは目の前で困ってる人を救うことが先かなと。
法律には素人な自分でも現行法はもおかしいと思うでんすが、現場で働いてる行政書士さんのブログでも反対意見が多くて。
たいへん参考になりました。
コメントありがとうございました。
「日本人既婚者父からの認知が遅れたことで、日本国籍を得られないという、至って不合理で、非人道的で、かつ、罪のない子供達の権利を奪っている今の国籍法の規定を何とかしましょう!」という国内外の意見と、最高裁の違憲判決から始まった国籍法改正という当然に課せられた作業が、偽装認知という二次的問題にすり替えられて議論されている事を本当に残念に思います。
外国人の在留資格手続のプロとしては、偽装認知でメリットを受けるのは、その外国人母と、それに群がる日本人の悪党達ですから、当該外国人の入国審査基準の強化や偽装申請による入管法の罰則を強化すれば、問題はかなり改善できる筈なのですが・・・。
物事の本質を見ないで、派生的な本質以外の問題点での議論に終始しているという、今の現状に本当に残念に思う次第です。