日々の恐怖 8月3日 クリニック(2)
ですが次の日の朝、朝食を済ませたあとに私も同じものを見たのです。
少しぽっちゃりとした、とても可愛らしい女の子、2歳くらいでしょうか。
栗の木のかげをちょろちょろと走り回っていました。
私が足を引きずって(産後、腰が痛かったのです)窓に近づくと、女の子の姿は見えなくなってしまいました。
私は、
“ 地元の子供が、山の林づたいに遊びに来たのかしら?
でも、こんな朝早くにたった一人なんて・・・。
妙だなあ・・・?”、
と思いました。
それから私は順調に体が回復していったのですが、子供の体調が良くなく、用心のためとして私達は少し長く病院に引き留められました。
入院というのは長引くと暇なものです。
することもないのでなんとなく窓の外を眺めていると、外で動くものがあります。
それはたいていはリスでしたが、例の女の子の場合も何度かありました。
窓ガラスは開けられないので、私は彼女に話しかけることはできません。
親御さんが心配していないのかな、と少し気にはかかっていました。
子供の体調も改善し、もう数日で退院となった頃でした。
夜、子供を抱いて授乳していると、私は妙な感覚をおぼえました。
“ 誰かが私を見ている?”
そんな視線を感じたのです。
それにしても、個室には私と子供の2人きりです。
窓には厚いカーテンが閉まっています。
私は、
“ 変だな・・・。”
と思いつつ過ごしていたのですが、その後も2晩に渡って見られているという気がしていました。
ついに退院の朝、手続きを済ませて、顔見知りになった年配のナースさんに挨拶をしました。
その際にようやく、
「 朝早くに庭へ遊びに来ている女の子、あれは地元の子なんでしょうね。」
と話題を振りました。
するとナースさんは笑顔で、
「 そうね、近所の子が遊びに来ているのね。」
と言いました。
そしてクリニックを出発しようとした直前、私はベッドの下にサンダルを置き忘れたことに気が付き、駐車場に夫と子供を待たせて一人取りに行ったのです。
すると、清掃の係の方と年配のナースが話している所に通りかかりました。
「 あの部屋、また出たって。
この病院で生まれた子じゃないから大丈夫だと思っていたけど、やっぱりダメだったのね。どうしてもお母さんのことが忘れられなくて、それでまた探しに来ているんだわ。」
部分的に聞いても悲しい顛末について、詳細を問う勇気はありませんでした。
サンダルを見つけて、私はできるだけ足早にクリニックから車に乗り込みました。
あのクリニックで、何があったのでしょうかね。
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