一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

弁護士と利益相反

2006-05-05 | 法律・裁判・弁護士

5/2の朝日新聞の「私の視点」というコラムにピーター・アーリンダー(弁護士・米ウィリアム・ミッチェル・ロースクール教授)氏の「保険金不払い キツネに鶏の番をさせる愚」という文章が載っていました。

そこではこの3月から始まった明治安田生命の「保険金・給付金のお支払いに関する不服申立制度」の問題点を指摘しています。

なぜだかこの制度、会社のHPからは削除されているので制度の概要をリリースにそって説明すると以下のようになります。

明治安田生命保険相互会社(社長 松尾 憲治)は、業務改善計画に基づき、保険金等のお支払いに関する不服のお申し出について、社外弁護士がお支払いに関するご相談に応じる「保険金・給付金のお支払いに関する不服申立制度」を2006 年3 月28 日に開設することといたしました。

■対象とするご相談
原則として、保険金等のお支払いに関して支払相談室のご説明ではご納得いただけず、第三者へのご相談をご要望される場合にご利用いただけます。なお、訴訟継続中の場合や生命保険協会裁定審査会への裁定申立、各弁護士会が行なう紛争解決センターによるあっせん手続き・仲裁手続きの申立が行なわれた事案などの場合は、本制度をご利用いただくことはできません。

■ご相談方法
当社と業務委託契約を締結した社外弁護士と、原則として直接面談方式で行ないます(名古屋・大阪では遠隔映像機器により面談方式でご相談いただけます)。

■社外弁護士のご説明について
社外弁護士は第三者の立場に立って、査定結果とお申し出内容の相違点を法令・約款に照らして、法的観点から整理し論点のご説明などをいたします。
・法的手続きに要する費用等の一般論および過去の判例等の一般的な法律相談を実施いたします。
・ご相談の結果、お客さまが要望される場合、および社外弁護士が再査定を相当と判断した場合は、当社支払査定部署に対して再査定を要請いたします。再査定にあたっては、「保険金等支払審査会(他の社外弁護士を含んで構成)」に審査を依頼いたします。

■ご相談費用・ご相談費用は原則として無料といたします。

■その他・本制度によるご相談案件に関し、当社とお客さまの間に法的紛争が生じた場合、当社は社外弁護士を代理人とする訴訟等委任は行なわず、社外弁護士はお客さまからの訴訟等委任は受任いたしません。

アーリンダー氏は、”加害者”である会社と契約した弁護士から”被害者”である顧客がアドバイスを受けると言う制度の矛盾を指摘します。つまり、弁護士は依頼人の利益のために行動するのが使命で、対立する第三者へのアドバイスは利益相反であり、そもそも「第三者的なアドバイス」は期待できない、ということです。 上の青字のところが矛盾している、ということですね。

相談に行った人が、「金に困っているから早く処理したい」という秘密をその弁護士に語ったとき、その弁護士はその秘密を会社に伝えないといえるのか。それを知った会社は、交渉上有利になるのは確実だ(中略)
「第三者」を装った弁護士が被害者の情報を収集、あるいは被害者が真に自分の利益を守ってくれる弁護士に依頼し、会社を訴えるなどという方向に行かないように操作する。このような親切ごかしの手法で被害者を「囲い込む」ことが日本では広く行われている、という。

前段の利益相反の指摘はもっともだ思いますが、私はその程度の事は日本の消費者もお見通しなので、この制度自体が利用されないのではないかと思います。
利用されないことを承知で世間へのアピールのために作ったとしたらそれはそれで問題だと思いますし、もし機能させるなら、弁護士会でも間に入れて「資金は提供するが運営は弁護士会が行う」くらいの客観性を持たせたほうが良かったのではないかと思います。

なので、後段のようなことが「広く行われている」ほど日本の企業がひどいとは私は思っていないので、ここまで言われるとせっかくの鋭い指摘が偏見を根拠にしているようでちょっと残念です(だからアメリカ人は・・・とかアメリカの弁護士は建前はさておき実際もそんなにご立派なのかい?と言いたくなってしまいます)

ところで、この「第三者の立場にたつ当社と業務委託契約を締結した社外弁護士」という業務は受託可能なのでしょうか?

久しぶり登場の日弁連の弁護士職務基本規程によれば

第三十二条 弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があってその相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受任するに当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。

とあるので、相談者に「第三者といっても依頼者は保険会社ですけどいいですか」と言えばいいのでしょうが、それだと機能しませんね。

第二十条 弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。
第二十一条 弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。
第二十二条 弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。

この辺の条項を根拠に、「依頼者が「第三者的に判断してくれ」と言っているのだからそれを尊重して判断すれば、利益相反の問題はなく第三者的なアドバイスができる」というようなロジックを組んでいるのでしょうか。
「依頼者の利益」よりも「自由かつ独立」が先にたっているので「弁護士は大所高所から適正な判断と行動ができる」という考えが根底にあるとすれば、それほど悩まなくて済むのかもしれません(それが世間の期待している弁護士像と一致しているのか、という論点はあると思いますが)。


先ほどのようにあしざまに言われると腹が立つのですが、確かに日本では従来弁護士の利益相反問題とか守秘義務は比較的大目に見られているような感じもします。
ただ、今後証券化とかM&A取引が広がる一方で、西村ときわ法律事務所とあさひ狛法律事務所の合併のように大手ローファームの寡占化が更に進むとクローズアップされてくるかもしれませんね。

コメント (6)
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「株主提案について」について(村上ファンドvs阪神電鉄)

2006-05-04 | M&A

村上ファンド、阪神取締役の過半数要求
(2006年5月3日(水)22:10 朝日新聞)

5/2付の阪神電鉄のリリースはこちら「株式会社M &A コンサルティング関連ファンドの株主提案について」

上記のM&A コンサルティング社関連ファンドは、以下の9 名を取締役候補者とする議案を、本年6月の当社定時株主総会の会議の目的とするよう請求しております。

とあるのですが、そもそも多数が確保できるかが一番大事なのでしょうが、この株主提案に対する株主総会の決議の仕方細かいところをつめていくとけっこうやっかいそうです。
ちょっと思いついたところでは(あまり深く考えていませんので勘違いかもしれませんが)

取締役選任議案は個々の取締役ごとに賛否を投票することになるが、定款の員数以上の会社側の候補者について選任が可決された場合にどうなるのか(現行取締役は16人ですが、定款での上限が24人以下だとこの問題が生じます)

その場合、たとえば「賛成の票が多い順に定数まで」とかのルールについては議長権限で決められるものなのか(少なくとも招集通知には記載する必要があるような)

9名一括選任の議案として取り扱い、一括して否決した場合、適法な決議といえるか(逆に可決されるとシャレにならないですが。また、MACは現取締役1名を候補者に入れているのでその辺もややこしいですね)

という問題があるのではないかと思います。

※ ところで確かMACは40%超保有していたはずですが、今回の株主提案は22%分というところは、保有しているファンドの性格が違うという事なんでしょうか?


ところで、上のリリースで気になったのが「3 株主提案に対する当社の考え方」の書きぶり。
内容的にでなく、3の本文と(1)が(2)以下と文章のトーンが違うように感じられます。特に前者の方が読点(「、」)が多く、パソコンを打ちながら作った文章にありがちな推敲が足りない(してるとしてもディスプレイ上のみの)文章の感じがします。
今回の文章のポイントはまさに3本文および(1)なので(1,2はMACからの提案内容を書いただけですし、(2)(3)は以前に出した経営方針のくり返し)今回そこだけ誰か(弁護士とかアドバイザー)が書いたのかもしれませんね。

そのこと自体は悪い事ではないのですが、心配なのは、最終的に出す文章のトーンとか平仄を阪神電鉄の社内でチェックする余裕がなくなっているのではないかということです。

弁護士等に任せきりにして自分が考えるのを止めて判断停止になっているとか、「どうせ負け戦なのであまりコミットしたくない」という厭戦気分が社内にあるとか、どうも会社全体(少なくとも経営陣なり本件を担当しているスタッフ)として「やったるで!」というパワーが落ちているとしたらまずい状況だと思います。

阪急との「関係強化」についても具体的な進展がなく後手に回っている感は否めないので、タイガースファンとしては心配が続きます。

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暗号入り判決

2006-05-03 | よしなしごと

日本では「蛇足判決」(結論に影響を及ぼさない法的見解や事実判断などを判決文に書こと)を批判した井上薫元判事が、「判決文が短すぎる」と再任拒否されて辞職(再任申立てを取り下げ)した、という事件がありましたがイギリスでは、『ダ・ヴィンチ・コード』の盗作をめぐる裁判(こちらのエントリ参照)の判決文に判事が暗号を仕込んだ、ということで盛り上がっているようです。

BBC NewsのJudge creates own Da Vinci codeによると

The judge who presided over the failed Da Vinci Code plagiarism case at London's High Court hid his own secret code in his written judgement.
Seemingly random italicised letters were included in the 71-page judgement given by Mr Justice Peter Smith, which apparently spell out a message.
Italicised letters in the first few pages spell out "Smithy Code", while the following pages also contain marked out letters.

71ページにわたる判決文の中にイタリック(斜体)の文字がちりばめられていて、最初の数ページをつなぎ合わせると"Smithy Code"(判事はPeter Smithという名前)になり、その後が暗号になっているという仕掛けです。

"I can't discuss the judgement, but I don't see why a judgement should not be a matter of fun,"

「判決の是非については議論すべきものではないが、そこにちょっとした仕掛けがあったからって悪くはないだろう?」というような感じですかね。

このへんが英国流のユーモアなんでしょう。


以上が4/27の記事です。その記事の中でも

Mr Justice Smith said he would probably confirm it if someone cracked it, which was "not a difficult thing to do".

まあ、大して難しい暗号じゃないのでだれかが解明したら正解かどうかを認めるだろう、と言ってましたが、マスコミに取り上げられて挑戦者が殺到したためか、翌日には解かれてしまったようです。
それが4/28の記事Judge's own Da Vinci code cracked

暗号の回答は

"Smithy Code Jackie Fisher who are you Dreadnought."

というものでした。

この裁判が始まった日が、判事が尊敬する英国海軍のJackie Fisher提督が作った戦艦Dreadnoughtが進水した日のちょうど100年後にあたることにちなんだものだそうです。
Jackie Fisher提督はイギリス海軍を近代化した人物として知られています。

ちなみにJackie Fisher提督はこんな人。さすがに勲章をいっぱいお持ちですね。

戦艦Dreadnoughtはこんな船です。近代の戦艦、という感じです。

※余談ですが、Dreadnoughtの1906年竣工直後に日本は戦艦金剛をイギリスに発注してます(1910年竣工)。
 当時のイギリスの製鉄技術は高く、日本製のドリルでは鋼板に穴をあけられなかったというあたりはこちらのエントリ後半参照。
 なにはともあれ日本の近代化のスピードはかなりのものだったともいえます。

もともとSmith判事自身クロスワードパズルも嫌いとかで、『ダ・ヴィンチ・コード』でも出てきたフィボナッチ数列を使った簡単な暗号を40分程度で作ったそうです。


詳しくは産経新聞の記事(ダ・ヴィンチ・コードの判決文暗号 海軍提督浮上も新たなナゾ!?) もご覧下さい。
最後の部分が笑えます。

英各紙は大衆紙、デーリー・メールが解読した読者に1000ポンドの賞金を出すと言い出す中で解読したメッセージの報道をインターネット上で競い、どうやら一足先に「正解」を出したタイムズが勝ったようだ。ただ、解読合戦に疲れたのか、判決文に暗号を隠したという判事の行為の善し悪しは今のところ不問にしている。



もっともこれは暗号を埋め込んだだけですから、井上薫元判事が批判する「蛇足判決」にはあたらないとは思いますが、日本の裁判官がやったら間違いなく再任拒否されそうですね。


ところで、肝心の判決ですが、盗作とは認定されず、請求は棄却されたそうです。

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プチ達成感

2006-05-02 | よしなしごと


ボールペンのインクを最後まで使い切りました。

途中でインクが出なくなったりしたことは結構あったのですが、完全に使い切ったのは生まれてこの方2回目か3回目くらいです。

最近は字を書く機会が減ったこともあり、得がたい経験ではないかと^^
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マトリョーシカvsかぐや姫

2006-05-01 | あきなひ

本日5月1日は会社法の施行日です。

ということで何かそれっぽいエントリを書こうと思ったのですが、相変わらず与太話で失礼します(^^;


今回の会社法で新たに「合同会社」という会社の類型ができました。

有限責任社員(出資者)だけで構成され(ここが合資会社・合名会社と違う)、社員が業務執行するという、簡単に言えば民法上の組合に最低限の内部規律を決めて法人格を与えたようなものです。

この合同会社の社員は会社を代表して業務を執行することができ、社員は自然人だけでなく法人(株式会社や他の合同会社)でもなれることになってます。

(法人が業務を執行する社員である場合の特則)
第五百九十八条  法人が業務を執行する社員である場合には、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。

そして、合同会社の社員は商業登記の登記事項になってます。

(合同会社の設立の登記)
第九百十四条  合同会社の設立の登記は、その本店の所在地において、次に掲げる事項を登記してしなければならない。
 六  合同会社の業務を執行する社員の氏名又は名称
 七  合同会社を代表する社員の氏名又は名称及び住所
 八  合同会社を代表する社員が法人であるときは、当該社員の職務を行うべき者の氏名及び住所

そうすると、たとえば合同会社甲山商事の社員が株式会社乙川興産だとした場合、社員としての職務を行うもの(=自然人)を登記しないといけません。
仮にこの人を丙野太郎とすると、合同会社の契約書の署名欄は

合同会社甲山商事
 社員 株式会社乙川興産
   職務執行者 丙野太郎

みたいな書き方になるんじゃないかと思います。

ここで、合同会社の社員に合同会社がなった場合、そしてその合同会社の社員も合同会社ひとりしかいなかった(自然人のいない会社)だとすると、話はさらにややこしくなります。
たとえば

合同会社甲山商事
 社員 合同会社乙川興産
  社員 合同会社丙野物産
   社員 合同会社丁坂興業
    社員 合同会社戊山企画
     社員 合同会社己川総業
      社員 合同会社庚野商会
       社員 合同会社辛坂本社
        社員 合同会社壬山興発
         社員 合同会社癸川産業
          職務執行者 山田太郎

というようなこともありえるわけです。
まるでマトリョーシカ(ロシアの入れ子人形)みたいですね。

この場合、商業登記簿や印鑑証明書などもこのようにマトリョーシカ風に書くのでしょうか。
それとも「竹を割った結果かぐや姫が出てきたことが重要で、竹の皮が何枚はがれたかは重要でない(=最後に職務執行する自然人が特定できればいい)」として

合同会社甲山商事
 職務執行者 山田太郎

と中間省略してしまうのでしょうか。

業務執行した社員の責任追及の問題とか途中の会社が組織変更をしたりした場合に継続性を追いかけられなくなってしまうと大変なので、法務局的にはマトリョーシカなのではないかと思うのですが・・・

ひょっとすると上の商法598条は、合同会社の職務執行をするためには住所および氏名のある職務執行者を選任できる法人(=社員に自然人がいるか従業員のいる合同会社)でないといけない、と読むのかもしれませんが・・・

どなたかご存知なら教えてください^^

コメント (2)
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