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原田 泰 (はらだ・ゆたか)
名古屋商科大学ビジネススクール教授
1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。
経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。
20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
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日本政府は、これまで国内総生産(GDP)の1%に抑えられていた防衛費を北大西洋条約機構(NATO)諸国が目標とする2%に増額することを決定した。これに合わせて、増加分を税で調達すべきか、国債で賄っても良いのかの議論が盛んになっている(例えば、「防衛費財源、国債か増税か 政府内二分「首相はセンスない」怒号も」毎日新聞2022/12/13)。
〇現在の防衛費増額は将来の国民のためでもある
筆者は、防衛費が将来の国民を守るためのであるなら、国債で負担しても良いはずだと思う。
そもそも、戦時には愛国国債が発行され、戦費が国債で賄われる。
愛国国債より軍事公債が正式名称だが、戦時国債を買うことは愛国心の発露とみなされていた。
日清戦争では戦費の30.7%を日銀からの借入金で、20.0%を公債で賄う計画だった(小野圭司『日本戦争経済史 戦費、通貨金融政策、国際比較』日本経済新聞出版社、2021年、表4-2、109頁)。
日露戦争では、内債で42.4%、外債で40.1%、合わせて82.5%を借金で賄うこととされていた(同表5-6、143頁)
日華事変から太平洋戦争の戦費は、公債金で61.4%、現地通貨借入金で24.5%を賄った(同表7-6、216頁)。
現地通貨借入金とは、日本が占領地でお札を刷ってそれで戦費を賄ったということである。
日本の刷ったお金は無価値になったから、現地でお金を借りて踏み倒したのと変わらない。
今までも借金で賄ったのだから、今回も借金で賄えば良いと言ったら、日清日露の戦争では、実際に戦争したときに借金で賄っているのであって、軍備増強の時には借金をしていないという反論があるだろう。
〇税でも国債でも国民の負担は変わらない
しかし、多くの人が誤解しているが、必要な防衛費を国債で調達しようが、税で調達しようが、国民の負担が変わる訳ではない。
なぜなら、防衛費を増額するとは戦艦、戦闘機、ミサイル、弾薬をこれまで以上に購入し、自衛官の増員、自衛官の待遇改善などにお金を使うことだ。
それらは、現在の世代が武器を増産し、現在の世代から自衛官を増員することだ。未来から、武器弾薬や自衛官をタイムマシンで持ってくることはできない。
すなわち、現在の世代の生産しているものを削って自衛力を増強しなければならない。
要するに、資金調達の手段に依らず、現在の世代が負担するしかない(野口旭『反緊縮の経済学』(4)負担を負うのは誰なのか、278-281頁、東洋経済新報社、2021年)
もちろん、外国から輸入すれば、現在の世代の負担になることなく、武器弾薬を増やすことができる。
このお金は、将来、外国に返さなければならないから、将来世代の負担になる。
日露戦争の外債による戦費調達は、確かに将来の国民の負担になっただろう。
また、太平洋戦争の戦費を、借金でなく税で調達したら何か良いことがあっただろうか。
税で調達しても国債で調達しても、無駄に多くの人が死んだことは変わらない。
つまり、税か国債かより、何に使うかが大事ということだ。
従来の「中期防衛力整備計画」に代わる「防衛力整備計画」(2022年 12 月 16 日閣議決定)が発表され、長距離射程のミサイル、航空機や艦船の装備品などの維持整備、自衛隊の施設の老朽化対策、無人機、宇宙、サイバーの分野に防衛費を増額するという。
素人の筆者なりに考えると、マッハ10や変則軌道を飛行するミサイルを打ち落とすことはできないので、防衛ミサイルの購入を減らして敵基地攻撃用のミサイルを購入することになる。
早く言えば、パトリオットの購入を減らして、トマホークまたはその強化型ミサイルを購入し、いずれ国産化するということだ。
常識で考えて、飛んでいる敵のミサイルを打ち落とすより、地上にある敵基地を攻撃した方が簡単だから、筆者は安くつくと思う。
ついでに言えば、将来、敵のミサイルが進歩するとパトリオットが役に立たなくなるのだから、現在、ウクライナに供与すれば良いと思う。
今なら敵のミサイルを打ち落とせる。
インフラや住宅を守るためのパトリオットなら、専守防衛で、日本の現在の法律にも違反しない。
米国がパトリオットを供与すると報道されているが、ウクライナにとっては、いくらあっても良いだろう。
弾薬や修理部品などの装備品の購入を増やし、それを貯蔵できる頑丈な倉庫を作ることも必要だろう。国を守る自衛官の宿舎がボロボロでは申し訳ないから、改築する。給与面での待遇改善も必要だろう。
無人機などは、初期には輸入となるのかもしれないが、ライセンス生産できるようにならないと、修理やいざという時の増産ができない。
つまり防衛費の増額とは、宿舎や弾薬庫という鉄筋とコンクリートの公共事業と、国産機械類を購入し、一部を外国製品に頼るということである。
防衛費の増額とは、景気刺激のための公共事業の増額とあまり変わりはないのではないか。
〇どれだけの防衛費が必要なのか
防衛費の増額とは、現在GDPの1%の防衛費を2%にすることだ。
すなわち、現在5.4兆円の防衛費を倍にすることだ。
ただし、防衛費を1%以下にするために、防衛費の範囲を極力狭く解釈してきたが、2%はNATO基準であるので、より広い概念の防衛費になる。
そうすると、4兆円ほどの増額で良いようだ。
4兆円の増額と言っても、これは2027年度の目標なので、毎年0.8兆円ずつ増加させていくということである。
図
<下記URL
参照
>
は、ここ10年の当初予算と補正で増額した後の決算とを比較したものである。
赤が当初予算、青が決算、緑がその差額である。
決算ではなく補正後予算にするべきという意見があるかもしれないが、補正予算で大幅に増加しても決算ではあまり増加していないこともある。
最終的に重要なのは決算であるので、決算を採用した。
当初予算と決算の差額を見ると、16年と17年を除いては差額が1兆円以上となっている。
リーマン・ショックのあった09年には12.4兆円、東日本大震災のあった11年から13年まで毎年7~8兆円、コロナショックのあった20年には44.9兆円となっている。
これらの増額予算は、不況対策の公共事業にかなりのものが使われている。すると、防衛費の増加分も公共事業と同じようなものだから景気刺激のための予算として追加できるのではないか。
08年から20年までの差額の累計は94.3兆円、1年あたりでは7.3兆円である。
この差額はみな国債の増発で賄われている。
防衛費のための4兆円ほどの国債増発と比べることも考えてほしい。
〇むやみな補正予算の積み増しにストップを
もちろん、皆が4兆円ぐらいなら大丈夫、将来の国民のためになると言い出して国債を発行していたらキリがないという議論は分かる。
医療費も健康になれば将来の国民の利益になる。
教育は将来の国民を豊かにする。
国防費は将来の国民を守るためのものだから国債で賄うべきだと言い出せばキリがない。
筆者はいずれの主張も一般論で言えば正しいと思うが、キリがないからから増税したいという財政当局の言い分も分かる。
しかし、その前に、訳も分からず補正で積み増すことは止めてほしい。
そのためには、税か国債かの議論ではなくて、集めたお金を何に使うのかの議論がまず必要だ。
所得税に付加して増税した東日本大震災の復興予算は、まったく効果的に使えていない。
増税で調達しても、賢く使うための助けにはならないのだ。
それは筆者の『震災復興 欺瞞の構図』(新潮新書、2012年)
や「東日本大震災復興に高台造成はやはり必要なかった」、
『Wedge』2021年3月号の特集「東日本大震災から10年 「想定外」の災害にも〝揺るがぬ〟国をつくるには」などが指摘した通りである。