ランドスケープデザイナーで、アクロス福岡の植栽などを手掛け今は岩手県でクイーンズ・メドゥ・カントリーハウスという馬の放牧と農業を中心とした活動も行っている田瀬理夫さんへのインタビューを中心とした本。
<アクロス福岡:提供 福岡市>
田瀬さんのいい意味での力の抜け方と、原理主義的にならず実践に向けた筋を通した考え方は、甲野善紀氏の身体の使い方とも共通する感じがする。
「捻らない、タメない、うねらない」というのは人生の技法としても重要なのかもしれない。
以下、備忘を兼ねて引用
日本の土地は山林も都市も、所有によって線引きされ細分化している。持ち主は死んでいなくなってしまうし、相談を受ける人もどこかへ行ってしまっていて・・・というような例がどんどん目に見えてきていますよね。
けれどもランドスケープというか景色には、本来的に境界線などないわけです。
(中略)
明治の地租改正と、戦後のGHQによる左寄りの政策や税制を通じて、この国の土地は細かく分割されてきた。古い法律がまだ生き残っていてものごとを破壊しているというか、それが故に生じている不合理なことがたくさんあるんですよね。
これから地上については、所有を超えて使ってゆくやり方をつくり出してゆくことになると思う。
いまは建物を建てるための土地は買わないと自由にできないけれど、ただ使いたいまわりの土地については借りればいい。地権者には、どう使うかという展望がないわけですから。
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その地域に住んでいる人たちが、本当に夢中になってやっていることが表に出てくるというか、それが結果としてまちにもなれば、景色にもなる。そういういのがいいんじゃないかと思うんですよね。本物をやるというのはそういうことでしょう。
田舎や地方の景色が汚くなっているのは、農業や林業がちゃんと生業になっていないからだと思う。
農業でいえば、たとえばいまはもう大半が兼業農家であって、農民ではない。専業農民なんてほとんどいないわけです・・・
国内の田んぼの大半は兼業農家の仕事だけど、兼業ではろくな農業は出来ませんよ。休日しか働けないのだから。田植えと稲刈りをやるだけで、その間は除草剤と農薬だけ散布してなにもしない。
時間を投入してないし、大量に薬を散布して、買ってきた機械で仕事を済ませていて、息を呑むような田んぼや山里の景観は、国内でも本当に限られているんじゃない?
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本当にこの国の農業を持続させたいのなら、たとえば農業を学びたい若者の学資ローンは国や自治体が引き取って清算するような枠組みでも用意しないことには、いくら本人が始めたくてもできないと思う。農家の個別補償なんてしていないで、将来の世代に投資してゆかないと先がないですよね。
・・・結局いちばん低いレベルに合わせた政策ばかりで、状況を引っ張ってゆくはずの人たちの輝きを損ねてしまっている。
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(沿岸部の震災復興について)沿岸部の状況にかかわっていったところで、プランニングしようのない状況が容易に想像できてしまうというのもある。
国や県や市町村が土木系のコンサルタントと一緒に絵を描いて、大事なところはもうあらかた決めた時点で住民に公開する。「これをつくる」「ここにつくる」「いつまでに完成させなければならない」「そうしないと予算そのものがなくなってしまう」という具合に。
そんな風に進めておきながら、「住民側から提案が出てこない」なんて失礼な話ですよね。
でも実際のところ住民側からは出せないと思いますよ。そういう訓練をしてきていないのだもの。
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機会や経験が足りないんですよ、「これからの社会づくりは参加型で」とか急に言われても、パブリック・マインドがまだ訓練されていないんですよね、「かかわる」ことについて。
そういうことに慣れていないから、大人のくせに「絆」とか「一丸になって」とか、ちょっとしたヒューマン・ストーリーにすごく感動してしまったりするんです。ちょっと子どもじみているよね。
でもそれは親の責任がどうこうという話だけでなく、まちや地域が、そういう空間になっていないんです。
マンションに人が住んでも、コミュニティが形成されるわけでもなく、あれは集合住宅というよりただの「住宅集合」ですよね。
なんのための集合化・高層化かといえば、それによって生まれる公共的な空間の質を高めて環境を良くしてゆくためであって、逆にそれがないとしたら、集合することの社会的な意味合いはほとんど失われる。
むしろ、都市の環境に負荷ばかりかけてゆく。
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自分ができないことについて、出来るようにならなくちゃいけないとは、あまり考えたことがないんです。事務所のありかたについてもそうで、「こうするもんだ」とか「これくらい人数がいなきゃ」とか「こういう資格を持っている人がいないと役所の仕事はできない」とはあまり気にしないでやってきた。
それよりも、「誰がどんなことをやっているか」ということのほうに興味を持ってきました。
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