スノードロップは、今にも滴りそうな雪のしずくに似た純白の花を咲かせる植物です。「本来のスノードロップ」と言うか、英語でコモンスノードロップと呼ばれているのは南東ヨーロッパ原産のガランツス・ニヴァリスという植物ですが、15種ほどあるガランツス属の植物すべてを「スノードロップ」と総称することが多いようです。
日本で「スノードロップ」という名前で販売されている苗・球根は、多くが写真のガランツス・エルウィジーのもののようです。日本で普及している理由は、ほかのガランツス属の植物と比べて球根が比較的乾燥に強く、扱いが容易だからです。ガランツス・エルウィジーの花は、筒状に重なり合った内側の花弁の先端から付け根にかけて連なった(あるいは先端と付け根に分かれた)緑色の模様があるのが特徴です。さらに葉の付け根が反対側の葉の付け根を包み込むこと、全体に大型であるのも特徴で、ほかの種(しゅ)と区別することができます。なおコモンスノードロップ、ガランツス・ニヴァリスの場合は、内側の花弁の先端のみに緑色の模様があり、また葉の付け根が反対側の葉の付け根を包み込むことはありません。
先に書いた通り、入手しやすい苗や球根はガランツス・エルウィジーのもの。もし球根を入手したら、冬の間日がよく当たるような場所、落葉樹の根元などに植え付けてみましょう。もちろんプランター植えでも構いません。植え付け時期は9月~11月で、開花期は2~3月。花が終わった後は6月くらいまで葉を付けていますが、このころが球根に栄養を蓄える大切な時期です。日当たりのよい場所で管理しましょう。ガランツス属の植物の場合、休眠期にも球根を植えっぱなしにしておいた方がよいとされます(エルウィジーに限っては球根が乾燥に強いので、掘り上げて秋まで保存することも可能)。地植えにした場合は、2~3年に一度、株分けするために掘り上げるくらいで十分でしょう。
雪の化身のような花は古くから人の目を集めてきたのでしょう、スノードロップにはさまざまな言い伝えが残されています。いくつかを挙げてみましょう。いわく「アダムとイブがエデンの園から追放された時、雪が降りしきっていた。永遠に続くかと思われる冬に絶望して泣きじゃくるイブを慰めるため、天使がひとひらの雪に息を吹きかけた。それは地に落ちて春の兆しのスノードロップとなり、そして≪希望≫が生まれた」。スノードロップの花言葉は「希望、慰め」です。
またドイツの言い伝えでは、「雪にははじめ色がなく、花たちのもとを訪れて、色を分けてくれるように頼んだ。しかしどの花もそれを拒み、ただスノードロップだけが自分の花の色を分け与えた。雪はそれに感謝し、スノードロップに春一番の花を咲かせる栄光を約束した」。また、ロシアの詩人・劇作家のマルシャークによる童話劇『森は生きている』で、主人公の少女は継母に言い付けられ、咲いているはずもない大晦日にスノードロップの花を摘んでくるように言い付けられます。森の中で出会った12の月の精に助けられ少女は幸運をつかむのですが、これなどは「新年の前にスノードロップを見た者は幸福になる」という言い伝えを踏まえているのかもしれません。
スノードロップは、聖母の花としてキリスト教の聖燭祭(2月2日・聖母御潔めの祝日)には祭壇に撒かれ、純潔の象徴とされました。その一方でイギリスなどでは、「花の色が死装束を連想させる」ため死の象徴として嫌われることもあるようです。このために人に贈ってはいけないなどとも言われるので、気にする方に対してはご注意を。
ところで「スノードロップ」という名前ですが、一見、これには説明の必要もないようにも思われます。花弁が「雪のしずく(ドロップ)」そのもので、何のひねりもない名前のように思われるからです。ところが意外なことに、この説明は間違いのようです。この場合の「ドロップ」は「イヤードロップ(耳飾り)」の意味で、つまりスノードロップとは「雪の耳飾り」を意味する名前だったのです。学名のガランツスは、ギリシア語のgala(乳)とanthos(花)の合成語で、白い花を表現しています。なお余談ですが、英語のGalaxy(銀河系、天の川)という言葉はギリシア語のgalaと関係があります。古代ギリシアでは、女神・ヘラの乳房からほとばしった乳によって生まれたとして、天の川のことをガラクシアス(乳の川)と呼びましたが、それが変化して英語のGalaxyになったというわけです(「天の川」の英語の別名Milky Wayは、まさにガラクシアスの直訳です)。