試合終了後、ダージリン以下が挨拶にやってきた場面です。ダージリンが大洗の隊長の名前を尋ね、西住流姉妹の妹のほうだと知り、少し驚いて「随分まほさんとは違うのね」と言いました。
個人的に印象に残っている名シーンの一つです。このワンシーンから得られる情報がとても多かったからです。
まず、ダージリンは、西住流の姉とは顔見知りであるようです。ところが妹とはこれが初対面であったようで、名前を聞くまで分からなかった様子でした。「随分まほさんとは違うのね」のセリフからは、西住まほとも対戦経験があることがうかがえます。
ここで疑問に思ったのは、ダージリンが過去に西住まほ率いる黒森峰女学園と対戦した際に、当時の副隊長が西住みほではなかったのか、という事です。大洗へ転校してくる前の西住みほは黒森峰女学園の副隊長であったのですから、知らない筈はないだろう、と思うのです。現に生徒会三役は西住みほが転校してきた時点で情報を掴んでいましたし。
ですが、それよりももっと重要な情報がありました。西住みほは戦車道家元の出ですが、その試合ぶりは家の流派とは異なる、という事です。ベテランのダージリンが、姉とは随分違う、と評価していますから、その時は西住まほの戦い方というのに興味がわきましたが、要はひとつの流派の本家と分家のような関係なのだろうな、と漠然と推察するにとどまりました。
しかも、ダージリンはこの初の対戦で西住みほの真価を認めたようです。後にティーカップセットを贈呈していますが、そのことの意味は大きいのではないか、と感じました。初視聴時は初めての対戦相手でしかもベテラン、という程度の認識でしたが、その後のダージリンが事ある毎に色々と関わり、劇場版では大洗支援の旗振り役も務めていたことを考えますと、今回の出会いは非常に価値があったのだと思います。
おそらく、ダージリンは初の対戦試合を通じて、西住みほという存在に格別の意義と可能性とを感じ取ったのに違いありません。初戦の素人チームに思わぬ反撃を受けて動揺しティーカップを落とし、一度追い詰めたところで逃がして1対1のの対決に引きずりこまれた、という経緯は彼女にとって初めての経験だったのでしょう。
なんという手強い相手か、西住流の妹であるならば当然だが、しかし姉とは違う戦い方であった、あんなやり方も西住流にはあるのか、と。この西住みほという存在が、戦車道という世界に初めての変化と可能性をもたらしてくれるのかもしれない、それはそれで面白そうだ、と。
そのダージリンの気付きが、やがては他の対戦校の面々にも広がってゆくわけです。それによって戦車道という選択科目への共通認識までが少しずつ変わり、進化をとげてゆく・・・。ガルパンとは、そういう内容を基本軸としたアニメであるのだろう、と僅かながら感じた次第です。
それで、このアニメはますます面白い、早く続きが観たい、と来週の放送日を心待ちにしたものでした。
印象的だったのは、このシーンもそうでした。罰ゲームのあんこう踊りを、連帯責任だからと言って生徒会三役も共に演じるわけですが、それを言い出した生徒会長角谷杏というキャラクターの本質に驚かされたのでした。
それまでは単なる嫌な上級生、権力にものをいわせて転校してきたばかりの西住みほに無理矢理戦車道を選択させるべく圧力をかけるという、傲慢な生徒会長、というのが初印象だったのですが、この場面で一気に変わりました。
西住みほたちだけに嫌な事はさせない、巻き込んだのは自分である以上、責任は取る、というのです。なんと良い上級生ではないか、それで生徒会長ならば、小山柚子や河嶋桃の忠実振りも合わせると、かなり優秀な人なのではないか、と思えてきたのです。
後になって、その政治家ばりの優秀さが次第に明らかになってゆきますが、この時既に、こういうキャラクターが生徒会長を務める大洗女子学園だ、決して悪いようにはならないだろう、と感じました。
発足したばかりの戦車道チームにも、ちゃんと参加して38t戦車に乗り組んでいます。その点も、西住みほにとってはどこかで心強い要素であったかもしれません。
つまり、ガルパンというアニメの主舞台である大洗女子学園は、優秀なトップに恵まれているらしい、と思ったのでした。学校でも会社でも、トップが優秀な組織というのは下の連中が苦労する確率が低い傾向があり、幸福感は平均より高いそうです。
大洗女子学園は、これから必修選択科目の戦車道の試合では色々な事があるだろうけれど、生徒会長がしっかりしているので、安泰なのかもしれない、とちょっと安堵したのを覚えています。
印象に残ったキャラクターといえば、この冷泉麻子もそうです。初の練習試合で飛び入りの形でⅣ号戦車に収容され、初の被弾の衝撃で気絶した五十鈴華に代わって操縦を引き受け、華麗なる一発習得の技を鮮やかに示してⅣ号戦車を窮地から脱出せしめます。
幼馴染の武部沙織が「さすが学年主席」と感心しますが、それだけではないな、と思います。もともと操縦手に向いている人材だったのかもしれません。そうでなければ、聖グロリアーナ女学園との親善試合での機敏な動きが説明出来ません。
相手の射線を素早く察知して自車をずらし、スピードをつけた走りもきちんとこなして、加速の按配を誤って肴屋本店に突っ込むマチルダのようにはなりません。最後の撃滅戦でのⅣ号戦車の的確な機動も、この冷泉麻子の操縦あってのことでした。
最後の一騎打ちでは僅かに移動距離が及ばなかったものの、初の対戦試合でこの腕の上達ぶりは見事でした。西住みほも猛虎ですが、この冷泉麻子も猛虎なのかもしれない、と感じました。今後の対戦も、これで安心して観ていられる、と思いました。感激のあまり、それからあんこうチーム内では冷泉麻子のファンになったのでした。
反対に、「???」と思っていたのが、上掲のアッサムのシーンです。ダージリンの搭乗車チャーチルの砲手であることは、引き金をひくシーンで分かったのですが、相当な腕の持ち主のようです。隊長車の砲手を務めるぐらいですから、チームでは最優秀の砲手かもしれないな、と感じたのです。
聖グロリアーナ女学院がアニメに初めて登場した、河嶋桃からの試合申し込みの場面にてオレンジペコと共に出ているので、このアッサムも何かやってくれるのかな、と期待しました。
ところが、このシーンだけであとは試合が終わるまで出てこなかったのでした。あれ、あのキャラクターはどうなったんだ、と思っているうちに、試合後の隊長同士の初対面シーンでチラリと出てきたのみで終わってしまいました。
なんだ、ただのモブキャラクターだったのかと思いましたが、後に公式設定資料類にてダージリン以下のノーブルシスターズの一員だと知り、それなら重要なのかもしれない、と考えました。それでテレビシリーズの放送日ごとに、彼女の存在もチェックしていたのですが、最終回に至るまでセリフを聞くことが無かったのには驚きました。
彼女のセリフを初めて聞いたのは、随分後の事、劇場版のときでした。
あと、面白かったのがこの場面でした。親善試合で初の窮地に陥ってウサギさんチームが撃破された直後の各チームの動静ですが、このワンシーンで、各チームのメンバーの本質が見えてきた気がしたのでした。
まずは河嶋桃の激しい動揺ぶり。冷徹かつ有能な生徒会広報のクールビューティー、という初印象が一瞬で砕け散りました。それまでチームの結成から練習から試合申し込みに至るまで、そつなく仕切って不備も見当たらず、実質的には隊長みたいだなと思っていたのでしたが、いざ実戦となると、冷静さを見失うようです。
簡単にパニックに陥っているので、これは事務方としては優秀だが、現場の責任者には合わないのかもしれない、と思いました。砲手なのに、至近距離の砲撃も外すというポンコツぶりです。留年の危機に陥っても当然かもしれない、と思いますが、この河嶋桃が最終章シリーズで隊長を務めるとは夢にも思いませんでした。
続いて不安げな磯辺典子。緒戦で主に偵察および哨戒任務にあたることが多いですが、初の対戦試合ではまだそういった立ち位置にはありませんでした。相手の挟撃を受けていますが、ウサギさんチームほどには混乱していません。芯はしっかりしているようです。
ただ、何かと根性論に頼る傾向があるようで、単独で何かをやる、という動きにも乏しい感じでした。何か明確な支えが無いとどうにもならない、といったスタンスに感じられました。そのことは、西住みほの「もっとこそこそ作戦」の指示が入った時点からキビキビと動いていることからも分かりました。
それで、このチームは明確な指示があれば優秀な選手となる、という存在なのだろうな、と感じました。
そして、最も落ち着いていたのがエルヴィン。ドイツのロンメルをリスペクトしているようなので、格好もそのままです。戦車戦の最中にも冷静を保って静かに状況を見極めようとしています。ただのリスペクトではないな、と感じました。もともと冷静沈着な性格であるのでしょう。多少の事にはぐらつかない、強靭な精神がほのみえます。
なるほど、車長はカエサルだが、試合ではエルヴィンが指揮を執るのだな、まさにアフリカ軍団ロンメル元帥の勇姿を髣髴とさせるではないか、と感心していました。歴女ですから、ドイツ軍の戦車戦などの戦史にも詳しいのでしょう。
エルヴィンたちの搭乗車が、大洗女子学園チームの5輌のうちでは一番打撃力のあるⅢ号突撃砲であるのも大きかったです。この戦車がおそらくチームのキーパースンというか一つの要になるのだろう、そういう設定ならば、その指揮官はエルヴィンという、ロンメルばりのキャラクターであるほうが面白いからだろうな、と思いました。
事実、カバさんチームは、テレビシリーズを通して手堅く活動しており、その存在感は時には安心感にも繋がっていたのでした。
最後に、この秋山優花里の満面の笑顔。これはやっぱり外せませんね。根っからの戦車オタク、戦車が大好きで大好きで、夢にまで見た戦車道の選択もかなって、憧れの西住みほと知り合えて、その相手と同じⅣ号戦車に乗り組むことになるわけです。
彼女にとっては、人生最高の瞬間だった筈です。イヤッホオウゥゥゥ、最高だぜえぇぇぇっ!!のセリフにも本当に実感がこもっています。
自身にとって最高の立ち位置を得た彼女が、その能力を最大限に発揮するのは言うまでもありません。西住みほとほぼ同レベルで戦車の知識があり、戦車道試合に関わる諸情報に通じていて、西住みほと普通に戦車の会話が出来る唯一のキャラクターです。
実際の戦闘や試合における優秀なチームや強豪チームの共通項として、優秀な指揮官と優秀な補佐役が揃っている点が挙げられますが、まさに秋山優花里が補佐役のポジションにピッタリとあてはまっています。つまりは、大洗女子学園チームの参謀役です。こういう名参謀がついていれば、大洗女子学園チームは安泰だろう、と感じました。
例えると、帝国海軍の秋山真之みたいだな、と思いましたが、公式設定資料類をみると、秋山優花里の両親の氏名がまさにそれを元ネタとしているようです。 (了)