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なんじゃもんじゃ物語 1-5 占い師シミコ

2006-06-26 09:55:30 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 1-5 占い師シミコ


なんじゃもんじゃ物語 18

 お日様は、もう海の彼方に沈み、かわりにお月様がホイ大臣たちの行方を照らしていました。
鼻を垂らしながら、先頭を歩いていた男が、人差し指をさして言いました。

「 大臣、あそこに明かりが見えます、えへへ。」
「 あれがそうに違いない、ものども急げ!」

山賊になったような気分で、21人は答えました。

「 おーっ!!」

 月の光に青白く照らされたシミコの小屋の破れ目から、ちろちろと赤い火が見えました。
シュッ、シュッと何かを磨く音が聞こえて来ます。
小屋の中から、うめき声が聞こえて来ました。

「 う~、う~っ、あ~、あう、はあ、はあ。」

みんな気味が悪くなって、しり込みが始まりました。

「 おい、お前、入れよ。」
「 やだよ、お前こそ入れよ。」
「 俺は、だめだ。
シミコの家に絶対入るなと言う死んだおじいちゃんの遺言があるからなぁ。」
「 お前、この前言った遺言と違うじゃないか。」
「 うるさい、おじいちゃんは2回死んだんだ。
それより、シミコの所へ行こうと言い出した人が先頭に入ればいいじゃないか。」

みんなの視線が、いっせいにホイ大臣の方へ向きました。

「 わしは、今日はちょっと耳鳴りと頭痛がして。」
「 さっきまで、ホイ大臣元気だったじゃないですか。」
「 わしは、今日は、とにかく都合が、悪いんじゃ。」
「 だめ!!」

しかたなく、ホイ大臣は、シミコの小屋に近付いて行って、おそるおそる戸を開けました。
戸は、引っ張るとギーと言う音と共に開きました。
中を覗き込んだホイ大臣は、叫びました。

「 わーーーっ!!!!」

その声を聞いた21人は、クモの子を散らすように逃げてしまいました。




なんじゃもんじゃ物語 19

一人取り残されたホイ大臣は、戸口の所にしゃがみ込んでしまいました。

「 大臣様、大臣様。」

枯れて葉のなくなった小枝を擦りあわせた様なしわがれ声が聞こえて、ホイ大臣は、震える指と指のわずかな隙間から前に立っている物体を見上げました。
雪のように真っ白な髪が肩のあたりまで伸びて顔が隠され、所々破れた着物が青白い手を印象的にしていました。

「 大臣様、どうぞお入りくださいでございますじゃ。」

長く伸びた白髪を両手で暖簾のように左右にかき分け、人間の顔の道具は全て揃っているのだが、その一つ一つの相関関係があまりにも無造作に作ってある顔がのぞいていました。
ホイ大臣は、気味の悪い気持ちのまま勇気を出して言いました。

「 お、お前がシミコか?」
「 はい、大臣様。
あなたが今日ここに来る事は、朝の占いに出ておりましたんじゃ。
何を聞きに来たのかも、分かっておりますじゃ。」

まともな会話をしていることが分かり、ホイ大臣は気を取り直しました。

「 そ、それじゃ、入ろう。
しかし、さっきの、あー、あうーと言う声は、一体なんだ?」
「 はあ、それはですじゃ。
昨日、ニーポン国から物質電送機で取り寄せたインスタントラーメンを食べまして、何だかお腹の調子が悪いんですじゃ。
今も、ちょっと苦しいんですじゃ。
ああ、お腹の中でラーメンが暴れている。
うわー、トイレ、トイレじゃ。」

シミコは、小屋の裏に走って行きました。
ホイ大臣は、少し残っていた恐怖心をもう取り除いていました。

「 ふー、驚いた。
それにしても世にも奇怪な顔をしとるな。
フランケンシュタインと雪男と狼男を足して3.5で割ったような顔をしとる。
しかし、割と人の良さそうな男、いや女かな、シミコと言うから女のような気もするが。
まあいい、小屋の中に入ってみよう。」




なんじゃもんじゃ物語 20

小屋の真ん中には、なんじゃ島では何処の家に行ってもあるようないろりがありました。
しかし、その他のものは変わっています。
スイッチの付いた同じような四角い箱が沢山積み上げてあるのですが、どれも一つ一つ少しづつ違い一風変わった調和をなしていました。
小屋の中を珍しげに眺めていると、シミコが戻ってきました。

「 はー、少し治まったですじゃ。
それじゃ、大臣様、占いにとりかかりますじゃ。」

シミコは、腹をおさえヨタヨタといろりの側へ行ってぺたっと座りました。

「 大臣様、早くお座りなされ。」

ホイ大臣は、シミコと反対側に座りました。

「 占いをする準備に取り掛かりますじゃ。
今日は、1970年代バージョンで呼び寄せますじゃ。」

シミコは、ボタンだらけの四角い箱を取り出して一番上の左端のボタンを押しました。
いろりを中心に小屋が五倍に広がりました。
ホイ大臣は、空間が広がった事に眼を丸くしました。
次に、二番目のボタンを押しました。
デユーンと言う音がして、今まで何もなかった空間に、うっすらと人影らしいものが現れました。
1人や2人ではありません。
10数人ほどだったでしょうか。
霧が晴れて来るように、徐々にはっきりしてきました。
どの人間も1970年代に流行ったヒッピーらしい様相でした。
中心には、ギターを持った男やボンゴをかかえた男などが五人のグループを作っていました。
バンドの他にいる男や女は、現れるやいなや、床にへたり込んでしまい、口を半開きにして、トロンとした眼で天井を眺めていました。
その中で、顔中髭だらけの男が、よろよろと立ち上がりシミコに言いました。

「 やあ、シミコ、今日もやるのか。」
「 ああ、そうじゃ、マイダーリン。」

シミコは、並びの悪い黄色い歯を薄い唇の間からちらつかせて、ニヤッと笑いました。





なんじゃもんじゃ物語 21

「 ほんじゃー、行くか。
ワンツゥ~の Break out!!]

その声を合図にバンドの演奏がいっせいに始まりました。
山小屋をバラバラにしそうな程のビートのきいたベースギターは単調なそれでいて人間の意志を全て無視して、体がムズムズ動き出すようなリズムを奏で、ドラムの規則正しいインパクトのあるパッションは、天にもとどきそうなリードギターのシャープな響きとあいまって、なんじゃ島にはかつて無かったような別天地をつくりあげました。
次にシミコは、三番目のボタンを押しました。
床以外の部屋のまわりの全ての平面がスクリーンと化し、天井のコーナーにある色とりどりのライトが点滅を始めました。
天井には、無限に広がる星空がうつり、左右の壁には怪しい男女の影、前後の壁には、鏡の様に部屋の中の人物をうつし出しているのですが、その人物自身の動きとまったく違う動きをしていたのです。
さらに、シミコは、四番目のボタンを押しました。
天井の星は、無限の距離を持って遠ざかり、前後左右の壁の人影は立体的に見えるようになり、壁という概念が破壊され、遠くの方から走って来るもう一人の自分とぶつかりそうな感覚を膚に受けるほどになったのです。
部屋の中では、先程までうつろな眼差しをしていたどの目玉も、異様な光を放ち、一人、また一人と体を起こし、激しい音圧によって身をうたれ体をよじり、男も女も、また、シミコ自身もその長い白髪を振り乱し踊り始めました。
彼らの体に染み込んだ大麻タバコと異様な服から発せられる色の刺激と臭いと音楽が、あたり一面渦をまいて取り囲んでいました。
次にシミコは、いろり横の小箱から白い粉末の入っているビンを取り出し、紫色をした酒らしいものにぶち込んで飲み始め、踊っている者はそれを引ったくるように取って飲みました。

「 おい、大臣、飲めよ。」

顔中髭だらけの男が、隅の方にしゃがみ込んでいるホイ大臣に言いました。





なんじゃもんじゃ物語 22

ホイ大臣は、質問しました。

「 そんなの飲んで、死んでしまわないか?」

近付いて来た妖艶な女が、ラテンリズムに乗りながら言いました。

「 ちょっと気持ちがよくなるだけジャン。
とってもハッピーになりらりらん。」
「 よし、飲むぞ。
最近、ストレス溜まってるからなあ。」

ホイ大臣は、ぐっと一気に紫色の液体を飲み干しました。
甘いような辛いような刺激を舌に受けました。
しばらくすると、口の中と喉が溶鉱炉となって、胃のあたりから熱いものが徐々に上に登ってきました。
効いてきました、効いてきました。
ホイ大臣は、だんだん気持ちが良くなってきました。
なんじゃ王の人使いの荒さとクビ宣言に、毎日悩まされていたホイ大臣の精神が解き放されました。
今まで、隅の方にへたばっていたホイ大臣が、よろよろと立ち上がり両手を高々と上げVサインを掲げながら言いました。

「 こらー、お前らあ、わしを誰だと思ってんじゃ。
ホイ大臣様じゃぞー。
我々はー、断固戦うじょー。
ふむらむりな、分かったかー、お前ええ―。
何時も何時も、クビだ、クビだ、と言いやがって、あのなんじゃ馬鹿王め。
くそー、くそー、あほんだらあー。
ぼけー、ぼけー。」

ホイ大臣は、バンドのリズムにあわせて体がのりはじめました。
言葉が音楽に乗っかり始めました。

「 うわー、綺麗な天の川が見えてきた。
すうげえーーーー。
すうううげえーーーー。
ん、ん、ん、ん。
だー、だー、だー、ん。
わしが折角、ん、ん。
アラビアンナイトのハーレムを作ろうと言ったのにい。
あの馬鹿野郎、ボス、ん、バカボス。
絨毯作っちゃ、だめ、だめ。
絨毯じゃないでしょー、ボス、ボス。
馬鹿野郎、それは無いでしょう、ボス、ボス。
勘違いだよ、ボス、ボス。
とっても困って、ボス、ボス。
いえいー。
これだけが楽しみだったんだよ、ねえ、ねえ。
分かってくれよー、ねえ、ボス。
クソしてねろよ、ボス、ボス。
あー、あー、あー、ハーレム。
とっても、とってもハーレム。
へそかんで、くたばれ、ボス、ボス。
わあー、綺麗なねーちゃん、来る、来る。
わしの頭も、クル、クル。
こっちへおいでよ、来い、来い。」

ホイ大臣の体は、スイングしておりました。
踊り狂っている連中は、口々に叫びました。

「 よー、大臣、すげーじゃんよー。
話せるじゃねーかよー。」
「 仲間じゃんかよー。」
「 一緒に、やろうぜえー。」

さらに、追加の紫色の液体がまわし飲みされました。
ホイ大臣は、すっかり出来上がってしまいました。

「 わー、綺麗なねーちゃん。」

ホイ大臣は、綺麗なねーちゃんの方へ走って行きました。

ガツン!!

ホイ大臣は、壁にぶつかってしまいました。
それが、壁に映っている映像であることを理解していなかったのです。

「 うーん。」

ホイ大臣は、口から泡をふいて倒れてしまいました。




なんじゃもんじゃ物語 23

音楽は、まだまだ続いています。
さらに激しく、さらに強烈に、大地を破壊し、地球を壊滅させ、宇宙に存在する全ての物質を揺るがすように鳴り響いています。
より多くの紫の酒を飲んだ彼らは、自己の存在を実感し、彼らの言う、彼ら自身の崇高な悟りの境地へと導かれて行ったのです。
延々、数時間の狂気と混乱の時の流れの後、いよいよクライマックスが近付いてきました。
彼らは、口々にThe Fifth Dimension の Let The Sunshine In をある者は口ずさみ、ある者は狂ったように叫びました。
シミコも同じように叫んでいました。
シミコが、体をよじりながら足を踏ん張ってさらに大きく叫んだ時です。

「レット、ザ、サンシャイン、レット、……・・、あっ、あっ、きたー、きたー、きたー。
うわー。」

そうです、シミコは、インスタントラーメンで腹をこわしていたのです。
きたー、きたー、と叫びながら山小屋の裏のトイレに行こうと出口を探して部屋の中を走り回りました。
でも、周りはみんなスクリーンになっていて、出口が分かりません。
走り回っているうちに、倒れているホイ大臣の顔をぐちゃっと踏みつけました。
はっと、ホイ大臣は気が付きました。

「 なに、なにー、北、北だと。
そうか、北か、北から攻めればいいんだな。
神のお告げはくだった。
早く王宮に帰らねば。」

ホイ大臣は、壁にぶつかりながらも、やっと出口を見つけシミコの小屋から飛び出したのでした。





なんじゃもんじゃ物語 24

ホイ大臣は、王宮への帰り道、だんだんと薬が切れてきてはっきりし始めた頭で考えました。

「 家来は、みんな逃げてしまいよるし、帰ったら、お仕置きだ、ブツ、ブツ。
それにしても、とんでもない奴等だった。
さっきの不思議な現象は、いったい何だったんだろう。
シミコは、物質電送機とか言っていたな。
そうか、人間が急に現れたのは、それだな。
70年代とも言っていたぞ。
過去の人間も呼び出せるのかな。
くそっ、道が分からん。
物質電送機だったら、王宮まで電送してくれと言えばよかったな。
いや、まてまて。
一秒もあんな所にいるのはこりごりだ。
しかし、あれが一台あればいいなあ。
いや、まてよ。
そうだ、思い出した。
二年前、ホンジャ大学から物質電送機や他の機械が、倉庫ごと盗まれた記事がかわら版に載っていたぞ。
迷宮入りしたが、きっとあれに違いない。
さすが、我が国が誇るワールシュタットヒンデンヅルグ教授、わしにもあんなのを作ってもらおう。
たいがい、予定の物じゃ無い物を作ってしまうので、蝿叩きとかを依頼しておけば、もっと凄い物を作ってくれるぞ。
あっ、あの召使は、何処へ行ったのだ。
帰ったら今度こそ、飛び膝蹴りを食らわせてやるぞ。
それにしても、最後に出てきた女の子は好みだったのに惜しい事をしたな。」

王宮に戻ったホイ大臣は、いよいよ総攻撃の号令を発するべく、例の塔の上へ駆け上りました。
そして、大声で叫びました。

「 ゼイゼイ。
全なんじゃ国民に告ぐ。明日の日の出とともに、我々は、我々の、進歩を勝ち取るため、ホンジャ島の北側より総攻撃を開始するうー。
うにゃー、ふにゃー。」

ホイ大臣は、塔の上で寝込んでしまいました。
薬の副作用が現れてきたのです。
空には、この一部始終をみていた満月が浮かんでいました。
そして、なんじゃ王国の夜は、静かにふけていきました。




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