佐賀ひき逃げ事件、警察本部長が謝罪
(2006年 5月25日 (木) 12:39 読売新聞)
佐賀県唐津市厳木(きゅうらぎ)町で、厳木小広川分校5年家原毅(つよし)君(11)がひき逃げされ、重傷のまま放置された事件で、県警の御手洗伸太郎本部長は25日の定例会見で、「結果として容疑者は逃走し、家族や周辺住民に不安感を与えてしまい、申し訳なく思う。今後は事件の解決に全力を尽くしたい」と謝罪した。
御手洗本部長は会見で、道交法違反(ひき逃げ)などの容疑で24日に逮捕した唐津市船宮町、土木作業員坂口三之治(さのじ)容疑者(53)をいったん取り逃がしたことについて釈明。「不幸に不幸が重なった。(職務質問した)白バイ隊員は無線で連絡しようとしたが応答がなかったため、携帯電話で連絡した。しかし、現場の位置をうまく説明できず、その場を離れざるを得なかった。やむを得ない対応で、責任を問うのは酷だ」とした。
この事件について朝のテレビなどで警察がむちゃくちゃ非難されてましたが、今ひとつ理解できません。
警察は現場の証拠などから容疑者は比較的早期に特定し、指名手配をしました。
問題はその容疑者が白バイの職務質問にかかったにもかかわらず、本署に問い合わせる間に逃亡されてしまった、という点です。
ただ、もともと白バイ警官のは交通違反などを取り締まるために単独で行動してい(る事が多いはず)です。
交通違反の反則切符を切ったり、違反者を追いかけたりはするもの、基本的には強行犯などの逮捕を主な任務にはしていないはずです。
また、現行犯でもなく、凶器を保持しているような危険性もなく、現に逃亡しようとしているというのでもないのに、警察官が「何となく怪しい/似ている」という理由で被疑者の本人確認もせずに手錠を掛けるということは逆に警察権力の濫用であり、人権侵害になってしまいます。
つまり、(結果としては残念でしたが)白バイ警官もは責任を問われるほどの落ち度はないように思われます。
そもそも警察の組織としての使命は、犯罪予防、治安の維持、犯罪捜査、犯人の検挙というあたりにあります。
今回の容疑者は単なるひき逃げ犯人と推測され、連続殺人犯とか逃亡中の強盗などと違い他人に危害を加える可能性は低かったと思われます。
計画的な犯行ではないので、指名手配をした以上は捜査の網にかかるのは時間の問題だったのではないでしょうか。
佐賀県警としては重点捜査対象とはしていたでしょうが、佐賀県警のすべての人員を投入する(たとえば主要な交差点に警官をはりつけ、山狩りをする)までの必要性は認めていなかったと思います。
そして、結果的に犯人は逮捕されました。
それが勤務先の社長に諭されての自首であろうとなかろうと、逮捕された事実には変わりがないと思います。
5/21に事件が発覚し、2日後に被疑者を特定、3日後の5/24に逮捕されたというのは、ひき逃げ事件としても早い方なのではないでしょうか。
これで警察のどこに落ち度があったのでしょうか?
語弊があるかもしれませんが、テロや凶悪犯でもないひき逃げ事件で指名手配がされた場合に、少しでも似ている人は任意同行を求められたり身柄を拘束されたりしても仕方がない、という社会のコンセンサスがあるのだとしたら、そう言う考え方のほうが危険だと思います(少なくとも僕はそういう風に警察権力が行使されるのは好きではありません)。
ここ数回内部統制のエントリを書きましたが、内部統制は「どんなに利益が上がろうと悪い事は行わない」という反面、「何が悪い事か」についての基準や運用の一貫性が求められると思います。
そしてその一貫性は、法令や会社の価値基準に基いたものである必要があります。
世の中の価値基準の変化にも敏感である必要はありますが、そのときにならないとペナルティがわからない、というのではルールとしては不適当です。
いわんや、外部からの根拠のない非難に対していちいち過剰反応し組織内からスケープゴートを出すようでは、かえって組織の求心力は失われてしまいます。
今回、佐賀県警本部長が被害者の感情やマスコミの煽りに対し、情感処理として事実行為としての謝罪しながらも「やむを得ない対応で、責任を問うのは酷だ」と言明し、部下も含めた理由のない非難に反論することは、組織の責任者として立派な対応だったと思います。
ひるがえって、民間企業の話をすると、最近各社が「内部統制の構築について」というリリースを出していますが、中には「レビュー」とか「モニタリング」とかアルファベット3文字名の委員会などが満載で、いかにもコンサル会社に(大枚はたいて)作らせたものをそのまま使っているようなところが見られます。
※たとえば
各部門が実施すべき具体的なアクションプランとその達成度を測る指標としてのKPI(Key Performance Indicator)を各部門で策定、設定し、
なんてのがありました。(以前からあったとしたらごめんなさい、ですが)いきなりこんなこと言われて社内がついてくるのでしょうか?
まあ、もともといきなり会社法で「構築しろ」と言われてしまったという事情もあるのですが、組織の目的とかあるべき姿が伝わってこない「よそ行き」の内部統制を構築しても仕方ないんじゃないかと思います。
こういう「よそ行きの内部統制をとりあえず作っとけ」という経営者がいるような会社は、何か非難を浴びると、すぐトカゲの尻尾切りをするんだろうな、と、佐賀県警の記事を見ながら思った次第です。