一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

タカチホの「穏便モード」

2010-09-07 | コンプライアンス・コーポレートガバナンス

タカチホの 分配可能額を超えた前期末の配当金に関する一連の経緯及び再発防止策について

toshiさんも書かれているのですが、全体に「単なる計算ミスで悪気はなかったんだからいいじゃないか」というトーンを感じて、なんとなくすっきりしません。  

特に、外部調査委員会の報告書で取締役・監査役の責任に触れたくだり。  

(2)会社法上の填補責任分配
可能額規制に違反して配当が行われた場合、会社法上、手続に関与した取締役が填補責任を負う場合があり、また監査役についても善管注意義務違反による損害賠償責任を負う場合がある。 
しかし、本件調査によれば、株式会社タカチホの取締役らは、分配可能額が存在しないことを認識しながら本件配当を行ったものではなく、計算方法を誤って分配可能と誤信したに過ぎないから、態様として悪質であるとは言い難い。 
また本件配当にあたり、資本準備金を減少させその他資本剰余金を増加させれば適法に分配可能額を作出することは可能であったことなどを総合考慮すれば、会社債権者に対するマイナス要因もそれほど大きくはない。 
また、株式会社タカチホは本件配当に関与した取締役全員の報酬を平成22年9月から2ヶ月間にわたり3割減額し、本件配当に関与した常勤監査役も月額報酬の3割を2ヶ月分にわたって自主返上することとされており、あくまでこの限度においてではあるが、会社財産の 回復も見込まれる。 
さらに、対象会社は、再発防止策にも積極的に取り組む姿勢を見せている。
このような事情を総合的に考慮すれば、本外部調査委員会としては、対象会社の取締役に対して填補責任を、監査役に対して善管注意義務違反に基づく損害賠償責任を追求する必要性までは認められないものと判断する。  

会社法上の違法配当の填補責任(会社法462条の2)は

前項の規定にかかわらず、業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない。  

と過失責任なので「故意はなくて誤信した」場合も過失があった場合には免責にはならないはずです。

タカチホは臨時株主総会を開いて資本準備金をその他資本剰余金に振り替え(参照)て資本欠損を回避するので、これで会社計算としては治癒されるのかもしれません(この辺は自信なし)が、第三者調査委員会や臨時総会の招集にかかる費用は実損になるわけで、そこの部分の善管注意義務違反による責任は少なくともあるでしょう。  

ちなみに22年3月期の有価証券報告書によると、取締役報酬56,740千円、監査役報酬10,143千円でこれを2ヶ月3割減額すると(賞与はOと仮定)334万円になり、これでは実損には足りなそうです。  


僕は、会社の個々の不正について事後的に監査役の結果責任を問うのは行き過ぎだと思うのですが、違法配当=総会付議議案の適法性をチェックするというのは監査役の本来の仕事(これをしなくて何をするんだろう)なので、ここは「気がつかなかったから仕方がない」というのはさすがにゆるすぎると思います。

そもそも外部調査委員会というのは、「責任の有無」を第三者的に判断するのが仕事で、「責任追及の必要性」を判断するのは取締役に対してなら監査役でありまた株主のはずです。  
なんとなく外部調査委員会も「剰余金に振り替えれば資本の欠損もしないし、単なる計算ミスなんだから大事にするのはやめよう」という判断が前提にあるように思います。  

そうやって「馴れ合い」を疑いだすとキリがなくなるのですが、ちなみに長野県弁護士会のHPを見るとタカチホの本社のある長野市に事務所を持つ弁護士は60人、事務所数でいうと44(うち法テラス1)しかいません(参照)。
今回の外部調査委員会の委員は3人とも長野市内に事務所を持つ弁護士なので、けっこう狭いところで人選をしているようです。
これくらいの規模だと、外部調査委員会とかコンプライアンスだけでは食っていけないでしょうから、自然と「波風を立てない」方向に向きがちというのは下衆の勘ぐりでしょうか。  

また、toshiさんが指摘されている内部統制報告書の訂正についても、外部調査委員会の報告書においても配当の適法性の確認に際して「計算方法を誤って分配可能と誤信したに過ぎない」(「過ぎない」とは思いませんが)--つまり「悪者」ではないが「節穴」だった--と認定されている以上、少なくとも全社的な内部統制には欠陥があったとすべきように思います。
(厳密に言うとJ-Soxの評価範囲には入っていないとは思いますが、監査法人は自らが見つけた決算の修正や不正などがあった場合には評価範囲に関わらず「全社的内部統制の欠陥」と言っている事例との比較感では、自分がミスった際には甘いのかなという感じがします。) 


確かに悪意はないのかもしれませんが違法配当は違法配当ですし、しかも配当の違法性は治癒が可能であるならば、責任の所在をぼやかせずに所定の手続きや責任(損害額はそれほどでもないだろうし)をとったほうが今後の会社の内部統制への信頼回復につながると思います。
反面、この会社と関係者は「穏便モード」で行こうと思っているようですが、それが吉と出るか凶とでるかは、今後同様の事例の試金石としても興味があります。



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2 コメント

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こんにちは(ご無沙汰しております) (toshi)
2010-09-07 14:07:44
興味深くよませていただきました。
実名ブログなので、あれでもかなり「穏便モード」で書いたこと、ご理解ください(笑)
go2cさん同様の理由で「しかたないかも」とも思ったのですが、上場会社であることは間違いないし、投資対象となるわけですから。
今日も、ある新聞社の方から取材を受けましたが、「内部統制報告書の訂正」については有識者の間で賛否両論あるそうです。
私は訂正必要派なのですが。。。
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コメントありがとうございます (go2c)
2010-09-07 23:28:50
私も訂正はしたほうがいい派です。
ここまできて無謬性にこだわるのは頭かくして尻隠さずですよね。
面子や見栄にこだわる会社が増えると、だったらダイレクト・レポーティングにしろよ、という話にもなりそうです。
まあ、個人的にはそうして一定数の企業が「重要な欠陥あり」とされたほうがいい意味で免疫がつくような感じもしますが。

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