なんじゃもんじゃ物語 1-3 なんじゃ王子
なんじゃもんじゃ物語10
(なんじゃ王国王宮)
なんじゃ島では、戦争再開を大臣が発令してから4時間たっても、誰一人として王宮の前の広場に再び姿を現しませんでした。
ホイ大臣は、イライラしていました。
「 もう4時間と13分経ったぞ。
誰も来ないじゃないか。
どうなっちょるんやんけ。
そこの召使、ちょっと見て来い。」
さらに時間は、経過しました。
真っ赤に燃えた夕日が、ホンジャ島の中北部にあるホンジャ山に沈みかけていました。
ホイ大臣は、怒りを込めて、また、ぼやきました。
「 もう、戦を始めると言って、半日も経つんだぞ。
ああ、それなのに、それなのに、なんたること。
兵隊は、一人もやって来ない。
兵隊を呼びにやった召使までも、帰ってこんじゃないか。
あいつ、またさぼっとるな。
この前も、夕食にわしの大好物のマグロの刺身を食おうと思って、あいつを買いにやったんだ。
そしたら、次の日の夕方頃帰って来よった。
おかげで、マグロの刺身が、柿のへたみたいになっとったぞ。
あの時は、許してやったが、今度はそうはいかんぞ。
わしがまだ若かった頃、タイに留学していた時に覚えたムエタイの強烈な飛び膝蹴りを食らわしてやるぞ。」
ホイ大臣は、召使が帰って来たときのリハーサルとして近くに置いてあった鉢植えのタコの木に向かって、エイヤッと飛び掛りました。
ガサガサ、ヒュー、ガシャン、ベタ。
ホイ大臣は、飛び上がろうとしたのですが、腹が邪魔をして足が上がりませんでした。
そして、タコの木に真正面から激突したのです。
植木鉢をひっくり返し、勢い余って植木鉢の後ろの壁にぶち当たりました。
さらに、当たった反動で、床にひっくり返り、踏まれたカエルのようにへたばってしまいました。
「 やばい。」
ホイ大臣は、起き上がって、植えてあったタコの木と、木っ端微塵に散らばった植木鉢のかけらと、中に入っていた土を拾いながら言いました。
「 ちょっと、目測を誤ったな。
王様に見つかると、また、クビだと言われるから、早く接着剤で貼ってしまわねば。」
なんじゃもんじゃ物語11
ホイ大臣が植木罰の修理を急いでいるところへ、なんじゃ王の唯一の跡継ぎである、なんじゃじゅにあ王子が入ってきました。
「 見いちゃった、見いちゃった、お父ちゃんに言ってやろ。」
「 あ、これは王子様、どうかご内緒に。」
「 じゃ、お城の外へ連れてってよ。
連れてってくれなきゃ、言っちゃうから。」
「 そ、そればかりはなりません。
なんじゃ王から、何回も言われています。
絶対に、天地がひっくり返ろうが、キリンが空を飛ぼうがだめです。
そんなことをしたら、完全にクビになってしまいます。」
「 じゃ、言っちゃうから。」
王子は、王室の方へ走っていきました。
なんじゃ王には、王子が一人おりました。
なんじゃ王は、非常な晩婚で43才の時、初めて島の漁師の娘と恋愛し、25才という年の開きを跳ね除けて結婚しました。
そして、后は、数年間の楽しい生活の後、一人の王子と引き換えに天に召されて行ったのです。
なんじゃ王はもちろん、なんじゃ国民、ほんじゃ島民、遠くはもんじゃ島の端に住んでいるオランウータンまで、深い悲しみに陥りました。
その中で、なんじゃ王は誓いました。
「 后よ、天から見ておいてくれ。
わしは、きっとこの子を立派な王に育て上げるぞ。」
そして、なんじゃ王は、生後4日目から、ほんじゃ大学の学生をアルバイトに雇って王子に教育をしたのでした。
なんじゃ王の家系は、代々賢い人が多かったのですが、王子もその例に漏れず、いや、その例以上に聡明でした。
王子の特徴は、頭が非常に大きかった事が上げられます。
だから、よくコロンコロンと床に転びました。
なんじゃ王は、たいそう心配して、お城の床という床をすべて分厚い絨毯をひかせ、庭には、柔らかい芝を一面に植えました。
なんじゃもんじゃ物語 12
聡明な王子は、一才のとき言葉を流暢に喋りました。
二才のときは、なんじゃ王国、もんじゃ王国の共通言語であるホモホモ文字を何の苦も無く覚え、右手などはいざ知らず左手、はては足で書くまで上達したのです。
もう、ホンジャ大学文学部国文科のアルバイト学生は、教える事が無くなり、その明晰な頭脳にもかかわらず、二才の子供に自分の専門分野である国文の知識を全て吸収されたので、職を辞しすごすごと大学へ戻っていきました。
なんじゃ王が、王子の二才の誕生日のお祝いに絵本を渡したとき、王子は言いました。
「 僕、絵本より三島由起夫の本がいいや。」
この言葉に、なんじゃ王はひどく驚き、また喜びもしたのでした。
三才のときは、漢文を習得しました。
「 夫天地者万物之逆旅、光陰者百代之過客。
而浮生若夢、為歓幾何。
古人乗燭夜遊、良有以也。
況陽春召我以煙景、大塊仮我以文章。
そうか、人生はもっと楽しく生きるべきものなのかな。
ええと、こっちの本は、何、何?
死諸葛走生仲達。
難しいな。
まず、諸葛と言う男が死んだんだな。
仲達は、葬儀屋に違いない。
だから、誰よりも先に注文を取ろうと諸葛の家へ走ったんだ。」
なんじゃもんじゃ物語 13
王子が五才になったときは、天文学、数学、物理学、化学、生物学、法学、経済学、哲学、歴史学、ものまね学まで学びました。
中でも、ものまね学の分野においては抜群の成績を修め、その中でも特にベンジョムシのものまねが非常に御上手でありました。
このものまね学は、王家にとっては非常に重要な学問で、革命などが起こった時、逃げ延びるために、あらゆる物に化けられるようになっておかなくてはなりません。
だから、もう数える事ができないほど昔から王家の学問として習われてきたのです。
今のなんじゃ王は、ゾウリムシのまねが、ことのほかうまく20年前に起こった革命の時などは、誰一人としてころがっているゾウリムシがなんじゃ王だとは思いませんでした。
その時の様子は、今も記録に残っています。
革命軍の兵士が叫びました。
「 なんじゃ王は、何処だ。」
なんじゃ王は、王室の床に転がって、手足を縮めてぶつぶつ言いました。
「 ゾウリムシ、ゾウリムシ。」
それを見た革命軍兵士は言いました。
「 なんだ、ゾウリムシか。
他の部屋を探せ。」
革命軍のボスが叫びました。
「 なんじゃ王を早く捕まえろ。」
それに答えて兵士は言いました。
「 まだ、見つかっておりません。
王宮には、ゾウリムシが一匹いるだけです。
もう少し御待ちください、必ずや吉報を持ってまいります。」
なんじゃ王は、二日間の間、夜も昼も、ゾウリムシ、ゾウリムシと城の中をウロウロしていました。
もう二日目には、くたくたに疲れておりましたが、いまにきっと王党軍が助けてくれると信じて頑張ったのです。
二日目の夜が明ける頃、お城の西にワーっと言う声が上がりました。
そうです、ついに王党軍がやってきたのです。
王党軍は、あっという間に、革命軍を鎮圧して王宮に入っていきました。
すでに革命軍は、四散して王宮は静まり返っておりました。
その静けさの中をどんどん進んで大広間に入りますと、何処からともなく、ゾウリムシ、ゾウリムシ、ムニャ、ムニャ、と言う声が聞こえてきました。
調べますと、大広間のタコの木の横で仰向けに倒れているなんじゃ王を発見したのです。
ここで、ムニャ、ムニャとなんじゃ王が言ってなかったら、見つからなかった所です。
そして、その日のうちになんじゃ王は、再び王座に座りました。
なんじゃもんじゃ物語 14
このように、大切なものまね学が得意である王子を、なんじゃ王は頼もしく感じておりました。
だからことあるごとに、なんじゃ王は王子に言いました。
「 お前の得意なベンジョムシの術をやってくれ。」
王子は、ぽっちゃりと太った体を丸込ませて、ベンジョムシ、ベンジョムシとなんじゃ王に見せたので、ますます上手くなっていきました。
そして、この術が王子の18番となりました。
さて、このベンジョムシなのですが、王子がそれを始めて見た場所は、お城の北の端の庭だったのです。
その日、王子は北の庭を散歩していました。
青々とした空に真っ白な雲がふんわりと浮かび、お日様の光りが王子の背中を柔らかく包んでいました。
「 本当に、今日は気分のいい日だなあ。」
肺の中をすみからすみまできれいにするような、清々しい空気を胸一杯吸い込み王子はつぶやきました。
そして、空を見上げました。
その時、王子はバランスを崩しコロンとひっくり返りました。
ひっくり返った王子は、柔らかい芝生の絨毯にふんわりと包まれ、ふと左を見ました。
すると、アルマジロを上下左右から圧縮して手足をいっぱい付けた変な虫が、王子の背中から逃げようと手足をばたつかせているのが見えたのです。
「 むっ、これは確かベンジョムシ、我が国のなんじゃ大百科全集に載っていたのを覚えているぞ。
別名ダンゴムシとか言ったな。触るとダンゴみたいに真ん丸になるとかいてあったけど本当かな。
試してみよう。」
好奇心の強い王子は、人差し指で突付いてみました。
驚いたのは、ベンジョムシ君です。
くるくるっとまるこまって、じっとしていました。
王子は、じっと見ていました。
一分たち、二分たち、三分たった頃、ベンジョムシ君は、もういいかと体を伸ばして早くこんな危ない所から逃げようとしました。
王子は、また突付きました。
ベンジョムシは、また驚いてまるこまりました。
一分たち、二分たち、ベンジョムシ君は、もういいかと体を伸ばし始めました。
また、王子は突付きました。
一分がたちました。
ベンジョムシ君は、疲れた感じで体を伸ばし始めました。
王子は、しつこく突付きました。
ベンジョムシ君は、疲れたにも関わらず我慢して、まるこまりました。
30秒がたちました。
ベンジョムシ君は、あほらしくなって体を伸ばしました。
王子は、それでも突付いてみたのです。
今度は、何回触ってもまるこまりませんでした。
ベンジョムシは、悔しかったらお前まるこまってみろと、じっとしていました。
その時、王子は初めて自分の体をまるこませました。
ベンジョムシは、これはチャンスとばかりに、たくさんある足をもつれさせないように逃げていきました。
王子が、顔を上げた時は、もうベンジョムシはいませんでした。
その一部始終を見ていた、ものまね学のワールシュタットヒンデンブルグノーベル教授が絶賛したことに気を良くして、それ以来ずっと得意技として王子は磨いてきたのです。
なんじゃもんじゃ物語 15
そんな王子が、12才を迎えた時、異変が起こりました。
なんじゃ王が、王子の12才の誕生パーテイ―を盛大に開いた時の出来事です。
なんじゃ国はもちろん、もんじゃ国、ホンジャ島の貴族、知識人から平民に至るまで、ありとあらゆる人をお城の大広間に招き、色々な国の豪華な料理から珍酒まで振るまったのです。
この席で、王子は珍酒をがぶ飲みし、パーテイーが終わって部屋へ帰る途中、階段を踏み外しました。
がらがらどすんと言う大きな音に隠れて、聞こえるか聞こえないか分からないほどの小さな歯車が転がる音が、コロンとしたのです。
その音がした直後、王子は、ものまね学以外の学問は忘れてしまいました。
医者は、一時的な記憶喪失だから、だんだんと記憶は戻ってきますと言いましたが、なんじゃ王は心配でたまりません。
なんじゃ王は、これまでも王子をお城からださなかったのに、さらに強く王子がお城から出る事を固く禁じたのです。
王子は、お城で一番高い塔の上から、お城の外を眺めました。
東に見える青々とした海、西に見える小さなナンジャ山をぐっと押さえつけて上から覗き込んでいる背の高いホンジャ山、南の方には町に続く一本道が、ナンジャ山の中腹にあるお城から遠く下の方へのびていました。
その道の終点にある町では、蟻を十分の一に縮めた様な人がうごめいているのが見えました。
お城に続く一本道の利用者は、ホイ大臣とお城に勤めている2人の男の召使、それにお城の修理にやって来る大工たちのみで、エッチラオッチラ道を上ってきては、夕方頃帰っていく彼らを見ながら、王子は外に出てみたいなあ、と何時もつぶやいていたのでした。
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なんじゃもんじゃ物語10
(なんじゃ王国王宮)
なんじゃ島では、戦争再開を大臣が発令してから4時間たっても、誰一人として王宮の前の広場に再び姿を現しませんでした。
ホイ大臣は、イライラしていました。
「 もう4時間と13分経ったぞ。
誰も来ないじゃないか。
どうなっちょるんやんけ。
そこの召使、ちょっと見て来い。」
さらに時間は、経過しました。
真っ赤に燃えた夕日が、ホンジャ島の中北部にあるホンジャ山に沈みかけていました。
ホイ大臣は、怒りを込めて、また、ぼやきました。
「 もう、戦を始めると言って、半日も経つんだぞ。
ああ、それなのに、それなのに、なんたること。
兵隊は、一人もやって来ない。
兵隊を呼びにやった召使までも、帰ってこんじゃないか。
あいつ、またさぼっとるな。
この前も、夕食にわしの大好物のマグロの刺身を食おうと思って、あいつを買いにやったんだ。
そしたら、次の日の夕方頃帰って来よった。
おかげで、マグロの刺身が、柿のへたみたいになっとったぞ。
あの時は、許してやったが、今度はそうはいかんぞ。
わしがまだ若かった頃、タイに留学していた時に覚えたムエタイの強烈な飛び膝蹴りを食らわしてやるぞ。」
ホイ大臣は、召使が帰って来たときのリハーサルとして近くに置いてあった鉢植えのタコの木に向かって、エイヤッと飛び掛りました。
ガサガサ、ヒュー、ガシャン、ベタ。
ホイ大臣は、飛び上がろうとしたのですが、腹が邪魔をして足が上がりませんでした。
そして、タコの木に真正面から激突したのです。
植木鉢をひっくり返し、勢い余って植木鉢の後ろの壁にぶち当たりました。
さらに、当たった反動で、床にひっくり返り、踏まれたカエルのようにへたばってしまいました。
「 やばい。」
ホイ大臣は、起き上がって、植えてあったタコの木と、木っ端微塵に散らばった植木鉢のかけらと、中に入っていた土を拾いながら言いました。
「 ちょっと、目測を誤ったな。
王様に見つかると、また、クビだと言われるから、早く接着剤で貼ってしまわねば。」
なんじゃもんじゃ物語11
ホイ大臣が植木罰の修理を急いでいるところへ、なんじゃ王の唯一の跡継ぎである、なんじゃじゅにあ王子が入ってきました。
「 見いちゃった、見いちゃった、お父ちゃんに言ってやろ。」
「 あ、これは王子様、どうかご内緒に。」
「 じゃ、お城の外へ連れてってよ。
連れてってくれなきゃ、言っちゃうから。」
「 そ、そればかりはなりません。
なんじゃ王から、何回も言われています。
絶対に、天地がひっくり返ろうが、キリンが空を飛ぼうがだめです。
そんなことをしたら、完全にクビになってしまいます。」
「 じゃ、言っちゃうから。」
王子は、王室の方へ走っていきました。
なんじゃ王には、王子が一人おりました。
なんじゃ王は、非常な晩婚で43才の時、初めて島の漁師の娘と恋愛し、25才という年の開きを跳ね除けて結婚しました。
そして、后は、数年間の楽しい生活の後、一人の王子と引き換えに天に召されて行ったのです。
なんじゃ王はもちろん、なんじゃ国民、ほんじゃ島民、遠くはもんじゃ島の端に住んでいるオランウータンまで、深い悲しみに陥りました。
その中で、なんじゃ王は誓いました。
「 后よ、天から見ておいてくれ。
わしは、きっとこの子を立派な王に育て上げるぞ。」
そして、なんじゃ王は、生後4日目から、ほんじゃ大学の学生をアルバイトに雇って王子に教育をしたのでした。
なんじゃ王の家系は、代々賢い人が多かったのですが、王子もその例に漏れず、いや、その例以上に聡明でした。
王子の特徴は、頭が非常に大きかった事が上げられます。
だから、よくコロンコロンと床に転びました。
なんじゃ王は、たいそう心配して、お城の床という床をすべて分厚い絨毯をひかせ、庭には、柔らかい芝を一面に植えました。
なんじゃもんじゃ物語 12
聡明な王子は、一才のとき言葉を流暢に喋りました。
二才のときは、なんじゃ王国、もんじゃ王国の共通言語であるホモホモ文字を何の苦も無く覚え、右手などはいざ知らず左手、はては足で書くまで上達したのです。
もう、ホンジャ大学文学部国文科のアルバイト学生は、教える事が無くなり、その明晰な頭脳にもかかわらず、二才の子供に自分の専門分野である国文の知識を全て吸収されたので、職を辞しすごすごと大学へ戻っていきました。
なんじゃ王が、王子の二才の誕生日のお祝いに絵本を渡したとき、王子は言いました。
「 僕、絵本より三島由起夫の本がいいや。」
この言葉に、なんじゃ王はひどく驚き、また喜びもしたのでした。
三才のときは、漢文を習得しました。
「 夫天地者万物之逆旅、光陰者百代之過客。
而浮生若夢、為歓幾何。
古人乗燭夜遊、良有以也。
況陽春召我以煙景、大塊仮我以文章。
そうか、人生はもっと楽しく生きるべきものなのかな。
ええと、こっちの本は、何、何?
死諸葛走生仲達。
難しいな。
まず、諸葛と言う男が死んだんだな。
仲達は、葬儀屋に違いない。
だから、誰よりも先に注文を取ろうと諸葛の家へ走ったんだ。」
なんじゃもんじゃ物語 13
王子が五才になったときは、天文学、数学、物理学、化学、生物学、法学、経済学、哲学、歴史学、ものまね学まで学びました。
中でも、ものまね学の分野においては抜群の成績を修め、その中でも特にベンジョムシのものまねが非常に御上手でありました。
このものまね学は、王家にとっては非常に重要な学問で、革命などが起こった時、逃げ延びるために、あらゆる物に化けられるようになっておかなくてはなりません。
だから、もう数える事ができないほど昔から王家の学問として習われてきたのです。
今のなんじゃ王は、ゾウリムシのまねが、ことのほかうまく20年前に起こった革命の時などは、誰一人としてころがっているゾウリムシがなんじゃ王だとは思いませんでした。
その時の様子は、今も記録に残っています。
革命軍の兵士が叫びました。
「 なんじゃ王は、何処だ。」
なんじゃ王は、王室の床に転がって、手足を縮めてぶつぶつ言いました。
「 ゾウリムシ、ゾウリムシ。」
それを見た革命軍兵士は言いました。
「 なんだ、ゾウリムシか。
他の部屋を探せ。」
革命軍のボスが叫びました。
「 なんじゃ王を早く捕まえろ。」
それに答えて兵士は言いました。
「 まだ、見つかっておりません。
王宮には、ゾウリムシが一匹いるだけです。
もう少し御待ちください、必ずや吉報を持ってまいります。」
なんじゃ王は、二日間の間、夜も昼も、ゾウリムシ、ゾウリムシと城の中をウロウロしていました。
もう二日目には、くたくたに疲れておりましたが、いまにきっと王党軍が助けてくれると信じて頑張ったのです。
二日目の夜が明ける頃、お城の西にワーっと言う声が上がりました。
そうです、ついに王党軍がやってきたのです。
王党軍は、あっという間に、革命軍を鎮圧して王宮に入っていきました。
すでに革命軍は、四散して王宮は静まり返っておりました。
その静けさの中をどんどん進んで大広間に入りますと、何処からともなく、ゾウリムシ、ゾウリムシ、ムニャ、ムニャ、と言う声が聞こえてきました。
調べますと、大広間のタコの木の横で仰向けに倒れているなんじゃ王を発見したのです。
ここで、ムニャ、ムニャとなんじゃ王が言ってなかったら、見つからなかった所です。
そして、その日のうちになんじゃ王は、再び王座に座りました。
なんじゃもんじゃ物語 14
このように、大切なものまね学が得意である王子を、なんじゃ王は頼もしく感じておりました。
だからことあるごとに、なんじゃ王は王子に言いました。
「 お前の得意なベンジョムシの術をやってくれ。」
王子は、ぽっちゃりと太った体を丸込ませて、ベンジョムシ、ベンジョムシとなんじゃ王に見せたので、ますます上手くなっていきました。
そして、この術が王子の18番となりました。
さて、このベンジョムシなのですが、王子がそれを始めて見た場所は、お城の北の端の庭だったのです。
その日、王子は北の庭を散歩していました。
青々とした空に真っ白な雲がふんわりと浮かび、お日様の光りが王子の背中を柔らかく包んでいました。
「 本当に、今日は気分のいい日だなあ。」
肺の中をすみからすみまできれいにするような、清々しい空気を胸一杯吸い込み王子はつぶやきました。
そして、空を見上げました。
その時、王子はバランスを崩しコロンとひっくり返りました。
ひっくり返った王子は、柔らかい芝生の絨毯にふんわりと包まれ、ふと左を見ました。
すると、アルマジロを上下左右から圧縮して手足をいっぱい付けた変な虫が、王子の背中から逃げようと手足をばたつかせているのが見えたのです。
「 むっ、これは確かベンジョムシ、我が国のなんじゃ大百科全集に載っていたのを覚えているぞ。
別名ダンゴムシとか言ったな。触るとダンゴみたいに真ん丸になるとかいてあったけど本当かな。
試してみよう。」
好奇心の強い王子は、人差し指で突付いてみました。
驚いたのは、ベンジョムシ君です。
くるくるっとまるこまって、じっとしていました。
王子は、じっと見ていました。
一分たち、二分たち、三分たった頃、ベンジョムシ君は、もういいかと体を伸ばして早くこんな危ない所から逃げようとしました。
王子は、また突付きました。
ベンジョムシは、また驚いてまるこまりました。
一分たち、二分たち、ベンジョムシ君は、もういいかと体を伸ばし始めました。
また、王子は突付きました。
一分がたちました。
ベンジョムシ君は、疲れた感じで体を伸ばし始めました。
王子は、しつこく突付きました。
ベンジョムシ君は、疲れたにも関わらず我慢して、まるこまりました。
30秒がたちました。
ベンジョムシ君は、あほらしくなって体を伸ばしました。
王子は、それでも突付いてみたのです。
今度は、何回触ってもまるこまりませんでした。
ベンジョムシは、悔しかったらお前まるこまってみろと、じっとしていました。
その時、王子は初めて自分の体をまるこませました。
ベンジョムシは、これはチャンスとばかりに、たくさんある足をもつれさせないように逃げていきました。
王子が、顔を上げた時は、もうベンジョムシはいませんでした。
その一部始終を見ていた、ものまね学のワールシュタットヒンデンブルグノーベル教授が絶賛したことに気を良くして、それ以来ずっと得意技として王子は磨いてきたのです。
なんじゃもんじゃ物語 15
そんな王子が、12才を迎えた時、異変が起こりました。
なんじゃ王が、王子の12才の誕生パーテイ―を盛大に開いた時の出来事です。
なんじゃ国はもちろん、もんじゃ国、ホンジャ島の貴族、知識人から平民に至るまで、ありとあらゆる人をお城の大広間に招き、色々な国の豪華な料理から珍酒まで振るまったのです。
この席で、王子は珍酒をがぶ飲みし、パーテイーが終わって部屋へ帰る途中、階段を踏み外しました。
がらがらどすんと言う大きな音に隠れて、聞こえるか聞こえないか分からないほどの小さな歯車が転がる音が、コロンとしたのです。
その音がした直後、王子は、ものまね学以外の学問は忘れてしまいました。
医者は、一時的な記憶喪失だから、だんだんと記憶は戻ってきますと言いましたが、なんじゃ王は心配でたまりません。
なんじゃ王は、これまでも王子をお城からださなかったのに、さらに強く王子がお城から出る事を固く禁じたのです。
王子は、お城で一番高い塔の上から、お城の外を眺めました。
東に見える青々とした海、西に見える小さなナンジャ山をぐっと押さえつけて上から覗き込んでいる背の高いホンジャ山、南の方には町に続く一本道が、ナンジャ山の中腹にあるお城から遠く下の方へのびていました。
その道の終点にある町では、蟻を十分の一に縮めた様な人がうごめいているのが見えました。
お城に続く一本道の利用者は、ホイ大臣とお城に勤めている2人の男の召使、それにお城の修理にやって来る大工たちのみで、エッチラオッチラ道を上ってきては、夕方頃帰っていく彼らを見ながら、王子は外に出てみたいなあ、と何時もつぶやいていたのでした。
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