日々の恐怖 3月6日 眼球3
休みが終わり、また働けるようになっていました。
スランプ中に二社失いましたが、三社開拓してほぼ同額の契約とりつけました。
カムバックパーティを開いてもらえて、新人にも尊敬してるっていわれて、すごく嬉しかった。
でも、そのときふと、会場のカーテンの裏に黒いものが見えたんです。
見間違えかなと思っているとふっと消えてしまいました。
“ 何だったんだろう?”
そう思っていると、突然、目の前を目玉が横切ったんです。
「 ぎゃっ!」
って叫んで、わたしはその場に倒れました。
そしてみんなに助けを求めようとしたんです。
でもね、みんな怪訝そうにしてるんですよ。
私を見て、首をかしげる人もいたかもしれない。
“ 見えたのは自分だけなんだ・・・・。”
そう強く確信したことだけは確かです。
「 こ、腰が突然いたくなって。
前にも筋膜炎やったことがあるから・・・。」
こんなふうに、その場は誤魔化したと思います。
でも、この幻覚は段々とひどくなっていきました。
他社製品とのディファレンスのアピール中。
信頼できる人間を演ずるべく、堂々と構えてなくてはいけない時。
そう言うときにかぎって、視界のすみに黒いものが映ります。
そして、目の前に血管の浮いた眼球が突然あらわれるんです。
事前に、黒いものが見えたときに奥歯をかみ締めて必死に堪えて足を踏ん張るんです。
挙動不審にみられることもありました。
それがもとで契約できなかったっていうことはありませんでしたが、集中力自体を欠くようになると、段々と成績が落ちてきました。
わたしは幻覚の原因は、単に疲れから来るものだとずっと思っていました。
医者にも密かに掛かりました。
薬を飲み、治療をしてもらいました。
でも、良くはならないんです。
医者は何度も薬を変えました。
しかし、良くはならないんです。
「 もうそろそろ、効き目が現れる頃だけど・・・。」
そう医者に言われたとき、
“ なんか、変だ・・・。”
と思いました。
そして、徐々に、
“ ひょっとしたら、これは単にメンタル的なものではないかも知れないぞ。”
そう思うようになってきました。
そんなとき、思い出したんです、
彼女に、
「 疲れてる?」
って言われた言葉を。
わたしは、ハッとしました。
“ 彼女に言われたのは、
「 疲れてる?」
じゃなくって、
「 憑かれてる?」
かも知れない。”
それで気になって、先輩に、
「 彼女のクラブに行っていいですか?」
と聞きました。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ