事実は小説より生成り。
ポール・オースターがラジオ番組のためにリスナーがつづった実話の中から精選した作品集。
このアンソロジーには179の物語が入っている。過去1年に送られてきた四千点のうち、私から見て最良の物語がここに収められている。と同時にこれは、いわばナショナル・ストーリー・プロジェクト全体のミニチュア版というか、全体の傾向を伝えるような選択にもなっている。この本に収められることになった、夢、動物、なくした物等々に関する物語一つひとつに対し、代わりに選ばれてもよかった同テーマの物語がそれぞれ何ダースかずつあったのだ。
これらの物語をあえて定義するなら「至急報(ディスパッチ)」と呼びたい。つまり、個人個人の体験の前線から送られてきた報告。アメリカ人一人ひとりのプライベートな世界に関する物語でありながら、そこには逃れがたい歴史の爪あとが残っているのを読み手はくり返し目にすることになる。個人の運命が、社会全体によってかたちづくられていくその入り組んださまを再三再四思い知らされるのだ。
一編一編がとても面白い。
また、「普通の人々」などいない、それぞれの人生がオリジナルな喜怒哀楽に満ちているということを改めて考えさせられる。
翻訳は柴田元幸ほか。
いろんな人の語り口を生き生きと訳してくれている。